仮声帯とは|読み方・別名・英語と真声帯との違い
仮声帯とは、声帯のすぐ上にある左右1対の粘膜のヒダのことです。声を出すための本来の声帯(真声帯)に似た形で平行に並んでいるため「仮の声帯」と呼ばれますが、ふだんの会話や歌ではほとんど振動せず、主に喉のふたとして働いています。まずは名前の意味と、声帯との違いを整理しておきましょう。
仮声帯の読み方と別名
仮声帯の読み方は「かせいたい」です。解剖学ではほかにも呼び名があり、医学書や論文では次の別名で登場します。どれも同じ部位を指しています。
- 室ヒダ(しつひだ):すぐ下にある「喉頭室」というくぼみの上の縁を作ることから。「室襞」と漢字で書かれることもあります
- 前庭ヒダ(ぜんていひだ):喉頭の入り口の空間「喉頭前庭」の下の縁にあることから。「喉頭前庭ヒダ」とも呼ばれます
- 偽声帯:英語のfalseを直訳した呼び方で、古い資料に見られます
仮声帯の英語表現
仮声帯は英語でfalse vocal folds(false vocal cords)と呼ばれます。カタカナで「フォールスコード」「フォルスコード」と表記されることもあり、海外のボイストレーニングやスクリーム系の教材では「false cord scream」のように技法名にも使われます。解剖学の用語ではventricular folds(室ヒダ)、vestibular folds(前庭ヒダ)という言い方が一般的です。英語の教材を読むときは、この3つが同じものだと覚えておくと混乱しません。
仮声帯と真声帯の違い
仮声帯と区別するために、下にある本来の声帯は真声帯(しんせいたい、true vocal folds)と呼ばれます。両者は見た目こそ似ていますが、中身と役割がはっきり違います。
| 比べる点 | 真声帯(声帯) | 仮声帯 |
|---|---|---|
| 位置 | 下側(喉頭室の下) | 上側(喉頭室の上) |
| 中身 | 声帯筋と靭帯を含む厚いヒダ | 筋肉が少なく、粘液を出す腺が多い柔らかいヒダ |
| 発声での働き | 振動して声の元の音を作る | ふだんは振動しない。力むと寄ってきて雑音を足す |
| 見た目 | 白っぽく、つるりとした縁 | ピンク色で厚みがある |
いちばん大事な違いは「声を作るのは真声帯で、仮声帯は基本的に声を作らない」という点です。仮声帯が声に加わるのは、力んで喉を締めたときや、がなりのように意図的に歪みを足すときに限られます。声帯そのものの仕組みは声帯の記事で詳しく解説しています。
仮声帯はどこにある?位置・場所と喉頭の解剖
仮声帯がどこにあるかを一言でいうと、喉仏(甲状軟骨)の裏側、声帯の数ミリ上です。首の外から触ったり、鏡で口の中をのぞいたりしても見ることはできません。ここでは喉の中の位置関係を、上から順番にたどっていきます。
喉頭の中での仮声帯の位置
口や鼻から入った空気は、咽頭(のど)を下りて喉頭という器官に入ります。喉頭は声を出す器官であり、気管の入り口を守る門でもあります。喉頭を正面から縦に切った断面(解剖図でいう前額断)で見ると、上から次の順に並んでいます。
- 喉頭蓋(こうとうがい):舌の付け根の後ろに立つ木の葉の形のふた。飲み込むときに倒れて喉頭の入り口をふさぐ
- 喉頭前庭:喉頭蓋から仮声帯までの、玄関のような空間
- 仮声帯:左右の壁から張り出した1対目のヒダ
- 喉頭室:仮声帯と声帯のあいだにある横長のくぼみ
- 声帯(真声帯):左右から張り出した2対目のヒダ。左右のすき間が声門
- 声門下腔・気管:声帯の下から肺へ続く空気の通り道
つまり仮声帯の場所は「喉頭蓋より下、声帯より上」で、声帯とのあいだは喉頭室のくぼみで隔てられています。この並び方のため、仮声帯は声門より上の構造(声門上部)に分類されます。
喉仏との関係と大きさ
喉頭の外側を囲んでいるのが甲状軟骨で、その前方の出っ張りがいわゆる喉仏です。声帯は喉仏の出っ張りのやや下の高さに前後方向に張られており、仮声帯はそのすぐ上に同じ向きで並んでいます。声帯と仮声帯の上下の距離はおよそ数ミリから1センチ前後と非常に近く、そのため声帯が力むと仮声帯も一緒に寄りやすいのです。
喉の奥を上から見たときの見え方
耳鼻咽喉科の内視鏡で喉を上から見下ろすと、手前に喉頭蓋、その奥に左右のピンク色の仮声帯、さらにそのすき間の奥に白っぽい声帯が見えます。仮声帯は声帯より外側(壁側)にあるため、上から見ると声帯の縁を少し覆うように位置しています。仮声帯が強く寄ると、この「上からの視界」で声帯が隠れて見えなくなるほどです。喉を上から見た声帯の形は声帯の記事の図解も参考にしてください。
仮声帯の構造と役割|筋肉・神経・嚥下や咳での働き
声を作らないのなら、仮声帯は何のためにあるのでしょうか。仮声帯の主な役割は「気道を守るふた」と「喉を潤す粘液の供給」の2つです。中身の構造から順に見ていきます。
仮声帯の中身と筋肉
仮声帯は粘膜の下に、細い靭帯(室靭帯)と脂肪、そして粘液を出す腺がたくさん詰まった柔らかいヒダです。声帯のように太い声帯筋を持っていないため、仮声帯自体の筋肉はごくわずかです。仮声帯の中を走る細い筋線維は、甲状披裂筋という喉の筋肉の一部が上に伸びたものと考えられています。
そのため仮声帯の動きは、主に周りの軟骨や筋肉に引っ張られて起こるものです。披裂軟骨が内側に寄ったり、喉頭全体が上がって前後に縮んだりすると、それにつられて仮声帯も左右から中央へ寄ってきます。この「中央へ寄る」動きを内転、「外側へ離れる」動きを外転と呼びます。注目したいのは、仮声帯を寄せる方向の筋肉はあっても、仮声帯を積極的に外へ引き離す専用の筋肉は無いことです。仮声帯を開くには「寄せる力を抜く」しかない、という性質が、後で解説する鳴らさない方法の考え方につながります。
仮声帯を動かす神経
喉頭の筋肉の多くは迷走神経から分かれた反回神経が動かしており、仮声帯を寄せる動きにもこの神経が支配する筋肉が関わります。一方、仮声帯を含む声門より上の粘膜の感覚は上喉頭神経が受け持っています。食べ物や飲み物が触れたときにすぐ咳が出るのは、この感覚が非常に鋭いためです。
嚥下と咳で閉じる3段のふた
喉頭には、異物が気管に入らないよう上から順に3段のふたがあります。1段目が喉頭蓋、2段目が仮声帯、3段目が声帯です。食べ物を飲み込むとき(嚥下)には、この3段がほぼ同時に閉じて、気道を二重三重にふさぎます。仮声帯はこのうち真ん中の砦です。
咳や咳払いのときも仮声帯は働きます。咳は、声帯と仮声帯をしっかり閉じて肺の空気を溜め、一気に開いて吹き出す動作です。重い物を持ち上げる・いきむといった動作でも、仮声帯までぎゅっと閉じて胸の中の圧を高め、体幹を固めます。このとき仮声帯より下、声門の上にかかる空気の圧力は声門上圧と呼ばれ、仮声帯が寄るほど高まります。なお、癖になった強い咳払いは仮声帯と声帯を強くぶつけるため、喉を痛める原因になります。
粘液を出して声帯を潤す
もう一つの大切な役割が加湿です。仮声帯と喉頭室には粘液を出す腺が多くあり、この粘液が下の声帯に流れて表面を潤します。声帯は1秒に数百回ぶつかり合って振動するため、表面の潤いが欠かせません。仮声帯は「ふた」であると同時に、声帯の潤滑油の供給元でもあるのです。
仮声帯発声とは|仮声帯が鳴る仕組みと特徴
仮声帯発声とは、声帯だけでなく仮声帯も振動に加わって出る声のことです。ふだんは開いている仮声帯が中央へ寄り、声帯を通った息でばたついて、ザラザラした雑音(ノイズ)や低い唸りを声に足します。意図して使えば表現になり、意図せず起きれば声のトラブルになる、両刃の発声です。
仮声帯が振動する仕組み
通常の発声では、仮声帯は左右に開いていて、声帯で作られた音はそのまま上へ抜けていきます。ところが喉を強く締めると、仮声帯が内側へ寄って(仮声帯内転)、声帯の真上で息の通り道を狭めます。狭いすき間を息が通ると、仮声帯の柔らかい粘膜が引き込まれて揺れ始めます。これが仮声帯の振動です。
仮声帯は声帯より厚く柔らかいため、声帯と同じ速さでは揺れにくく、声帯が2回振動するあいだに1回だけ揺れるような動き方をすることがあります。すると声全体に、元の音の半分の周波数、つまり1オクターブ下の成分が混ざり、ゴロゴロとした低い唸りに聞こえます。揺れ方が不規則になると、ガサガサしたノイズになります。
仮声帯発声の特徴
仮声帯が鳴っている声には、次のような特徴があります。
- ザラついた歪み:エレキギターのディストーションのような、倍音の多いザラザラ感がある
- 低く太い唸り:1オクターブ下の成分が混ざり、実際の音程より低く、重く聞こえる
- 音程が不安定になりやすい:声帯と仮声帯の2つが鳴るため、狙った音程がぶれやすい
- 音量のわりに息苦しい:通り道が狭まるので息の流れが詰まり、長く伸ばしにくい
仮声帯の介入・巻き込み・過内転
ボイストレーニングの現場では、意図せず仮声帯が発声に加わってしまう状態を「仮声帯の介入」「仮声帯の巻き込み」と言います。高音で踏ん張ったときや、大きな声を出そうと喉を締めたときに起きやすく、声が詰まってつぶれたように聞こえます。
医学的には、声帯や仮声帯が必要以上に強く中央へ寄りすぎる状態を過内転と呼びます。過内転が続くと声帯同士の衝突が強くなり、喉の疲れや声がれの原因になります。仮声帯の巻き込みは、この過内転のいちばん上の段階と考えるとイメージしやすいでしょう。声帯を「ちょうどよく」閉じる感覚は声帯閉鎖の記事で詳しく解説しています。
歌の発声と仮声帯|地声・裏声・ミックスボイス・高音・低音
歌で仮声帯を気にするべき場面は意外に多くあります。ほとんどの歌唱発声では仮声帯は「開いたまま」が基本で、仮声帯が寄ってくるのは力みのサインです。代表的な発声ごとに、仮声帯がどうなっているのが理想かを整理します。
地声と仮声帯
地声(チェストボイス)は声帯が厚く閉じて振動する発声ですが、仮声帯は開いたままが正常です。地声で大きな声を出そうとして首や喉に力が入ると、仮声帯が寄って「張り上げた声」「喉声」になります。強い地声と喉声の違いは、声帯の閉じ方の強さではなく、仮声帯より上が締まっているかどうかで決まる部分が大きいのです。
裏声と仮声帯
裏声(ファルセット)は声帯が薄く引き伸ばされて振動する発声で、仮声帯は関わりません。「裏声は仮声帯で出している」と誤解されることがありますが、裏声を作っているのも真声帯です。むしろ裏声は喉の力が抜けやすいので、仮声帯を開く感覚をつかむ練習にも使えます。詳しくはファルセットの記事を参照してください。
ミックスボイス・高音と仮声帯
ミックスボイスは地声と裏声のあいだをつなぐ発声で、声帯の閉じをほどよく保ったまま高音へ上がっていきます。高音で仮声帯が寄ってくると、声が詰まってひっくり返ったり、苦しそうな音色になったりします。高音が苦しい人の多くは、音程を上げるたびに喉を締め、仮声帯を巻き込んでいるケースです。ミックスボイスの練習では「仮声帯は開いたまま、声帯だけで音程を上げる」ことを意識すると安定します。
ベルティング・ホイッスルボイス・ハスキーボイス
- ベルティング:地声のまま高音を力強く張る発声です。叫んでいるように聞こえますが、上手な人ほど仮声帯は開いていて、喉の奥の空間を保っています。仮声帯まで締めると一気に喉を痛めます
- ホイッスルボイス:最高音域の笛のような声で、声帯のごく一部だけが振動します。仮声帯は関与せず、力みがあるとむしろ出ません
- ハスキーボイス:かすれた声の多くは、声帯が完全に閉じきらず息が漏れて生まれる声です。仮声帯のザラつきとは別物で、仮声帯のノイズは「かすれ」より「濁り・歪み」に近い音になります
低音・女声と仮声帯
低音を太く響かせたいときに、喉を押し下げて仮声帯を鳴らしてしまう人がいます。一時的に低く聞こえますが、それは仮声帯の唸りで、本当の低音域が広がったわけではありません。また、男性が女性らしい高い声(女声・両声類の発声)を練習するときも、喉を細く締めて仮声帯を寄せると苦しい声になります。どちらの場合も、仮声帯を開いたまま声帯の使い方を変えることが基本です。
このように、歌では「仮声帯を鳴らさない」ことが大前提です。そのうえで、あえて鳴らして表現に使う発声が次の章で紹介する技法です。
仮声帯を使う発声|がなり・デスボイス・シャウト・フライスクリーム・ホーミー
仮声帯を意図的に鳴らす発声は、ロック・メタル・民族音楽などで表現として使われています。共通するのは「声帯で音程を作り、その上に仮声帯の歪みを重ねる」という二層構造です。声帯の音を土台に残したまま、仮声帯の振動を上乗せするイメージです。
仮声帯が関わる主な発声と、仮声帯の関わり方を一覧にまとめます。
| 発声 | 仮声帯の関わり方 | 聞こえ方・使われる場面 |
|---|---|---|
| がなり・がなり声 | 声帯の音に仮声帯の振動を部分的に重ねる | ロック・J-POPのサビ頭や語尾の「ガッ」という歪み |
| デスボイス(グロウル) | 仮声帯を大きく振動させ、低い唸りを主役にする | デスメタルなどの低く獣のような声 |
| シャウト | 強い息で仮声帯や声門上の組織を鳴らし、叫びに歪みを足す | ロック・パンクの叫ぶような歌い方 |
| フライスクリーム | エッジボイスの息の少ない状態から仮声帯を鳴らす | メタルコアなどの高く鋭いスクリーム |
| 吸気発声(インヘイル) | 息を吸いながら声帯・仮声帯を鳴らす | インヘイルスクリーム、ボイスパーカッションの効果音 |
| ホーミー(カルグラ) | 仮声帯が声帯の半分の周波数で揺れ、1オクターブ下の声を作る | モンゴル・トゥバの喉歌の低い唸り |
| 喉ベース | 低い声に仮声帯の唸りを重ねてベース音のように響かせる | アカペラやボイパのベースパート |
がなりと仮声帯
がなり(がなり声)は、歌の中で瞬間的に声を歪ませる技法です。言葉の頭や語尾だけに歪みをかけ、すぐに元のきれいな声に戻すのが上手ながなりの特徴で、仮声帯を「鳴らしっぱなし」にしない点が重要です。ONE OK ROCKのTakaさんのように、ロックボーカルの力強い歪みはがなりの例としてよく挙げられます。やり方はがなりの記事で詳しく解説しています。
エッジボイスと仮声帯の違い
エッジボイス(ボーカルフライ)は、声帯をゆるく閉じて「プツプツ」と遅く振動させる発声で、音を作っているのは声帯です。仮声帯は基本的に関わりません。ただし、エッジボイスの状態から息を強めて喉を締めると仮声帯が加わり、フライスクリームに移っていきます。エッジはスクリームの入り口にはなりますが、同じものではありません。詳しくはエッジボイスの記事をどうぞ。
デスボイス・シャウト・ホーミーのポイント
デスボイスやシャウトは、仮声帯の振動を声の主役にする発声です。上手な人は喉を締め上げているのではなく、息の支えを保ちながら喉の奥の空間を広く取り、仮声帯だけを狙って鳴らしています。ホーミーのカルグラ唱法でも、声帯の音程の1オクターブ下に仮声帯の唸りが加わることで、あの地鳴りのような低音が生まれます。倍音を使う歌い方全般は倍音唱法の記事も参考になります。
また、NHKの子ども番組のキャラクター「にゃんちゅう」のような、ガラガラした独特の声が仮声帯発声の例として話題に挙がることもあります。キャラクターの声やものまねでも、仮声帯の歪みは声色を作る道具として使われているのです。
仮声帯を鳴らす方法|出し方・使い方・締め方の練習手順
がなりやスクリームのために仮声帯を鳴らしたい場合は、「締める」のではなく「少しだけ寄せて、息で揺らす」感覚で練習します。いきなり叫ぶと声帯まで痛めるので、小さな音量から段階的に進めましょう。以下は仮声帯の鳴らし方の基本手順です。
仮声帯が閉じる感覚をつかむ
最初のステップは、仮声帯が閉まる感覚を体で知ることです。仮声帯はふだん意識できない場所ですが、次の動作で自然に閉じます。
- 息を止めていきむ:重い物を持ち上げるつもりで息を止めると、喉の奥がぐっと閉鎖される。これが声帯と仮声帯の閉じた状態
- 咳払いの直前:咳払いをする直前の、喉に空気が溜まった状態でも仮声帯が閉じている
- うなり声:犬のうなり声のまねをすると、喉の奥がゴロゴロ振動する。これが仮声帯の振動に近い感覚
いきむ感覚は「閉じすぎ」の状態なので、ここから力を半分以下に抜いた位置が、仮声帯を鳴らすときの締め方の目安になります。
仮声帯の出し方・鳴らし方の手順
- ため息で喉を開く:「はぁー」と力を抜いたため息を出し、首や肩の力を抜く
- エッジボイスを出す:低い音で「あ゛」とプツプツした声を小さく出す
- 息を少しだけ強める:エッジボイスのまま息の量を少し増やし、喉の奥がザラッと震える位置を探す。これが仮声帯が鳴り始めた合図
- 声帯の音を混ぜる:ザラつきを残したまま「あー」と音程のある声を足す。歪みと音程が両方聞こえれば成功
- すぐに離す:1〜2秒鳴らしたら、ため息に戻して喉を開く。鳴らす・離すを交互に繰り返す
仮声帯のコントロールと使い方のコツ
仮声帯を歌で使えるようになるには、鳴らす量を自在に変えるコントロールが必要です。慣れてきたら、歪みを「0・少し・多め」の3段階で切り替える練習をします。フレーズの頭だけ歪ませる、語尾だけ歪ませるなど、場所を決めて使うのが実践的な使い方です。
- 音量は会話程度から始め、大声で練習しない
- 歪みの量は喉を締める力ではなく、息の量と仮声帯の寄せ具合で調整する
- 喉に痛みやイガイガが出たらその日は中止する
- 1回の練習は5〜10分程度にとどめる
仮声帯の動かし方は人によって感覚が大きく違い、独学では「ただ喉を締めているだけ」になりがちです。録音して、歪みの下に音程がちゃんと残っているかを確かめながら進めましょう。
仮声帯を鳴らさない方法|分離・リトラクトで開く・外す
歌で悩みが多いのは、鳴らしたくないのに仮声帯が邪魔をしてくるケースです。仮声帯を鳴らさないコツは、仮声帯を「開けよう」とするのではなく、寄せている力みを外すことです。仮声帯を外側へ引く専用の筋肉は無いため、開き方の正体は「締める力を抜くこと」になります。
仮声帯の分離とは
ボイストレーニングでいう仮声帯の分離とは、声帯の動きと仮声帯の動きを切り離し、声帯はしっかり閉じて振動させながら、仮声帯は開いたままにしておく状態のことです。多くの人は、声帯を閉じようとすると仮声帯まで一緒に締まってしまいます。この連動を外すのが分離の練習で、分離ができると力強い声でも喉が詰まらなくなります。
仮声帯が邪魔をしているサイン
次のような症状があるときは、喉締めによって仮声帯が発声に入り込んでいる可能性があります。
- 高音になると声が詰まる、苦しそうに聞こえる
- 大きな声を出すと声が濁る、ザラつく
- 少し歌っただけで喉が疲れる、声がかすれる
- 歌っていると首の筋が浮き出る、顎が上がる
リトラクトで仮声帯を開く
仮声帯の開け方として有名なのが、海外のボイストレーニング(エスティル・ボイス・トレーニングなど)で使われるリトラクト(retract)という考え方です。仮声帯が寄った状態をコンストリクト(締まる)、力が抜けて開いた状態をリトラクトと呼び、次の動作でリトラクトの感覚を練習します。
- 声を出さずに笑う:面白いことを思い浮かべて、声を出さずに息だけで笑う。喉の奥がふわっと広がる感覚がリトラクト
- あくびの始まり:あくびをしかけた瞬間の、喉の奥が開いた状態を保つ(あくびを最後までしきると喉が下がりすぎる)
- その喉のまま発声:笑いの喉の形を保ったまま、小さく「あー」と声を足す
仮声帯の外し方・離す方法
リトラクト以外にも、仮声帯を外して声帯から離すための練習方法がいくつかあります。いずれも喉の力みを抜くことが目的です。
- ハミング:口を閉じて「んー」と鼻に響かせる。喉の力が抜けやすく、仮声帯を使わない発声の基準になる。やり方はハミングの記事で解説しています
- リップロール:唇を震わせながら声を出すと、息の流れが一定になり喉締めが起きにくい
- ため息発声:「はぁー」とため息に声を乗せ、高い音から低い音へ滑らせる
- ストローを使った発声:細いストローをくわえて「うー」と声を出すと、喉の中の圧が整って声帯に余計な力がかかりにくい
これらの練習で喉が開いた感覚をつかんだら、その状態のまま少しずつ音量と音程を上げていきます。力んだ瞬間に仮声帯が戻ってくるので、「詰まったら一段下げる」を繰り返すのが仮声帯を使わない発声への近道です。
仮声帯を鍛える方法|ボイトレのトレーニングと声帯閉鎖
「仮声帯を鍛える」と聞くと、仮声帯を強くするトレーニングを想像するかもしれません。しかし仮声帯は筋肉の少ないヒダなので、筋トレのように鍛えて強くする対象ではありません。ボイトレで仮声帯を鍛えるというのは、実際には「仮声帯を思いどおりに開け閉めできるようにする」ことを意味します。
鍛えるべきは仮声帯のコントロール
仮声帯のトレーニングは、目的によって方向が2つに分かれます。
| 目的 | トレーニングの方向 | 主な練習 |
|---|---|---|
| きれいな声で歌いたい | 仮声帯を開いたまま声帯だけを閉じる(分離) | ハミング、リップロール、リトラクト |
| がなり・スクリームを使いたい | 必要なときだけ仮声帯を鳴らし、すぐ離す | エッジボイスからの歪み、鳴らす・離すの切り替え |
どちらの目的でも、最初に身につけるのは「開いた状態」です。仮声帯を開けない人ががなりを練習すると、鳴らしっぱなしで戻れなくなり、喉を痛める原因になります。
声帯閉鎖と仮声帯を分ける
仮声帯のコントロールと深く関わるのが声帯閉鎖です。声帯をしっかり閉じる練習をすると、多くの人は仮声帯まで一緒に締めてしまいます。声帯閉鎖のトレーニングでは、次のポイントで仮声帯を巻き込んでいないかを確認しましょう。
- 閉じた声(芯のある声)を出しても、喉の奥に詰まった感じがない
- 声に濁りやザラつきが混ざっていない
- 同じ声を10秒以上楽に伸ばせる
声帯閉鎖の具体的な練習方法は声帯閉鎖の記事で解説しています。
仮声帯の鍛え方|4週間の練習メニュー
仮声帯のコントロールを身につける鍛え方の例です。1日10〜15分を目安に、前の段階が楽にできてから次に進みます。
- 1週目:開く感覚をつかむ…ため息発声、声を出さない笑い、ハミング
- 2週目:開いたまま声を出す…リトラクトの喉のまま「あー」を中音域で伸ばす
- 3週目:声帯の閉じを足す…開いた喉のまま、芯のある声・エッジボイスを出す
- 4週目:鳴らす・離すを切り替える…がなりを使いたい人だけ、歪みを1秒足して離す練習
喉が痛いときは中止する
仮声帯の練習で喉が痛い、ヒリヒリする、声がかすれるといった症状が出たら、その日の練習はすぐにやめて声を休めましょう。仮声帯を強く鳴らす練習は、やり方を誤ると声帯や仮声帯を痛める原因になります。痛みや声がれが1〜2週間以上続く場合は、自己判断で練習を続けず耳鼻咽喉科を受診してください。独学で感覚がつかめないときは、ボイトレ教室でトレーナーに喉の状態を聞いてもらうのが安全です。
仮声帯がガラガラする原因と対処|炎症・腫れ・声が枯れる
声がガラガラする、声が枯れるといった症状には、仮声帯が関わっていることがあります。仮声帯によるガラガラ声の原因は、大きく「使い方の問題」と「炎症・腫れ」の2つに分けられます。
使い方の問題によるガラガラ声
喉を締める癖があると、話すときや歌うときに仮声帯が寄って一緒に振動し、声がガラガラと濁ります。大声での会話、叫ぶような応援、カラオケでの張り上げなどのあとに声がガラガラになるのは、この仮声帯の巻き込みが一因です。疲れや緊張で喉が締まったときにも起こりやすくなります。この場合は、喉を休めて力みを抜けば元に戻ることが多いでしょう。
仮声帯の炎症・腫れによるガラガラ声
風邪や声の使いすぎで喉頭に炎症が起きると、声帯だけでなく仮声帯も赤く腫れることがあります。医学的には腫れのことを腫脹(しゅちょう)と呼びます。仮声帯が腫脹すると、発声のたびに声帯と触れ合ってガラガラした雑音が入ったり、喉に何か詰まっているような違和感が出たりします。
炎症や腫れの主な原因は次のとおりです。
- 声の使いすぎ:長時間の会話・歌唱、叫び声
- 風邪などの感染症:急性喉頭炎として喉頭全体が腫れる
- 喫煙・飲酒:煙やアルコールが粘膜を刺激し、慢性的な炎症を起こす
- 胃酸の逆流:胃酸が喉まで上がってくると、声門より上の粘膜が荒れやすい
- 乾燥:粘膜の潤いが減り、刺激に弱くなる
ガラガラ声のときの対処法
- 声を休める:話す量を減らし、歌の練習は休む。ささやき声も喉に負担がかかるので多用しない
- 喉を潤す:こまめに水分をとり、加湿器やマスクで乾燥を防ぐ
- 咳払いを控える:強い咳払いは仮声帯と声帯をぶつけるので、水を飲んで流すようにする
- 刺激物を避ける:喫煙、飲酒、辛い物を控える
数日で改善しない場合や、声が枯れる状態が2週間以上続く場合、痛みや飲み込みにくさ、息苦しさを伴う場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診してください。喫煙歴のある人の長引く声がれは、特に注意が必要です。
いびきと仮声帯の関係
「いびきも仮声帯が鳴っているのでは」と考える人もいますが、いびきの音は主に軟口蓋(のどちんこの周り)や舌の付け根など、仮声帯より上の空気の通り道が狭くなって鳴るものです。仮声帯が主な原因になることはほとんどありません。ただし、いびきで口呼吸が続くと喉が乾燥し、朝に声がガラガラする原因にはなります。軟口蓋の働きは軟口蓋の記事も参考にしてください。
仮声帯の病気|肥大・嚢胞・肉芽腫・腫瘍と仮声帯発声症の治療
仮声帯に関わる病気は、声帯の病気に比べると多くはありませんが、いくつか知っておきたいものがあります。ここで紹介する内容は一般的な情報で、診断や治療方針は必ず耳鼻咽喉科の医師の判断に従ってください。
仮声帯発声症(過緊張性発声障害)
本人が意図しないのに、話すときにいつも仮声帯が寄って振動してしまう状態を仮声帯発声症といいます。喉の締めすぎによって起こる過緊張性発声障害の一種で、声がガラガラと濁る、低く押しつぶしたような声になる、話すと疲れるといった症状が出ます。内視鏡で発声中の喉を観察すると、左右の仮声帯が寄って声帯を隠している様子が確認できます。
もう一つのパターンとして、声帯麻痺などで声帯がうまく閉じられない人が、それを補うために仮声帯を寄せて声を出していることもあります。この場合は仮声帯ではなく、元の声帯の病気の治療が中心になります。
仮声帯発声症の治療
仮声帯発声症の治療の中心は、言語聴覚士などが行う音声治療(発声のリハビリ)です。喉の緊張をとるために、次のような方法が用いられます。
- あくび・ため息法:喉の奥を広げて息を吸い、ため息のように声を出す
- 咀嚼法:ガムを噛むように口を動かしながら発声し、喉の力みを抜く
- ハミング・リップロール:喉に力が入りにくい発声で、楽な声の出し方を覚える
これらは本記事の「仮声帯を鳴らさない方法」と考え方が共通しています。症状が重く音声治療で改善しない場合に、まれに手術が検討されることもありますが、治療法は医師がケースごとに判断します。
仮声帯の肥大・嚢胞・肉芽腫
| 病気 | どんな状態か | 主な治療 |
|---|---|---|
| 仮声帯の肥大 | 仮声帯が厚く大きくなった状態。慢性的な炎症や、仮声帯を寄せる発声の癖が続いた人にみられることがある | 原因となる炎症・発声の癖への対処、音声治療 |
| 嚢胞(喉頭嚢胞) | 喉頭室や仮声帯の粘膜に、液体や空気が溜まった袋ができる。仮声帯が膨らんで見え、声の変化や喉の違和感が出る | 大きいものは手術で切除 |
| 仮声帯肉芽腫 | 粘膜の傷を治そうとして盛り上がった組織。喉頭の肉芽腫は声帯の後方にできることが多く、仮声帯にできるのはまれ | 原因(胃酸逆流・咳払いなど)の治療、薬、場合により切除 |
なお、声帯ポリープや声帯結節は声帯(真声帯)にできる病気で、仮声帯にできるものではありません。声帯の病気全般は声帯の記事にまとめています。
仮声帯の腫瘍
仮声帯には、良性の腫瘍(乳頭腫など)のほか、悪性の腫瘍(がん)ができることもあります。仮声帯を含む声門より上のがんは声門上がんと呼ばれます。声帯そのものにできる声門がんと違って初期には声が変わりにくく、喉の違和感、飲み込むときの痛み、耳に響く痛み、首のしこりなどで気づくことがあります。喫煙や飲酒は喉頭がんの大きな危険因子です。仮声帯腫瘍の治療は、腫瘍の種類や広がりによって手術での切除、放射線治療、薬物療法などから選ばれます。
仮声帯の手術・切除
仮声帯手術は、嚢胞や腫瘍を切除する場合などに行われます。多くは口から器具を入れて顕微鏡で見ながら行う喉頭微細手術です。手術後はしばらく声を出さない安静期間が指示されることが一般的で、期間や注意点は手術の内容によって異なります。仮声帯の手術を検討するときは、声の専門外来のある医療機関で説明を受けると安心です。
仮声帯を見る検査|内視鏡・CT・MRIと写真・画像
仮声帯は外からは見えないため、状態を確かめるには医療機関での検査が必要です。仮声帯の動きを見るなら内視鏡、奥の広がりを見るならCTやMRIと、目的によって検査が使い分けられます。
内視鏡(喉頭ファイバースコープ)
耳鼻咽喉科で最もよく行われるのが内視鏡検査です。鼻から細いカメラを入れて、喉を上から見下ろします。検査は数分で終わり、麻酔のスプレーで違和感を減らして行うのが一般的です。内視鏡の良いところは、声を出している最中の仮声帯の動きをそのまま観察できる点です。仮声帯発声症かどうかは、発声中に仮声帯が寄っているかを内視鏡で見て判断します。
声帯の振動をスローモーションのように観察できる喉頭ストロボスコピーを併用すると、声帯と仮声帯のどちらが振動しているかも確認できます。
CT・MRI
CTやMRIは、喉を輪切りにした画像で、粘膜の奥の組織や周囲への広がりを調べる検査です。内視鏡では表面しか見えないため、嚢胞の大きさや、腫瘍がどこまで広がっているかを確かめるときに使われます。CTは軟骨や骨の状態、MRIは筋肉や脂肪などの柔らかい組織の区別が得意です。どちらも仮声帯の動きを見る検査ではなく、形や広がりを見る検査です。
仮声帯の写真・画像の見方
仮声帯の写真や画像を探す人の多くは、内視鏡で撮影された喉の画像を見たいのではないでしょうか。内視鏡の画像では、画面の上側(または下側)に舌の付け根と喉頭蓋が写り、その奥に次のような構造が並んで見えます。
- 左右の外側にあるピンク色の厚いヒダが仮声帯
- その内側にある白っぽく細いヒダが声帯(真声帯)
- 声帯のあいだの三角形のすき間が声門で、奥に気管の軟骨の輪が見える
呼吸中は声帯も仮声帯も開いて声門が大きく見えますが、仮声帯発声をすると左右の仮声帯が中央に寄り、白い声帯が隠れて見えなくなります。自分の喉の状態が気になる場合は、耳鼻咽喉科で内視鏡の画像を見せてもらいながら説明を受けるのがいちばん確実です。
よくある質問
- 仮声帯と声帯はどう違いますか?
- 声帯(真声帯)は振動して声の元の音を作るヒダで、仮声帯はそのすぐ上にある、ふだんは振動しないヒダです。仮声帯の主な役割は、飲み込みや咳のときに気道を閉じることと、粘液を出して声帯を潤すことです。
- 仮声帯が鳴っているかどうか、自分で確かめる方法はありますか?
- 正確に確かめるには内視鏡での観察が必要ですが、目安として「声に濁りやザラつきが混ざる」「喉の奥が詰まる感じがする」「長く伸ばすと苦しい」といったサインがあれば、仮声帯が加わっている可能性があります。録音して、力んだときだけ音色が濁っていないかを聞き比べるのもおすすめです。
- がなりやデスボイスを続けると喉を痛めますか?
- 正しいやり方で、短い時間に限って使えば、がなりやデスボイスを長く続けている歌手もいます。ただし喉を締め上げて鳴らすと声帯や仮声帯を痛める原因になります。痛みや声がれが出たら中止し、長引く場合は耳鼻咽喉科を受診してください。
- 仮声帯を鍛えると高音が出るようになりますか?
- 仮声帯そのものを鍛えても高音は出るようになりません。高音を出すのは声帯の働きで、むしろ高音で仮声帯が寄ってくると声が詰まります。高音を伸ばしたいなら、仮声帯を開いたまま声帯を使う練習(分離)が近道です。
まとめ
仮声帯は、声帯のすぐ上にある左右1対のヒダ(室ヒダ・前庭ヒダ)です。この記事の要点を振り返ります。
- 仮声帯は喉頭蓋と声帯のあいだ、喉仏の裏側にあり、声帯とは喉頭室のくぼみで隔てられている
- 主な役割は、飲み込みや咳で気道を閉じる「ふた」と、粘液で声帯を潤すこと。ふだんの発声では振動しない
- 喉を締めると仮声帯が寄って振動し、声に歪み・唸り・ノイズが加わる(仮声帯発声)
- 地声・裏声・ミックスボイスなどふつうの歌では、仮声帯は開いたままが基本
- がなり・デスボイス・シャウト・ホーミーでは、声帯の音に仮声帯の振動を重ねて表現に使う
- 鳴らさないためには、仮声帯を開けようとするより、リトラクトやハミングで力みを外す
- ガラガラ声や違和感が2週間以上続く場合は、耳鼻咽喉科で内視鏡の検査を受ける
仮声帯は自分では見えない場所にあるため、「今、仮声帯が鳴っているのか」「喉が開いているのか」を独学で判断するのは簡単ではありません。喉が詰まる癖を直したい人も、がなりやスクリームを安全に身につけたい人も、プロのトレーナーに声を聞いてもらうのが上達の近道です。ボイトレ教室検索から、お住まいの地域で通いやすい教室を探して、体験レッスンで喉の状態をチェックしてもらいましょう。

