声帯とは|読み方・意味・英語を簡単に解説

声帯とは、喉の奥の喉頭(こうとう)という器官の中にある、左右1対・2つのヒダ状の組織です。読み方は「せいたい」。息を吐くときにこのヒダが閉じて細かく振動し、その振動が空気の波となって声の元になる音(喉頭原音)を生み出します。声帯とはなにかを簡単に言えば、人の体に備わった発音体、つまり楽器でいえば弦やリードにあたる部分です。

声帯の意味と「ヒダ」という呼び方

「声の帯」と書きますが、実際には帯やひものような独立した部品ではなく、喉頭の内側の壁から左右に張り出したヒダです。そのため医学の分野では「声帯ヒダ(声襞)」と呼ぶことも増えています。ヒダは筋肉を芯にして、その表面を柔らかい粘膜が覆う構造になっていて、閉じたり開いたり、伸びたり縮んだりしながら声の高さや音色を変えます。

声帯は1つの臓器として独立しているわけではなく、喉頭という臓器(器官)の一部です。喉頭は軟骨と筋肉でできた筒で、その中央付近に声帯が張られています。

声帯の英語表記

声帯は英語で vocal cords(ボーカルコード)と呼ばれます。医学英語ではヒダであることを明確にした vocal folds(ボーカルフォールド)が使われることが多く、ラテン語の解剖学用語では plica vocalis(プリカ・ボカリス)と表記されます。歌の教本や海外のボイストレーニング動画では vocal folds の表記もよく目にします。

声帯と発声の関係

声は声帯だけで完成するわけではありません。声帯と発声の関係は、次の3つの要素の組み合わせで整理できます。

  • 動力源: 肺から送り出される息(呼気)。横隔膜や腹筋群がその量と圧力を調整します
  • 振動源: 声帯。息の流れを受けて振動し、ブーという原音を作ります
  • 共鳴腔: 喉・口・鼻などの空間(声道)。原音を響かせ、母音や音色を作ります

つまり声帯は、息というエネルギーを音に変える変換装置です。息の使い方は歌の呼吸、響きの作り方は共鳴の記事で詳しく解説しています。

声は息・声帯・共鳴腔の3つで作られる 肺・息 動力源 声帯 振動源 喉・口・鼻 共鳴腔 息 → 振動 → 響き 声帯は息を音に変える変換装置
肺からの息が声帯を振動させて原音になり、喉・口・鼻で響いて声になる

声帯について押さえておきたいポイント

声帯は数センチにも満たない小さな組織ですが、話す・歌う・咳をする・息を止めて力むといった日常の動作すべてに関わっています。一方で粘膜はデリケートで、大声や長時間の発声、乾燥、喫煙などで傷みやすい部分でもあります。歌がうまくなりたい人も、声のトラブルに悩む人も、まずは声帯の場所・構造・動き方を知っておくと、練習やケアの意味が理解しやすくなります。次の章から順に見ていきましょう。

声帯はどこにある?位置・場所と喉仏との関係

声帯とはどこにあるのかというと、首の前側、喉仏(のどぼとけ)のちょうど奥です。喉仏は甲状軟骨という軟骨の出っ張りで、声帯はその内側の、喉仏の頂点からやや下あたりの高さに水平に張られています。首のどこかを指で示すなら、喉仏の少し下をそっと押さえたあたり、と覚えておくとよいでしょう。

喉仏との位置関係

声帯の位置は喉仏を目印にすると分かりやすくなります。喉仏は男性では外から見て分かるほど突き出ていますが、女性や子どもでは目立たないだけで同じ軟骨があります。つばを飲み込むと喉仏が上下に動くのが分かりますが、このとき中の声帯も喉頭ごと一緒に上下しています。声帯の場所がどこらへんか、どの辺かを感じたいときは、喉仏に軽く指を当てて「あー」と声を出してみてください。指先に細かい振動が伝わってきます。その振動の発生源が声帯です。

喉・咽頭・喉頭・食道との違い

「喉」は日常語で、首の中の空気や食べ物の通り道をまとめて指します。医学的には次のように分かれていて、声帯は喉頭の中にあります。喉との違いを整理すると、声帯は喉の一部分にすぎません。

部位場所主な役割
咽頭(いんとう)鼻と口の奥から喉頭・食道の入口まで空気と食べ物の共通の通り道
喉頭(こうとう)咽頭の下、気管の上。喉仏の位置声帯を収め、発声と気道の保護を担う
喉頭蓋(こうとうがい)喉頭の入口、舌の付け根の奥飲み込むときに喉頭にふたをする
気管喉頭の下から肺まで空気の通り道
食道気管の後ろ側食べ物の通り道

「扁桃腺」と声帯を混同する人もいますが、扁桃腺(口蓋扁桃)は口を開けると見える喉の奥の左右の膨らみで、咽頭の側にあるリンパ組織です。声帯はそこからさらに下、口からは直接見えない深い位置にあります。扁桃腺との違いは「口から見えるかどうか」で区別できます。

前と後ろ、どっちが前?

首を横から見た断面図で考えると、前側(顔の側)に気管と喉頭、後ろ側(背骨の側)に食道が並んでいます。声帯は気管の入口にあたる喉頭の中で、前後方向に張られています。前後の向きは、前側の端が甲状軟骨の内側(喉仏の裏)に、後ろ側の端が披裂軟骨という小さな軟骨に付いています。どっちが前か迷ったら、喉仏のある側が前と覚えておきましょう。

首を横から見た声帯の位置 前(顔側) 後ろ(背中側) 喉仏 声帯 喉頭 気管 食道 背骨
声帯は喉仏の奥、気管の入口にあたる喉頭の中にあり、食道はその後ろを通る

声帯が口から見えない理由

口を大きく開けて鏡を見ても、見えるのは舌の奥と咽頭の壁、扁桃腺までです。声帯は舌の付け根よりさらに下で、喉頭蓋の陰に隠れています。そのため声帯を観察するには、次の章以降で紹介する内視鏡などの専用の機器が必要になります。

声帯の形と名称|上から見た図・声門・V字の向き

声帯を真上から見下ろすと、左右2本のヒダが前側の1点で合わさり、後ろ側で開いた「V字」の形をしています。呼吸をしているときはこのV字が大きく開き、声を出すときは左右がぴったり寄って1本の線のように閉じます。解剖図やイラスト、内視鏡の画像では、この形を上から見た図がよく使われます。

声門とは|声帯との違い

声門(せいもん)とは、左右の声帯のあいだにできるすき間(空間)のことです。声帯と声門の違いは「ヒダそのもの」と「ヒダとヒダのあいだ」の違いで、声帯が開くと声門が広がり、声帯が閉じると声門が狭まって閉じます。発声の説明で「声門閉鎖」と言うときは、左右の声帯が合わさって声門がふさがった状態を指します。

各部の名称と部位

声帯の部位には次のような名称が付いています。解剖の本や医師の説明で出てくる言葉なので、名称と部位の対応を押さえておくと理解が早くなります。

前交連(ぜんこうれん)
左右の声帯が前側で合わさる点。V字の頂点で、喉仏の裏側にあたります。
後連合(こうれんごう)
声帯の後ろ側、左右の披裂軟骨のあいだの部分。呼吸のときに大きく開きます。
膜様部(まくようぶ)
声帯の前側およそ3分の2の、軟らかい粘膜と筋肉でできた部分。実際に大きく振動して声を作るのはここです。
軟骨部
声帯の後ろ側の、披裂軟骨の突起が芯になっている部分。振動はほとんどしません。
遊離縁(ゆうりえん)
声帯の内側の縁、左右が向かい合って接する部分。声帯の遊離縁はどこかといえば、声門に面したヒダの先端のラインです。
披裂部(ひれつぶ)
声帯の後端を支える披裂軟骨のあたり。声帯を開閉させる動きの要になる場所です。
上から見た声帯はV字に開く 前(喉仏側) 声門 声帯 声帯 前交連 披裂軟骨 披裂軟骨 後ろ(後連合)
声帯は前交連を頂点にV字に開き、左右のあいだのすき間が声門になる

仮声帯との違い

声帯のすぐ上には、もう1対のヒダである仮声帯(室ヒダ)があります。声帯と仮声帯のあいだには喉頭室という小さなくぼみがあり、ふだんの発声では仮声帯はほとんど振動しません。ただし力んで声を出したときや、デスボイスのような特殊な発声では仮声帯が寄ってきて一緒に鳴ることがあります。詳しくは仮声帯の記事で解説しています。

声帯は2つで1組

声帯は左右2つで1組の器官です。左右がそれぞれ独立した筋肉と神経で動いているため、片側だけが動かなくなる、片側だけにポリープができるといったことが起こります。左右の声帯がそろって同じように振動することが、澄んだ声を出すための前提条件になっています。

声帯を動かす軟骨・筋肉と神経|内転・外転の仕組み

声帯そのものには骨はありません。声帯は軟骨の枠組みに張られ、その軟骨を小さな筋肉が引っ張ることで開いたり閉じたり、伸びたり縮んだりします。ここでは声帯の構造を筋肉と軟骨の面から見ていきます。

声帯を支える軟骨と骨

喉頭は骨ではなく、いくつかの軟骨が組み合わさってできています。首を触ったときのゴリゴリした硬い感触は、この軟骨によるものです。

  • 甲状軟骨: 喉頭の前側を覆う盾のような大きな軟骨。出っ張りが喉仏で、声帯の前端がその内側に付きます
  • 輪状軟骨: 甲状軟骨の下にある指輪のような形の軟骨。喉頭の土台になります
  • 披裂軟骨: 輪状軟骨の後ろ側の上に乗る左右1対の小さな軟骨。声帯の後端が付き、回転・滑走して声帯を開閉させます
  • 喉頭蓋軟骨: 喉頭蓋の芯になる軟骨

喉頭の上には舌骨という骨がありますが、喉頭自体は軟骨でできています。年齢とともに軟骨の一部が骨のように硬くなる(骨化する)ことはあります。

声帯を動かす筋肉(内喉頭筋)

声帯を動かす筋肉は喉頭の中にある小さな筋肉群で、内喉頭筋と呼ばれます。声帯を閉じる動きを内転、開く動きを外転といいます。

筋肉働き声への影響
甲状披裂筋(声帯筋)声帯を縮めて厚くする地声・低めの力強い声
輪状甲状筋(前筋)声帯を前後に引き伸ばして薄く張る高い声・裏声
外側輪状披裂筋披裂軟骨を回して声帯を閉じる(内転)声門を閉じる
披裂筋左右の披裂軟骨を寄せる(内転)後ろ側のすき間を閉じる
後輪状披裂筋(後筋)声帯を開く(外転)呼吸で息を通す

このうち声帯を閉じる働きの筋肉は、ボイストレーニングではまとめて「閉鎖筋」と呼ばれることがあります。また輪状甲状筋は喉頭の前側にあるため前筋、後輪状披裂筋は後ろ側にあるため後筋と略されます。声帯を開く筋肉は後輪状披裂筋ただ1つで、呼吸に欠かせない筋肉です。

声帯を動かす筋肉と4つの動き 閉じる(内転) 外側輪状披裂筋・披裂筋 開く(外転) 後輪状披裂筋 伸ばす・薄く 輪状甲状筋(高い声) 縮める・厚く 甲状披裂筋(地声)
声帯の動きは閉じる・開く・伸ばす・縮めるの4つで、それぞれ担当する筋肉が違う

声帯の筋肉は随意筋?

内喉頭筋は、手足の筋肉と同じ横紋筋で、分類上は自分の意思で動かせる随意筋です。ただし1本1本を狙って動かすことはできず、「高い声を出そう」「息を止めよう」という意図に対して脳が自動的に組み合わせを決めています。歌の練習で声帯の動かし方を直接意識するのが難しいのはこのためで、音の高さや声色、息の量といった結果を手がかりに間接的にコントロールしていきます。

支配神経|迷走神経と反回神経

声帯の筋肉を動かす支配神経は、脳から出る脳神経の1つ迷走神経の枝です。筋肉ごとの支配神経は次のように分かれています。

  • 反回神経(下喉頭神経): 輪状甲状筋以外のすべての内喉頭筋を動かす。胸の中まで下りてからUターンして喉頭に戻る長い経路をとります
  • 上喉頭神経: 輪状甲状筋を動かし、喉頭の粘膜の感覚も伝えます

反回神経は特に左側が心臓近くの大動脈を回り込むため経路が長く、甲状腺や肺、食道の病気や手術の影響を受けやすい神経です。この神経が傷つくと声帯が動かなくなる反回神経麻痺が起こります(後の章で解説します)。

声帯の層構造|粘膜上皮・粘膜固有層・靭帯・声帯筋

声帯を輪切りにした断面図を見ると、表面の柔らかい粘膜から中心の筋肉まで、硬さの違う組織が層になって重なった「層構造」になっています。この柔らかい外側と硬い内側の組み合わせが、声帯の表面を波のように揺らし、効率よく音を作る秘密です。

声帯の層と組織

声帯の組織は、外側から次の順に重なっています。

  1. 粘膜上皮: いちばん表面の薄い膜。皮膚に近い重層扁平上皮という上皮で、摩擦から声帯を守ります
  2. 粘膜固有層・浅層: ゼリーのように柔らかい層で、ラインケ腔とも呼ばれます。声帯の振動でいちばん大きく揺れる部分です
  3. 粘膜固有層・中間層と深層: 弾性線維やコラーゲン線維が多く、ここがいわゆる声帯靭帯です。声帯の形を保ち、引っ張られたときの張りを生みます
  4. 声帯筋: 甲状披裂筋の内側の部分。声帯の芯であり、縮むと声帯全体が厚くなります

表面の上皮と浅層をまとめて「カバー」、靭帯と筋肉をまとめて「ボディ」と呼び、柔らかいカバーが硬いボディの上を滑るように振動するという考え方(カバー・ボディ理論)が発声の研究で広く使われています。

声帯の断面は柔らかい層と硬い層の重なり 粘膜上皮(表面) 固有層浅層(ラインケ腔) 声帯靭帯(中間層・深層) 声帯筋(芯)
表面ほど柔らかく、中心ほど硬い。柔らかい表層が波打つことで声が生まれる

粘膜が大切な理由

声帯の振動は、左右の粘膜が下から上へ波打つように接触と離れを繰り返す「粘膜波動」で生まれます。粘膜固有層の浅層が柔らかく保たれていると波がきれいに伝わり、澄んだ声になります。逆に、炎症でむくんだり、傷が治る過程で固くなったりすると、波が乱れて声がかすれたり割れたりします。声帯の健康とは、この粘膜の柔らかさと潤いを保つことだと言い換えられます。

声帯に痛覚はある?

声帯の粘膜には、皮膚のような痛覚の神経はほとんど分布していないとされています。そのため声帯に結節やポリープができても、それ自体が強い痛みを出すことは多くありません。喉が痛いと感じるときは、声帯の周りの咽頭や喉頭の粘膜の炎症、首の筋肉の疲れなどが原因のことがほとんどです。痛みがないから大丈夫とは限らないので、声の変化そのものに注意を払うことが大切です。

粘膜を守る潤い

声帯の表面は薄い粘液の膜で覆われていて、これが振動の潤滑剤の役割を果たします。乾燥した部屋や口呼吸、水分不足で粘液が減ると、粘膜同士の摩擦が増えて傷みやすくなります。こまめな水分補給や加湿が声のケアの基本とされるのは、この粘膜の性質によるものです。

声帯の大きさ・長さ・厚さ|男女差と人によって違う理由

声帯の大きさは想像以上に小さく、成人男性で長さ約17〜25mm、成人女性で約12.5〜17mmほどとされています。指の爪の幅から親指の長さ程度のヒダが、1秒間に数百回も振動して声を作っています。

男女の違いと男女差

声帯の男女の違いは、主に長さと厚さに表れます。男性の声帯は長く太い(厚い)傾向があり、女性の声帯は短く細い(薄い)傾向があります。弦楽器の太く長い弦が低い音を、細く短い弦が高い音を出すのと同じで、この男女差が話し声の高さの違いにつながります。一般に話し声の高さは、男性でおよそ100Hz前後、女性でおよそ200Hz前後とされています。

成人の声帯の長さは男女で違う 10mm 20mm 30mm 女性 男性 約12.5〜17mm 約17〜25mm
成人男性の声帯は約17〜25mm、女性は約12.5〜17mmで、長く厚いほど声は低くなる

変声期に起こること

子どもの声帯は男女ともに短く、声の高さにも大きな差はありません。思春期になると男性ホルモンの影響で男性の喉頭が大きく成長し、声帯が長く厚くなって声が1オクターブ近く下がります。これが変声期(声変わり)で、喉仏が目立つようになるのもこの時期です。女性も声は少し低くなりますが、変化の幅は小さめです。

声帯の形や厚さは人によって違う

同じ性別でも、声帯の長さや厚さ、形は人によって違います。声帯が長めの人は低い声が出やすく、短めの人は高い声が出やすい傾向があり、声帯が薄い人は軽やかで明るい声、厚い人は太く深みのある声になりやすいと言われます。合唱やクラシック声楽でソプラノ・アルト・テノール・バスといった声のタイプ(声種)を分けるのは、こうした体の違いを踏まえたものです。

ただし、声の印象は声帯のサイズだけで決まるわけではありません。喉や口の広さ(声道の長さ)、息の使い方、発声の癖も大きく影響します。「声帯が小さいから高い声しか出ない」「声帯が太いから高音は無理」と決めつける必要はなく、自分の声帯の特徴を知ったうえで、無理のない音域から広げていくのが上達の近道です。

声帯は遺伝する?

親子や兄弟で声がよく似ているのは、骨格や喉頭の形、声道の長さといった体のつくりが似ているためと考えられています。その意味で声帯の特徴にも遺伝の影響はありますが、話し方の癖や生活環境による後天的な要素も大きく、声がそっくりになるかどうかは一概には言えません。

年齢による変化

声帯は大人になってからも少しずつ変化します。年齢を重ねると声帯の筋肉がやせたり粘膜が変化したりして、男性は声が高く、女性は声が低くなる傾向があります。年齢による変化と対策は、後の「声帯の老化と若返り」の章で詳しく解説します。

声帯の働きと役割|声が出る仕組みと呼吸・飲み込みでの動き

声帯の働きは声を出すことだけではありません。声帯の役割は大きく「発声」「呼吸」「気道を守る(誤嚥防止)」の3つで、状況に応じて開いたり閉じたりと動きを切り替えています。

声が出る仕組みと原理

声を出しているとき声帯がどうなってるのか、発声時の声帯の動きは次のような原理で説明されます。

  1. 声を出そうとすると、左右の声帯が中央に寄って閉じる
  2. 肺から押し出された息が閉じた声帯の下にたまり、圧力が高まる
  3. 圧力が一定を超えると声帯が押し開けられ、息が勢いよく抜ける
  4. 勢いよく流れる息で声帯のあいだの圧力が下がり(ベルヌーイ効果)、声帯自身の弾力も働いて再び閉じる
  5. この開閉が1秒間に100〜数百回くり返され、空気の振動(音)になる

ポイントは、声帯は筋肉で1回ずつ震わせているのではなく、息の流れと組織の弾力で自動的に振動していることです。筋肉が担当しているのは、閉じる位置や張りの強さといった「振動の条件」を整えることです。息の力で自然に震えるという点で、声帯の振動は唇をブルブル震わせるリップロールによく似ています。

呼吸のときの声帯

ふだん呼吸をしているとき、声帯は開いて空気を通しています。深く息を吸うときは後輪状披裂筋の働きでさらに大きく開き、声門が広がります。歌の前に深呼吸すると喉が開く感覚があるのは、このためです。

飲み込み・咳のときの声帯

食べ物や飲み物を飲み込むとき、声帯はぴったり閉じます。同時に喉頭が持ち上がり、喉頭蓋がふたのように倒れて、食べ物が気管に入らないように二重三重に守っています。これが誤嚥防止の働きです。もし食べ物が気管に入りかけると、声帯の周りの粘膜が異物を感知して咳が起こり、閉じた声帯を息の圧力で一気に開いて異物を吹き飛ばします。

重い物を持ち上げるときに息を止めて「ぐっ」と力むのも声帯の働きです。声帯を閉じて息を胸にとどめることで、体幹が安定して力を出しやすくなります。

呼吸・発声・飲み込みで声帯の開き方が変わる 呼吸 発声 飲み込み 大きく開く 寄って振動 固く閉じる
呼吸では開き、発声では寄って振動し、飲み込むときは固く閉じて気管を守る

声帯は楽器にたとえられる

声帯は、弦楽器の弦と管楽器のリードの両方の性質をもつ楽器にたとえられます。張りの強さと長さで音の高さが変わる点は弦、息の流れで振動する点はリードに似ています。そして声帯で生まれた音は、ギターの胴や管楽器の管にあたる声道で響いて、豊かな音色になります。

声の高さと声帯|高い声・低い声・裏声・ミックスボイスの仕組み

声帯が音程を変える仕組みは、弦楽器の調弦とよく似ています。声帯が伸びる(引き伸ばされて薄く張られる)ほど振動が速くなって高い声に、縮んで厚く緩むほど振動が遅くなって低い声になります。

高い声(高音)のときの声帯

高音を出すとき、前筋(輪状甲状筋)が甲状軟骨を前に傾け、声帯を前後に引き伸ばします。伸びた声帯は薄く張り詰め、1秒間の振動の回数(周波数)が増えて音が高くなります。高い声で喉の奥が引っ張られるような感覚があるのは、この伸ばす動きによるものです。無理に声帯を締めつけたまま音程だけ上げようとすると、張りすぎて苦しい声になりやすいので注意が必要です。

低い声のときの声帯

低い声では、声帯筋(甲状披裂筋)が働いて声帯が短く縮み、厚みを増します。振動する部分が重く緩くなるため、振動がゆっくりになり低い音になります。低い声と高い声の違いは、声帯の長さ・厚さ・張りの組み合わせの違いだと整理できます。

声帯の長さと張りで声の高さが変わる 低い声 短く・厚く・緩む 振動がゆっくり 高い声 長く・薄く・張る 振動が速い
声帯が縮んで厚いと低い声、引き伸ばされて薄く張ると高い声になる

裏声の仕組み

裏声(ファルセット)は、声帯が大きく引き伸ばされ、声帯の縁の薄い部分だけが振動している状態です。声帯筋の働きが弱く、左右の声帯が完全には接触しないことが多いため、息の混じった柔らかい音色になります。地声では声帯の厚い部分全体がしっかり接触して振動するのに対し、裏声では接触が浅く軽い振動になる、というのが仕組みの違いです。詳しくはファルセットの記事で解説しています。

ミックスボイスと声帯の関係

ミックスボイスは、地声のような芯のある響きを保ったまま高音まで出す発声です。声帯の中で何が起きているかについてはさまざまな説明がありますが、声帯を伸ばす前筋と、声帯を縮めて厚みを保つ声帯筋がバランスよく同時に働き、声帯がほどよく閉じた状態だと考えると分かりやすいでしょう。ミックスボイスの場所を喉のどこかで感じ取ろうとするより、音色と響く位置の変化を手がかりに練習するのが現実的です。詳しい練習法はミックスボイスの記事を参照してください。

音域と声帯の関係

出せる音域の広さは、声帯がどれだけ伸び縮みできるか、そしてその範囲でどれだけ安定して閉じられるかで決まります。音域の上限は声帯を伸ばす力と柔軟性、下限は声帯を緩めて厚くする力に左右されます。トレーニングで音域が広がるのは、声帯そのものが大きくなるからではなく、筋肉の協調がよくなり、使える伸び縮みの範囲が広がるからです。

声が震えるのはなぜ?

ロングトーンで声が震えるのは、息の圧力と声帯を閉じる力のバランスが一定に保てず、振動が揺れてしまうためです。意図的に音程を周期的に揺らすビブラートとは別物で、多くは支えの不足や喉の力みが原因です。逆にビブラートをかけたいのに声が震えないときは、喉周りが固まっていることがあります。どちらもロングトーンで息と声帯のバランスを整える練習が役立ちます。

声帯を見る方法|内視鏡・ファイバー・CT・MRIと正常な声帯の見た目

声帯は口からは見えるか、というと基本的に見えません。自分で見る方法もほぼなく、鏡をのぞいても声帯は見えないため、実際の声帯の見方は耳鼻咽喉科での検査になります。

声帯の検査方法

検査方法分かること
喉頭内視鏡(ファイバー)細いカメラを鼻から入れて喉を上から映す声帯の形・色・動き・できもの
硬性内視鏡口から棒状のカメラを入れて映す声帯の表面を高画質で観察
喉頭ストロボスコピー発声に合わせて光を点滅させ振動をスローに見る粘膜の波の出方・左右差
CT・MRI首の断層画像を撮る腫瘍の広がり・周囲の組織

もっとも一般的なのは、鼻からカメラを入れる喉頭ファイバースコープです。直径数ミリの柔らかい内視鏡を鼻の穴から通すと、喉頭を真上から見下ろせます。検査は数分程度で、鼻に麻酔のスプレーをしてから行うことが多く、「えー」「いー」と声を出しながら声帯の動きを確認します。医療機関によっては、その場で動画や写真をモニターで見せてもらえます。

レントゲンでは声帯のような柔らかい組織ははっきり写らないため、声帯そのものの観察には向きません。CTやMRIは、がんなどの腫瘍が疑われるときに、声帯の奥や周囲にどこまで広がっているかを調べるために使われます。CT画像やMRIでは声帯を横からや輪切りで見ることができます。

声帯の検査は目的によって使い分ける 内視鏡 形・色・動き まず行う ストロボ 振動の様子 声の専門外来 CT・MRI 腫瘍の広がり 必要なとき
まず内視鏡で形と動きを見て、必要に応じてストロボや画像検査を加える

正常な声帯の見た目

正常な声帯は、白くつやのある、なめらかな2本のヒダです。縁はまっすぐで、呼吸のたびに左右対称にV字に開き、発声では中央でぴったり合わさります。表面に細かい泡のような痰がのっていることがありますが、それ自体は珍しくありません。一方で、次のような見た目は何らかの異常のサインです。

  • 赤い・真っ赤: 炎症で充血している状態。風邪や声の使いすぎで赤くなることがあります
  • 白いもの・白い斑点: 結節や白板症、カビ(真菌)の付着などさまざまな可能性があります
  • 黒い・暗い赤色の部分: 声帯の中の出血(血腫)のことがあります
  • ギザギザ・ボコボコ: 縁がなめらかでない状態。腫瘍や乳頭腫などで見られます
  • びらびら・ブヨブヨ: 粘膜がむくんで垂れ下がった状態。ポリープ様声帯などで見られます

見た目だけで病気を判断することはできないため、気になる所見があれば医師の説明を受けて、必要なら組織の検査を行います。

声帯のイラスト・模型・本で学ぶ

声帯の構造を立体的に理解したいときは、喉頭の模型や解剖の図解本が役立ちます。ボイストレーニングの教室でも模型やイラストを使って説明することがあります。簡単な模型の作り方としては、ふくらませた風船の口を左右に引っ張って空気を少しずつ出す方法が知られています。口の部分が細かく震えて音が鳴り、引っ張る強さで音の高さが変わる様子は、声帯が息で振動する仕組みにそっくりです。

声の状態を測定する検査

声帯の働きは、見た目だけでなく声の測定でも評価します。代表的なのが、息を吸ってから「あー」と声を出し続けられる時間を測る最長発声持続時間で、平均は成人男性で約30秒、女性で約20秒、男性14秒以下・女性9秒以下は異常の目安とされています。声帯がしっかり閉じずに息が漏れていると、この時間が短くなります。そのほか出せる音域(声域)や声の大きさ、声のかすれ具合なども測定して、治療の効果を確かめます。

歌うときの声帯の使い方|閉じる方法・開き方・力を抜くコツ

歌で声帯を上手に使うカギは、「閉じすぎず、開きすぎず」のちょうどよい閉じ具合を保つことです。声帯がしっかり閉じると芯のある声に、閉じが甘いと息もれの多いかすれた声に、締めすぎると苦しく詰まった声になります。

声帯を閉じる方法と閉じる感覚

声帯の閉じ方を体感するには、次のような方法が役立ちます。

  1. 息を止める: 軽く息を吸って「んっ」と止めます。喉の奥で息がせき止められている感覚が、声帯が閉じている感覚です
  2. エッジボイス: 「あ」の母音をため息のように低く小さく出し、プツプツという音にします。声帯が軽く閉じて、ゆっくり振動している状態です
  3. 咳払いの手前: 咳払いをする直前の、喉がきゅっと合わさる瞬間を感じ取ります(実際に強く咳払いをくり返すのは声帯によくありません)

閉じる感覚がつかめたら、その閉じ具合を保ったまま「あー」と声を伸ばします。声帯閉鎖の練習は声帯閉鎖、エッジボイスの出し方はエッジボイスの記事で詳しく紹介しています。

声帯の締め方と締めすぎの注意

「声帯を締める」という表現はよく使われますが、首や喉の外側の筋肉まで力ませて締め方を覚えると、喉を絞った苦しい声になってしまいます。締めるのは声帯だけで、首・あご・舌は力を抜いたままというのが理想です。声を出したときに首の筋が浮き出る、あごが前に出る、顔が赤くなるといった場合は、締めすぎのサインです。

声帯の閉じ具合は強すぎても弱すぎてもいけない 閉じが弱い 息もれ・かすれ ちょうどよい 芯がありよく響く 締めすぎ 詰まる・苦しい 弱い ←――― 閉じる力 ―――→ 強い
声帯の閉じる力は、息もれと詰まりのあいだのちょうどよい範囲に保つ

声帯の開き方・開け方

声帯を開くには、特別なことをする必要はありません。息を吸えば声帯は自然に開きます。歌で「声帯を開く」と言うときは、多くの場合、ブレスで息を深く吸い込むことや、フレーズの終わりで声帯をふっと離して余韻を作ることを指します。息を吸うたびに喉を「ひゅっ」と鳴らしてしまう人は、声帯が十分に開ききっていないので、あくびの始まりのように喉を広げる感覚で吸ってみましょう。声帯を開くにはリラックスが第一です。

声帯を緩める・力を抜くコツ

声帯の緩め方とは、声帯を締めつけている余分な力を抜くことです。次のような方法で喉周りの力みを取ると、声帯が自由に振動できるようになります。

  • ため息をつくように「はぁー」と息まじりの声を出す
  • リップロールやハミングで、軽い振動から声を出し始める
  • あくびをするように喉の奥を広げ、そのまま低めの声を出す
  • 首・肩をゆっくり回して、首の外側の筋肉の緊張をほどく

脱力といっても、声帯の力まで抜ききってしまうと息もれの声になります。緩めるのは首・肩・あごの余分な力、保つのは声帯の軽い閉じ、という区別を意識しましょう。

歌う前の声帯の起こし方

朝起きてすぐの声帯はむくみ気味で、粘膜も乾いています。歌う前は、いきなり高音や大声を出すのではなく、ハミングやリップロールで小さく声を出し、少しずつ音域を広げていく声帯の起こし方がおすすめです。声帯の温まり方には個人差があるので、自分に合ったウォーミングアップの長さを探しておきましょう。

声帯を鍛える方法|歌のためのトレーニングと練習メニュー

声帯を鍛えるとは、声帯そのものを筋トレで太くすることではなく、声帯を閉じる・伸ばす・縮める筋肉の協調をよくして、思いどおりに素早く正確に動かせるようにすることです。声帯の筋肉を鍛えると、声の芯が安定し、音域や声量が広がり、疲れにくい喉になっていきます。

声帯を鍛えるとどうなる?

  • 声帯がしっかり閉じるようになり、息もれの少ない芯のある声になる
  • 高音で声帯を伸ばす力と、厚みを保つ力のバランスがとれ、高音が楽になる
  • 弱い声や小さい声でも音程と音色が安定する
  • 長時間歌っても声が枯れにくくなる

声帯の鍛え方|おすすめのトレーニング

歌で声帯を鍛えるときは、負担の少ない練習から段階的に進めるのが基本です。

  1. ストローを使ったトレーニング: 細いストローをくわえて「うー」と声を出し、音程を上下させます。口の出口が狭いことで喉の中の圧力がちょうどよく保たれ、声帯を強くぶつけずに効率よく振動させられます。ストローで鍛える方法は声帯への負担が小さく、声がかれているときのリハビリにも使われます
  2. リップロール・タングトリル: 唇や舌を震わせながら声を出し、息と声帯のバランスを整えます
  3. エッジボイスから母音へ: エッジボイスで声帯を軽く閉じた状態を作り、そのまま「あー」とつなげて閉鎖筋を鍛えます。閉鎖を鍛えるトレーニングの定番です
  4. ロングトーン: 同じ音をまっすぐ伸ばし、声帯の閉じ具合を一定に保つ練習です
  5. スケール練習: 「ドレミファソファミレド」などを低音から高音へ移調しながら歌い、声帯の伸び縮みを鍛えます

高音を鍛えるには、裏声で高い音をやさしく出し、少しずつ芯を加えていく練習が効果的です。いきなり地声で高音を張り上げる練習は声帯を傷めやすいので避けましょう。

声帯トレーニングは軽い練習から順に進める ストロー ほぐす エッジ 閉じる ロングトーン 保つ スケール 伸び縮み 負担が軽い → 負担が大きい
ストローで喉をほぐし、閉じる・保つ・伸び縮みの順に負荷を上げていく

声を出さないで鍛えることはできる?

声帯の筋肉は声を出すときに最もよく働くため、声を出さないで声帯を鍛えるのは難しいのが実情です。ただし、息を一定に吐き続ける呼吸の練習や、息を軽く止めて声帯の閉じる感覚を確かめる練習は、声を出せない環境でもできます。本格的な筋トレのように器具を使って声帯の筋肉を鍛える方法はなく、あくまで発声そのものがトレーニングになります。

声帯を強くする方法と柔軟性

声帯を強くする方法というと、大声を出し続けて喉を慣らすイメージを持つ人もいますが、これは逆効果です。声帯が強くなるとは、負担の少ない発声で長く使えるようになることであり、そのためには力だけでなく柔軟性も欠かせません。声帯を柔らかくするには、高い音から低い音へなめらかに滑らせるサイレン練習や、裏声と地声を行き来する練習が役立ちます。声帯を柔らかくする方法は、固く締めつけた発声をほどくことでもあります。

トレーニングの注意点

  • 1回の練習は短めにし、声がかすれてきたらすぐ休む
  • 痛みや違和感があるときは練習しない
  • 毎日少しずつ続けるほうが、週末にまとめて長時間練習するより効果的

自己流で進めて声が悪化した経験がある人や、正しくできているか分からない人は、ボイストレーナーに発声を見てもらうのが確実です。

声帯の長さ・厚さは変えられる?高くする・低くする方法

「声帯を変えることはできるのか」という疑問に対する答えは、声帯の大きさ(骨格として決まった長さ)は練習では変えられないが、振動させるときの長さ・厚さ・張りの状態は練習で変えられるです。

声帯で変えられるもの・変えられないもの 練習で変わらない 声帯そのものの長さ 喉頭の大きさ 生まれつきの形 練習で変えられる 伸ばし方・縮め方 振動する厚み 閉じ具合と張り
声帯の大きさは変わらないが、振動のさせ方は練習で変えられる

声帯を高くする(声を高くする)には

高い声を出しやすくするには、声帯を伸ばして薄く張る動きを練習で身につけます。前の章で紹介した裏声の練習やサイレン練習で声帯の伸ばし方を覚えると、高音域が徐々に広がります。声帯を伸ばすことは、弦を張って音を高くするのと同じです。声帯を薄くする方法、声帯を細くする方法と呼ばれるものも、実際には「振動する部分を薄く使う発声」を身につけることを指しています。

声帯を低くする(声を低くする)には

低い声を出すには、声帯を短く縮めて厚みを持たせる動きを使います。あくびの喉のように喉頭を少し下げた状態で、力を抜いて低めの声を出す練習が役立ちます。喉頭を下げる方法としては、あくびの吸い始めの形を保つ、口の奥を縦に広げるといったやり方が一般的です。ただし、喉仏を無理に押し下げて低い声を作ると、こもった不自然な声になりやすいので注意しましょう。

なお、ハスキーな声に憧れて声帯の潰し方を調べる人もいますが、わざと大声で声を枯らして声帯を傷めるのは絶対にやめましょう。傷ついた声帯は結節やポリープの原因になり、思いどおりのハスキーボイスではなく、コントロールの利かないかすれ声が残るだけです。

声帯を厚くする・短くする方法

声帯を厚くして太い声を出したい場合は、声帯筋をしっかり使う地声の練習、特に中低音でのロングトーンが効果的です。声帯を縮めると振動する部分が短く厚くなり、声に重みが出ます。声帯を短くする方法を探している人の多くは、声を低く太くしたいという目的なので、まずは話し声の高さで芯のある声を出す練習から始めましょう。

声帯を広げることはできる?

声帯を広げる、つまり声門を大きく開くのは、呼吸のときに自然に起こる動きです。歌で「喉を広げる」と言う場合は、声帯よりも上の咽頭や口の奥の空間を広げることを指すのが一般的で、そのほうが響きのある声になります。喉の奥の空間については咽頭腔や軟口蓋の記事を参照してください。

手術で声帯を変えることはできる

声帯の長さや張りを手術で変えて、声の高さを変える治療は存在します。性別違和の人の声の女性化手術や、病気で変わった声を元に近づける手術などです。ただし、どの手術でも思いどおりの声になるとは限らず、声が低くなる・かすれるといったリスクもあります。詳しくは後の「声帯の手術」の章で解説します。

声帯のケアと休め方|むくみ解消・食べ物・飲み物の注意

声帯のケアで最も大切なのは、休ませること・潤すこと・刺激を避けることの3つです。声帯は筋肉と粘膜でできているため、使いすぎれば疲労し、休めば回復します。

声帯を休める方法

声帯を休ませる方法の基本は、声を出さないこと(声の安静)です。ささやき声は声帯に負担がかからないように思えますが、実際には息を無理に押し出すため喉が疲れやすく、休ませたいときには向きません。声帯を休めるときは、次のポイントを意識しましょう。

  • 大声・長話・カラオケを控え、必要な会話は普通の小さめの声で短く
  • 咳払いをくり返さない(つばを飲み込む・水を飲むで代用する)
  • しっかり睡眠をとる
  • 部屋を加湿し、マスクで喉の乾燥を防ぐ

歌いすぎて声帯が疲れやすい、翌日に声が枯れる、喉に筋肉痛のような疲労感が残るといった場合は、声帯の使いすぎのサインです。1〜2日しっかり休めば回復することがほとんどですが、声の不調が2週間以上続くときは受診しましょう。

飲み物や食べ物は声帯に直接触れない

意外に知られていませんが、飲み物や食べ物は声帯には直接触れません。飲み込むときは声帯が閉じ、喉頭蓋がふたをして、食べ物は後ろ側の食道へ流れていきます。そのため、はちみつやオリーブオイルなどの油分が声帯を直接コーティングする、うがいで声帯を洗うといったことは起こりません。うがい薬のうがいも、届くのは咽頭までです。

飲み物は食道へ流れ声帯には触れない 口・咽頭(共通の通り道) 喉頭・声帯 飲むとき閉じる 食道 飲み物が通る ふた
飲み込むときは喉頭にふたがされ、飲食物は食道へ流れるので声帯には直接触れない

それでも水分補給が大切なのは、体に取り込まれた水分が粘膜の潤いのもとになるからです。こまめに常温の水を飲むことが、結果的に声帯の潤いにつながります。直接潤すなら、蒸気を吸い込む吸入が有効です。

声帯によい食べ物・避けたいもの

  • お酒: アルコールは脱水を招き、血管を広げて声帯のむくみの原因になります。歌う前や声が枯れているときは控えましょう
  • 炭酸: 声帯には直接触れませんが、げっぷや胃酸の逆流を起こしやすく、歌う直前は避けたほうが無難です
  • 辛い物・熱すぎる物: 咽頭の粘膜を刺激し、炎症があるときは悪化させることがあります
  • 寝る前の満腹: 胃酸が喉まで逆流しやすくなります。ご飯は就寝の2〜3時間前までに済ませるのが理想です

喉によいとされるサプリや漢方(麦門冬湯など)、のど飴もありますが、効果の感じ方には個人差があり、声帯の病気を治すものではありません。漢方や薬を使うときは薬剤師や医師に相談しましょう。

声帯のむくみの原因と解消法

声帯のむくみ(浮腫)は、声の使いすぎ、飲酒、喫煙、睡眠不足、胃酸の逆流、風邪などが原因で起こります。女性では生理の前後にホルモンの影響で声帯がむくみやすく、声が低くなったり出しにくくなったりすることがあります。咳が続くと声帯同士が強くぶつかり、むくみが悪化します。

むくみの解消には、声の安静・十分な睡眠・水分補給・加湿が基本です。むくみとりに即効性のある方法や、むくみに直接効く市販の薬があるわけではありません。朝起きると声帯が浮腫んでるように声が重い、むくみやすい体質だと感じる人や、むくみが長く引かない人は、ポリープ様声帯などの病気が隠れていないか耳鼻咽喉科で確認してもらいましょう。

マッサージ・ストレッチ・ツボ

声帯そのものを外からマッサージしてほぐすことはできませんが、首・肩・あご周りの筋肉をほぐすことで(これが一般に声帯のほぐし方と呼ばれているものです)、喉頭の動きが楽になり声が出しやすくなります。首を左右にゆっくり倒すストレッチ、あご関節の周りを指で円を描くようにほぐす方法、蒸しタオルで首元を温める方法などが手軽です。喉に効くツボとして天突(てんとつ、鎖骨のあいだのくぼみ)などが紹介されることもありますが、医学的な効果ははっきりしていないため、リラックスのための補助と考えましょう。声帯を強く押したり揉んだりするのは避けてください。

声帯の不調のサインとセルフチェック|何科を受診する?

声帯に何かが起きると、まず声に変化が表れます。声がかすれる・声が出ない・声が安定しない・息が漏れるといった変化は、声帯からのサインです。

こんな症状は声帯の不調のサイン

  • 声枯れ、ガラガラ声、かすれ声(医学的には嗄声=させいといいます)
  • 声が出ない、出しにくい、途中で途切れる
  • 声が安定しない、裏返る、高い声が出なくなった
  • 声を出すと空気が漏れるような感じがする、すぐ息が切れる
  • 喉に違和感、何かが引っかかる感じがある
  • 痰が絡む、咳払いをしたくなる
  • 声を出すと喉が痛い、疲れやすい

カラオケのあとに声が潰れる、「今日は声がおかしい」「喉が荒れてる感じがする」程度の軽い不調なら、声の使いすぎや乾燥によるものが多く、休めば数日で戻ります。一方で、少し歌っただけですぐ痛める、カラオケのたびに喉がやられた状態になるという人は、発声の癖で声帯に負担をかけている可能性があります。

受診の目安

声の不調が続いたら耳鼻咽喉科へ 声がかすれる・出ない 数日で改善 休養と加湿で様子見 2週間以上続く 耳鼻咽喉科を受診 息苦しい・血が混じる・しこり → すぐ受診
数日で戻る声枯れは様子を見てよいが、2週間以上続くときや危険なサインがあれば受診する

次のような場合は、早めに医療機関を受診してください。

  • 声のかすれが2週間以上続く(特に喫煙者や、原因に心当たりがない場合)
  • 息苦しさ、ゼーゼーという呼吸音がある
  • 痰に血が混じる、飲み込みにくい
  • 首にしこりやリンパの腫れがある
  • 高い熱とともに喉の強い痛みがある
  • 首をぶつけた・打撲したあとに声が変わった

特に、急に息苦しくなった、つばも飲み込めないほど喉が痛いといった場合は、急性喉頭蓋炎のような緊急の病気の可能性があるため、夜間でも救急を受診しましょう。

何科の病院に行けばいい?

声帯の不調は耳鼻咽喉科(耳鼻科)が担当します。何科の病院に行くか迷ったら、まず近くの耳鼻咽喉科のクリニックで内視鏡の検査を受けるのが一般的です。歌手や声を仕事に使う人、治療が長引いている人は、「音声外来」「声の外来」を設けている専門病院や、音声を専門とする専門医のいる医療機関を紹介してもらうとよいでしょう。おすすめの病院を探すときは、内視鏡やストロボスコピーの設備があるか、音声治療(声のリハビリ)を行う言語聴覚士がいるかを目安にすると選びやすくなります。

声帯はちぎれたり切れたりする?

日常の発声で声帯がちぎれる、切れる、壊れるということはまずありません。ただし、大声を出した瞬間に声帯の中の血管が切れて出血する(声帯出血)ことはあり、急に声が出なくなったり、声が大きく変わったりします。また、交通事故やスポーツでの首への強い打撲など外傷で喉頭が損傷することもあります。声帯が切れたらどうなるかを心配するような強い衝撃を受けたときや、怪我のあとに声・呼吸の異常が出たときは、すぐに受診してください。

声帯結節とは|症状・原因・治し方と治らないとき

声帯結節(せいたいけっせつ)とは、声の使いすぎによって声帯の左右の同じ位置にできる、小さく硬いふくらみです。声帯結節の読み方は「せいたいけっせつ」。声帯結節とはどんな病気かを一言でいえば、声帯にできる「タコ」で、ペンを長く握ると指にできるぺんだこと同じ仕組みです。歌手や教師、保育士など、声をよく使う人に多いことから「歌手結節」とも呼ばれます。

声帯結節の原因

声帯結節の原因は、声帯の膜様部の中央付近(前から3分の1あたり)が、発声のたびに強くぶつかり合うことです。左右の声帯のこの部分は振動の幅が最も大きく、衝突の負担が集中するため、粘膜が少しずつ厚く硬くなっていきます。そのため、結節は左右両側に向かい合ってできるのが特徴です。

  • 大声や叫び声、長時間の発声
  • 喉を締めつけた力みの強い発声
  • 自分の音域に合わない高さでの歌唱
  • 咳払いのくせ
  • ストレスで肩や首に力が入り、喉を締める発声になっている

ストレスそのものが声帯結節を作るわけではありませんが、緊張や疲労で力みの強い発声になったり、休息がとれなかったりすることが悪化の一因になります。

声帯結節の症状

声帯結節の症状は、声のかすれ、高い声が出にくい、声がひっくり返る、息もれ、声が疲れやすいといったものです。結節があると左右の声帯のあいだにすき間ができるため、息の混じった声になりやすく、特に高音の小さな声が出しにくくなります。痛みはあまりありません。

声帯結節は両側、ポリープは片側にできやすい 声帯結節 声帯ポリープ 左右に小さく対称 片側に大きめ
結節は両側の同じ位置に小さく、ポリープは片側に大きめにできることが多い

声帯結節の治し方

声帯結節の治療は、手術よりも先に声の安静と音声治療(声のリハビリ)から始めるのが一般的です。初期の柔らかい結節であれば、声の使い方を改善するだけで小さくなったり消えたりすることが多いとされています。

  1. 声の安静: 大声や長時間の発声を控え、声帯のぶつかり合いを減らす
  2. 音声治療: 言語聴覚士の指導で、息と声帯のバランスがとれた負担の少ない発声を身につける
  3. 薬や吸入: 炎症やむくみを伴う場合に補助的に使う
  4. 手術: 硬く大きくなった結節や、音声治療で改善しない場合に検討する

声帯結節が治らないとき・手術後

声帯結節が治らない原因の多くは、声の使い方が変わっていないことです。手術で結節を取っても、同じ発声を続ければ再発しやすいため、手術の前後にも音声治療を並行して行います。声帯結節の手術後に声が変わるのかを心配する人もいますが、一般的には結節によるかすれが取れて声が出しやすくなることが期待されます。ただし術後しばらくは声の安静が必要で、歌への本格的な復帰は医師の許可を得てから段階的に進めます。

声帯ポリープとは|症状・原因・治し方と手術

声帯ポリープとは、声帯の粘膜にできる、柔らかくふくらんだ良性のできものです。多くは片側の声帯にでき、大きさは米粒ほどのものから、声門をふさぐほど大きなものまでさまざまです。ポリープとは一般に粘膜から盛り上がったできものを指す言葉で、胃や腸のポリープとは別のものです。

声帯ポリープの原因

声帯ポリープの原因として多いのは、大声を出した・叫んだ・激しく咳き込んだといった一度の強い負担で声帯の中の血管が切れ、内出血(血腫)が治りきらずにふくらんだものです。声帯結節が長い時間をかけてできる「タコ」なのに対し、ポリープは「内出血のあと」がふくらんだものと考えると違いが分かりやすいでしょう。そのほか、喫煙、飲酒、声の酷使、胃酸の逆流なども原因や悪化の要因になります。

声帯ポリープの症状と初期症状

声帯ポリープの症状で最も多いのは、声のかすれ(嗄声)です。ポリープがあると左右の声帯の振動がそろわなくなり、ガラガラ声や二重に聞こえるような声になります。初期症状としては、次のような変化が見られます。

  • 大声を出したあとから声がかすれたまま戻らない
  • 高い声や小さい声が出にくい、声がひっくり返る
  • 喉に異物感・違和感がある、痰が絡む感じがする
  • 咳払いをしたくなる、軽い咳が出る

声帯ポリープの症状に痛みはあまりなく、熱も出ません。熱や強い喉の痛みがある場合は、ポリープよりも喉の炎症や感染を疑います。自分でできる症状のチェックとしては、「声のかすれが2週間以上続いている」「大声を出した日をきっかけに声が変わった」「喫煙している」が当てはまるかを確認し、当てはまれば耳鼻咽喉科で内視鏡の検査を受けましょう。

ポリープと癌の違い

声帯ポリープは良性で、がんになることはまれとされています。ただし、声のかすれという症状は喉頭がんと共通しており、見た目だけで区別がつかないこともあります。ポリープと癌の違いは最終的には切除した組織の検査で確かめるため、特に喫煙歴のある人はかすれを放置しないことが大切です。

声帯ポリープの治し方

小さく柔らかいポリープは、声の安静や禁煙、吸入などの保存的な治療で小さくなることがあります。一方で、ある程度の大きさがあるものや、時間がたって固くなったものは自然には消えにくく、手術で取る治療が選ばれます。なお、ポリープに効く食べ物や、飲んでポリープが消える薬はありません。

声帯ポリープの治療はまず保存治療から 受診 内視鏡 保存治療 安静・禁煙 手術 残る場合 術後ケア リハビリ 小さく柔らかいものは手術せずに済むこともある
内視鏡で診断し、保存治療で改善しなければ手術、術後は声の安静とリハビリを行う

声帯ポリープの手術|麻酔・日帰り・手術後

声帯ポリープの手術は、口から金属の筒(喉頭鏡)を入れ、顕微鏡で見ながら細い器具でポリープを取り除く喉頭微細手術が代表的です。全身麻酔で行い、数日の入院が必要になることが多い一方、ポリープの位置や大きさによっては、局所麻酔で内視鏡を使って外来で除去する日帰りの手術を行う医療機関もあります。どちらが適しているかは、ポリープの状態と医師の判断で決まります。

声帯ポリープの手術後は、傷が落ち着くまで数日から1週間ほど声を出さない沈黙期間を設けるのが一般的で、その後、小さな声から少しずつ話す量を増やしていきます。手術後の食事は、多くの場合は通常どおりとれますが、刺激の強いものや飲酒は控え、医師の指示に従いましょう。タバコは再発の大きな要因になるため、手術後は禁煙が強くすすめられます。

手術の失敗が心配なとき

声帯ポリープの手術は一般的な手術ですが、声帯は非常に繊細なため、手術後に声のかすれが残る、傷あとで声帯が固くなるといった可能性はゼロではありません。手術の失敗が心配な場合は、声の専門外来で説明を受け、リスクや術後の見通しを確認してから決めると安心です。実際に、ポリープの手術を受けてから復帰し、第一線で歌い続けているプロの歌手も少なくありません。

声帯炎とは|症状・原因・薬と治るまでの期間

声帯炎とは、声帯やその周りの粘膜に炎症が起きて、赤く腫れた状態です。医学的には急性喉頭炎の一部として扱われることが多く(「声帯炎症」と表記されることもあります)、風邪のあとや声を使いすぎたあとに起こります。声帯が赤く腫れると振動がうまくいかなくなり、声がかすれたり、まったく声が出なくなったりします。

声帯炎の原因

  • 風邪などの感染: ウイルスや細菌が喉に感染し、炎症が声帯まで広がる
  • 声の使いすぎ: カラオケやライブ、応援などで長時間大声を出した
  • 咳: 激しい咳が続いて声帯がぶつかり合い、炎症や腫れが起こる
  • 刺激: 喫煙、飲酒、乾燥した空気、ほこり
  • 胃酸の逆流: 逆流性食道炎などで胃酸が喉まで上がってくる

ストレスや疲れで免疫力が落ちていると感染しやすく、声帯炎が長引く一因になります。

声帯炎の症状

声帯炎の症状は、声のかすれ、声が出ない、喉のイガイガ感や痛み、咳、痰などです。風邪が原因の場合は熱や鼻水を伴うこともあります。炎症が強いと声帯が真っ赤に腫れてむくみ、声がまったく出なくなることもあります。炎症の程度によっては、声帯の表面に白いものが付着して見えることもあります。

声帯炎はうつる?

声帯炎そのものがうつるわけではありませんが、原因が風邪のウイルスや細菌の場合、その病原体は他の人にうつる可能性があります。咳やくしゃみが出るときはマスクをし、手洗いを心がけましょう。声の使いすぎが原因の声帯炎は、人にうつることはありません。

声帯炎の治し方と薬

声帯炎の治し方の基本は、声の安静・加湿・水分補給です。炎症が起きている声帯を使い続けると回復が遅れ、ポリープなどの原因にもなるため、できるだけ声を出さないようにします。医療機関では、炎症を抑える薬の吸入(ネブライザー)や、炎症を抑える薬・痰を切る薬などの内服薬が処方されます。細菌感染が疑われる場合は抗菌薬が使われることもあります。

市販薬を使う場合は、喉の炎症を抑える成分(トラネキサム酸など)を含むのど薬や、のどスプレー、トローチなどがあります。ただし市販薬は症状をやわらげるもので、声帯炎を根本から治すものではありません。症状が長引く場合は自己判断で飲み続けず、受診しましょう。炎症があるときの食べ物は、はちみつ湯やスープなど喉にやさしいものを選び、辛いもの・熱すぎるもの・お酒は避けます。

声帯炎が治るまでの期間

風邪や一時的な声の使いすぎによる急性の炎症であれば、声を休めていれば数日から1〜2週間ほどで治ることが多いとされています。炎症が治るまでのあいだに無理に歌うと、慢性の炎症に移行したり、声帯に傷が残ったりすることがあります。

急性の声帯炎は1〜2週間が回復の目安 発症〜数日 〜2週間 2週間以上 声の安静 少しずつ回復 受診して確認
急性の炎症は安静にすれば1〜2週間ほどで回復することが多く、長引けば受診する

慢性の声帯炎・声帯の腫れが続くとき

喫煙や声の酷使、胃酸の逆流などの刺激が続くと、炎症が慢性化して声帯が腫れたままになることがあります。腫れてる状態が長く続くと、声帯全体がむくんでブヨブヨになるポリープ様声帯(後述)に進むこともあります。声が出ないほどの腫れがある、赤く腫れる状態をくり返すといった場合は、原因となっている生活習慣や発声の癖を見直すとともに、耳鼻咽喉科で原因を調べてもらいましょう。

声帯の近くで起こる炎症

声帯の近くでは、次のような炎症や感染も起こります。似た症状でも治療が異なるため、自己判断は禁物です。

急性喉頭蓋炎
声帯の上の喉頭蓋が急に腫れる病気。息の通り道がふさがるおそれがあり、強い喉の痛みや息苦しさがあれば緊急の受診が必要です。
クループ(仮性クループ)
主に幼い子どもで、声帯の下あたりがウイルス感染で腫れる病気。犬の遠吠えのような「ケンケン」という咳と声がれが特徴です。
扁桃腺の炎症
扁桃炎は咽頭の病気で、声帯炎とは場所が違います。膿が付いたり高い熱が出たりしますが、声のかすれは強くないことが多いです。
ヘルペスなどのウイルス感染
まれに喉や喉頭の粘膜に水疱や潰瘍ができることがあります。
偽膜を作る感染症
ジフテリアなど一部の感染症では、喉に灰白色の偽膜ができることがあります。予防接種の普及で日本ではまれです。

声帯の病気一覧|浮腫・嚢胞・肉芽腫・乳頭腫・白板症・がん

声帯の病気は、結節・ポリープ・炎症のほかにもいくつかあります。声帯のできものは、良性のもの・がんになる可能性のある前癌病変・悪性腫瘍(がん)に大きく分けられます。ここでは代表的な声帯の病気を一覧で紹介します。

声帯のできものは良性・前がん・悪性に分かれる 良性 結節・ポリープ 嚢胞・肉芽腫 浮腫・乳頭腫 前がん病変 白板症 異形成 悪性 喉頭がん (声門がん) 見た目だけでは区別できない
声帯のできものは良性・前がん病変・悪性に分かれ、組織の検査で確定する

ポリープ様声帯(声帯浮腫)

声帯の粘膜の下(ラインケ腔)に水分がたまり、声帯全体がぶよぶよにむくんだ状態です。内視鏡で見ると声帯がブヨブヨしてるように垂れ下がり、両側に起こることが多く、声が低くガラガラになるのが特徴で、中高年の女性が「男性と間違えられるほど声が低くなった」と気づくこともあります。浮腫の原因はほとんどが喫煙で、声の酷使も加わります。禁煙しないとむくみは治らないことが多く、浮腫が治らない場合や呼吸の妨げになる場合は手術でむくみを取り除きます。

声帯嚢胞

声帯の粘膜の下に、液体や角化物がたまった袋(嚢胞)ができる病気です。見た目は水ぶくれや白い粒のように見え、片側にできることが多いです。音声治療では消えにくいため、手術で袋ごと取り除くのが一般的です。嚢胞の手術後も、ポリープと同様に一定期間の声の安静が必要です。

喉頭肉芽腫

声帯の後ろ側、披裂軟骨の突起のあたりにできる赤っぽいできものです。胃酸の逆流(逆流性食道炎)、強い咳払いのくせ、全身麻酔で気管に管を入れたあとの傷などが原因になります。肉芽腫の症状は、喉の違和感、咳払い、軽い声のかすれなどです。肉芽(にくげ)は手術で取っても原因が残ると再発しやすいため、胃酸を抑える薬や吸入などの保存的な治療が中心で、治らない肉芽腫や大きなものに限って手術を検討します。

声帯出血・血腫(血豆)

大声や激しい咳で声帯の中の血管が切れ、声帯に血がたまった状態です。声帯に血豆ができたように見え、急に声がかすれます。声の安静で吸収されることが多いものの、無理をするとポリープになることがあるため、歌手が本番直前に出血した場合も休むのが原則です。

喉頭乳頭腫

ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によって、声帯などにイボのようなできものが多発する病気です。表面がボコボコしたカリフラワー状に見え、再発をくり返しやすいのが特徴です。子どもにも大人にも起こり、手術で切除をくり返しながら経過を見ます。

声帯白板症

声帯の表面が白く厚くなる病気で、白いできものの原因として代表的なものです。喫煙が大きな原因で、一部は時間をかけてがんに進むことがあるため前癌病変として扱われます。組織を採って検査し、経過観察や切除を行います。

喉頭がん(声帯のがん)

喉頭がんは、声帯を含む喉頭にできる悪性腫瘍で、日本では声帯にできる声門がんが多いとされています。最大の原因は喫煙で、飲酒も危険因子です。声帯のがんは早い段階から声のかすれが出るため、早期に見つかりやすいがんでもあります。ガンかどうかは組織の検査で確定し、早期なら放射線治療や声帯の一部を切除する手術で声を残せる可能性が高くなります。進行すると喉頭全摘出が必要になることもあります。喫煙者で声のかすれが2週間以上続く場合は、癌の可能性も考えて早めに受診しましょう。

声帯溝症・変形

声帯の縁に沿って溝ができ、声帯が閉じきらずにすき間ができる病気です。生まれつきのものと、炎症などのあとに起こるものがあると考えられています。息もれの多いかすれ声になり、声帯萎縮と同じような治療(音声治療や声帯内注射など)が行われます。そのほか、手術や外傷の傷あとで声帯が変形し、振動しにくくなること(瘢痕)もあります。

声帯が閉じない・動かない|声帯麻痺・閉鎖不全・萎縮の原因と治療

声帯がしっかり閉じず、左右のあいだに隙間(すき間)が残る状態を声門閉鎖不全といいます。声帯の閉鎖不全とは病名ではなく状態の名前で、原因には声帯麻痺・声帯萎縮・声帯溝症などがあります。声帯が閉じない・くっつかないと、息が漏れてかすれた弱い声になり、飲み込むときにむせやすくなります。

声帯麻痺(反回神経麻痺)

声帯を動かす反回神経が傷つき、声帯が動かなくなる状態が反回神経麻痺(声帯麻痺)です。多くは片方の声帯が動かない片側の麻痺で、声がかすれる、息が漏れて長く話せない、水を飲むとむせる(誤嚥)といった症状が出ます。原因には、甲状腺・肺・食道・心臓などの手術や病気、首や胸の腫瘍、ウイルス感染などがあり、原因がはっきりしないこともあります。内視鏡で見ると、発声したときに声帯の動きに左右差があり、閉じたときの形が左右非対称になっていることで分かります。

麻痺した声帯が止まる位置によって、症状の重さが変わります。

麻痺した声帯が止まる位置で症状が変わる 正中位 傍正中位 中間位 開大位 発声 少し開く 安静呼吸 深い吸気
声帯は正中位から開大位まで位置を変え、麻痺で止まった位置によって声と呼吸への影響が変わる

傍正中位(中央に近い位置)で止まれば、もう片方の声帯が寄って補えるため声は比較的保たれます。中間位で固定されるとすき間が大きく、息もれの強い声になります。一方、両側の声帯が中央近くで動かなくなる両側の傍正中固定では、声は出ても息の通り道が狭くなり、呼吸が苦しくなるため緊急の処置が必要になることがあります。声帯が開きっぱなしで閉じない場合と、閉じたまま開かない場合では、困りごとが正反対になるのです。

麻痺は治る?

神経が完全に切れていなければ、数か月から1年ほどかけて自然に回復することがあります。そのため、まずは経過を見ながら、声のリハビリ(音声治療)で残った動きを最大限に生かす練習を行います。麻痺が治るかどうかは原因と神経のダメージの程度によるため、主治医とよく相談しましょう。回復しない場合は、次のような治療で声を改善できます。

  • 声帯内注入術: 動かない声帯に脂肪やコラーゲン、ヒアルロン酸などを注入してふくらませ、すき間を埋める注射の治療
  • 甲状軟骨形成術: 首の外側から軟骨に窓を開け、声帯を内側へ押し出して位置を変える手術
  • 披裂軟骨内転術: 声帯の後端を引っ張って閉じる位置に固定する手術

披裂軟骨脱臼

全身麻酔の手術で気管に管を入れたときなどに、声帯の後端を支える披裂軟骨がずれることがあり、これを披裂軟骨脱臼といいます。声帯がずれる・動きが悪いといった状態になり、声がかすれます。早い時期に整復すると治る可能性が高いとされるため、手術後に声の異常が続く場合は早めに相談しましょう。

声帯萎縮とbowing

声帯萎縮は、声帯の筋肉や粘膜がやせて薄くなり、閉じたときに弓なりのすき間ができる状態です。この弓状のすき間をbowing(ボーイング)と呼びます。声帯が痩せる原因は、加齢、声をあまり使わない生活、長い闘病や寝たきりなどで、声帯が痩せている人は声が弱い・細くなる・かすれるといった変化を感じます。声帯が細くなると左右がくっつかない部分が生まれ、力が入らないような弱い声になります。

隙間の原因が萎縮であれば、治療の基本は声帯を閉じる筋肉を鍛える音声治療です。十分に改善しない場合は声帯内注射が検討され、声帯の再生を促すbFGF(商品名フィブラスト)を声帯に注射する治療も、声帯萎縮や声帯溝症を対象に一部の医療機関で行われています。

生まれつき声帯が弱いことはある?

声帯溝症のように生まれつきの要因が関わると考えられている病気もありますが、「声帯が弱い」と感じる原因の多くは、息の使い方や声帯を閉じる力が十分に育っていないことです。原因が弱い筋力や発声の癖であれば、トレーニングで改善が期待できます。急に声帯が弱くなる、以前より声が弱くなったと感じる場合は、麻痺などの病気が隠れていないか確認しましょう。

再生医療と移植の研究

傷ついた声帯を元どおりに再生させる再生医療や、組織の移植についても研究が進められています。海外ではドナーからの喉頭移植がごく少数例報告されていますが、一般的な治療として確立したものではありません。声帯の閉鎖不全のリハビリとしては、音声治療のほか、声が小さい人が日常生活で使う拡声器などの補助器具を活用する方法もあります。

声帯の老化と若返り|年齢による衰えを防ぐトレーニング

体の他の筋肉と同じように、声帯も年齢とともに変化します。声帯の老化とは、声帯の筋肉がやせ、粘膜の弾力が失われていく変化で、声がかすれる・細くなる・響かなくなる・長く話すと疲れるといった形で表れます。

年齢による声帯の変化

声帯の年齢による衰えは、一般に60代ごろから目立ちはじめるとされますが、個人差が大きく、声をよく使う人ほど衰えにくい傾向があります。年齢とともに起こる変化には次のようなものがあります。

  • 声帯の筋肉が衰える(萎縮する)ことで、閉じたときに隙間ができる
  • 粘膜の水分や弾力が減り、振動が不規則になる
  • 呼吸の筋力が落ち、声を支える息が弱くなる
  • 喉頭の軟骨が硬くなり、動きの柔軟性が下がる

声の高さの変化には男女差があり、男性は声帯がやせて軽くなるため声が高くなる傾向、女性は閉経後のホルモンの変化で声帯がむくみやすくなるため声が低くなる傾向があります。女性の声帯の老化は、声が低く太くなったと感じる形で表れることが多いのです。

年齢とともに男性の声は高く女性の声は低くなりやすい 男性 声帯がやせる 声が高くなる ↑ 女性 声帯がむくむ 声が低くなる ↓
加齢で男性は声帯がやせて声が高く、女性はむくみで声が低くなる傾向がある

声帯を使わないとどうなる?

声帯の筋肉には、使わないと弱る性質があります。退職や在宅中心の生活、ひとり暮らしなどで話す機会が減ると、声帯の筋肉が衰える速度が早まると考えられています。久しぶりに話したら声がかすれた、電話で聞き返されることが増えたといった変化は、声帯が弱ってきたサインかもしれません。声帯の衰えは声の問題だけでなく、飲み込む力の低下(誤嚥)にもつながるため、高齢者の健康管理でも重視されています。

声帯の老化防止と若返りのトレーニング

一度衰えた声帯が完全に若い頃に戻らないとしても、トレーニングで声の衰えを改善し、若々しい声を取り戻すことは期待できます。声帯を若返らせる練習として、次のようなものがよく紹介されています。

  1. 毎日声を出す: 音読や歌で、1日数分でもしっかりした声を出す習慣をつける
  2. ストローを使ったトレーニング: ストローで「うー」と声を出す練習は、萎縮した声帯でも負担が少なく、閉じる力を育てる基本練習として使われます
  3. ロングトーン: 同じ高さの声をできるだけ長く安定して伸ばす
  4. 高低の往復: 低い声から高い声へ、サイレンのように滑らかに行き来して柔軟性を保つ
  5. 呼吸の練習: 息を長く一定に吐く練習で、声を支える力を保つ

カラオケや合唱など、楽しみながら歌う習慣も声帯の老化防止に役立ちます。声の変化が急だったり、かすれが続いたりする場合は、年齢のせいと決めつけず耳鼻咽喉科で確認しましょう。老化による声帯萎縮でも、音声治療や声帯内注射で声が復活するケースがあります。

声帯は元に戻らない?

加齢による変化そのものを止めることはできず、声帯の構造がすっかり元に戻らないこともあります。ただし、声の出しやすさは筋肉の使い方で大きく変わるため、「年だから仕方ない」とあきらめる必要はありません。トレーニングで声帯を閉じる力と息の支えを取り戻せば、声の張りや通りは十分に改善が見込めます。

声帯の痙攣と注射治療|痙攣性発声障害・ボトックス・ステロイド

話そうとすると声が詰まる、震える、途切れるといった症状が続く場合、痙攣性発声障害という病気の可能性があります。声帯を動かす筋肉が、話すときにだけ自分の意思とは関係なく過剰に動いてしまう病気で、脳の運動の調整がうまくいかなくなるジストニアの一種と考えられています。

痙攣性発声障害の2つのタイプ

痙攣性発声障害には、声帯が閉じる方向に痙攣する内転型と、開く方向に痙攣する外転型があり、日本では内転型が大部分を占めるとされています。

痙攣性発声障害は内転型と外転型に分かれる 内転型 声帯が強く閉じる 声が詰まる・途切れる 外転型 声帯が急に開く 声が抜ける・かすれる
内転型は声帯が強く閉じて詰まり、外転型は声帯が開いて声が抜ける

内転型では、話している途中で声帯がぎゅっと閉じすぎて、声が詰まったり、絞り出すような途切れ途切れの声になったりします。外転型では、声帯が急に開いてしまい、声がささやき声のように抜けます。どちらも、笑い声や歌声では症状が軽くなることがあるのが特徴で、緊張やストレスのせいだと誤解されやすい病気です。

ボトックス注射による治療

痙攣性発声障害の代表的な治療が、ボツリヌストキシン(ボトックス)注射です。痙攣している声帯の筋肉に少量を注射して筋肉の働きを弱め、痙攣を抑えます。効果は一時的で、数か月ごとに注射をくり返すのが一般的です。注射のあと一時的に息もれ声になったり、むせやすくなったりすることがあります。そのほか、甲状軟骨を左右に広げて声帯が強く閉じすぎないようにする手術(甲状軟骨形成術2型)もあります。

声の震えと痙攣

声帯の痙攣とは別に、声が規則的に震える本態性音声振戦という病気もあります。また、緊張したときに声が震えるのは多くの人に起こる自然な反応で、病気ではありません。震えが日常会話でも常に続く場合や、次第に強くなっている場合は、耳鼻咽喉科や神経内科で相談しましょう。

ステロイドの吸入・注射

ステロイドは炎症を強く抑える薬で、声帯の治療では吸入や内服のほか、声帯に直接注射する方法があります。声帯へのステロイド注射は、声帯結節やポリープ様声帯、声帯の傷あとなどに対して外来で行われることがあり、手術をせずに症状の改善を目指せる選択肢の1つです。ステロイド注射の効果には個人差があり、再発することもあるため、医師とよく相談して判断します。

なお、喘息などで使う吸入ステロイド薬の副作用として、声がかれることがあります。吸入後にうがいをすることで予防できる場合が多いので、声の変化に気づいたら主治医に相談しましょう。

歌手と注射

歌手が本番前に喉の注射を受けて乗り切ったという話を聞くことがありますが、声帯に炎症があるときに無理に歌うと症状が悪化するおそれがあります。注射や薬で一時的に声が出るようになっても、声帯が治ったわけではありません。どの治療を使うかは医師の判断によるもので、自己判断で薬を求めたり、無理を重ねたりしないことが大切です。

声帯の手術|種類・声を変える手術・手術後の回復

声帯の手術は大きく分けて、できものを取る手術、声帯のボリュームを補う手術、声帯の位置や張りを変える手術、がんを切除する手術があります。声を改善するための声帯の手術は音声外科(音声の整形とも呼ばれます)と呼ばれ、声を専門とする医師が担当します。

声帯の手術は目的で4つに分けられる 取る ポリープ・結節・嚢胞 補う 萎縮・麻痺に注入 位置・張りを変える 甲状軟骨形成術など 切除する がんの部分切除・全摘
声帯の手術は、取る・補う・位置や張りを変える・がんを切除するの4つに分けられる

できものを取る手術

声帯ポリープや結節、嚢胞などを取る手術は、声帯ポリープの章で紹介した喉頭微細手術が中心です。声帯の表面の粘膜をできるだけ傷つけずに、できものだけを取り除きます。声帯を切るとどうなるのかを心配する人もいますが、この手術で取るのはできものの部分だけで、声帯そのものを切り取るわけではありません。

声を変える手術|声を高くする・低くする

声の高さを変える手術には、声帯の張りを強くしたり、声帯の前側を短くしたりして声を高くする手術と、張りを緩めて声を低くする手術があります。声を高くする手術は、性別違和のある人が声の女性化を目的に受けることがあり、声帯の女性化手術とも呼ばれます。

ただし、手術で声が変わる程度には個人差があり、期待したほど高くならない、声量が落ちる、かすれが出るといったリスクがあります。女性化の手術を検討する場合は、手術だけでなく話し方の訓練(ボイストレーニング)も組み合わせるのが一般的で、両方を扱う専門の医療機関で相談することが大切です。

がんの手術|部分切除と再建

声帯のがんが早期であれば、放射線治療や、レーザーなどで声帯の一部だけを切除する手術で、喉頭と声を残せる可能性があります。部分切除のあとは声がかすれることが多いものの、話す声は保たれることが多いです。切除した部分を周囲の組織で補う再建手術が行われることもあります。がんが進行している場合は、喉頭全摘出が選ばれることがあります(次の章で解説します)。

手術後に声が出ない期間と回復

声帯の手術後は、傷が落ち着くまで声を出さない期間が設けられます。手術後に声が出ないのは多くの場合この安静期間によるもので、傷がふさがると徐々に声が出るようになります。手術の直後は、声帯の傷の表面にかさぶたのような膜ができることがあり、これが取れて粘膜が整うまでに数週間ほどかかると説明されることが多いです。どれくらいで治るかは手術の範囲や体質で変わるため、医師の診察で確認しながら話す量を増やしていきます。

手術を受けた歌手の復帰

声帯ポリープや結節の手術を受けた歌手が、治療を経てステージに復帰する例は国内外で数多くあります。手術を受けた歌手の多くが、術後に音声治療やボイストレーニングで発声を見直しています。手術はゴールではなく、声帯に負担をかけない発声を身につけ直すスタートラインと考えることが、再発を防ぎ長く歌い続けるためのポイントです。

声帯を全摘出するとどうなる?喉頭全摘出後の呼吸・食事・会話

喉頭がんや下咽頭がんが進行している場合などに、声帯を含む喉頭全体を取り除く喉頭全摘出(全摘)が行われることがあります。なぜ摘出するのかといえば、がんを取りきって命を守るためで、声を失うことと引き換えに選ばれる治療です。

全摘出後に起こる変化

声帯をとるとどうなるのか。喉頭全摘出をすると、声帯がないため、これまでと同じように声を出すことはできなくなります。同時に、空気の通り道と食べ物の通り道が完全に分けられます。

  • 呼吸: 気管の端を首の前に開けた穴(永久気管孔)につなぎ、そこから呼吸します。鼻や口からは呼吸しなくなります
  • 食事: 口から食道へはこれまでどおりつながっているため、口から食べられます。気管と食道が分かれるので、むせて誤嚥することもなくなります
  • そのほか: 鼻に空気が通らないため、においが分かりにくくなる、鼻をかめない、お風呂で首元に水が入らないよう注意が必要になる、といった変化があります

気管切開は一時的に首に穴を開けて呼吸を確保する処置で、喉頭が残っていて閉じることもできますが、喉頭全摘出の気管孔は切開ではなく一生の呼吸の出入り口になる点が違います。

喉頭全摘出で空気と食べ物の通り道が分かれる 摘出前 空気: 鼻・口→気管 食べ物: 口→食道 咽頭で交差する 摘出後 空気: 首の穴→気管 食べ物: 口→食道 完全に分かれる
全摘出後は首の気管孔から呼吸し、食べ物は口から食道へ通るため通り道が交差しなくなる

摘出後のコミュニケーションと代用音声

声帯を摘出した後も、代わりの方法で声を出してコミュニケーションをとることができます。

電気式人工喉頭
電動の機械を首やあごの下に当てて振動を送り、口の形で言葉にします。練習期間が短く、摘出後すぐに使いやすい方法です。
食道発声
食道に空気を取り込み、げっぷのように吐き出しながら食道の入口を振動させて声を出す方法です。器具はいりませんが、習得に練習が必要です。
シャント発声
気管と食道のあいだに小さな器具(ボイスプロステーシス)を入れ、肺の息を食道に送って声を出す方法です。

このほか、筆談やスマートフォンの読み上げアプリも使われます。喉頭を摘出した人のための発声教室を開いている患者会もあります。

障害等級と支援制度

喉頭を摘出して声を出す機能を失った場合、身体障害者手帳の音声機能の喪失として3級に認定されるのが一般的です。手帳があると人工喉頭などの給付を受けられる場合があるため、摘出後は自治体の窓口や病院の相談室で制度を確認しましょう。

つんく♂さんの全摘出

音楽プロデューサーのつんく♂さんは、喉頭がんの治療のため2014年に喉頭(声帯)を全摘出したことを、翌2015年に公表しました。つんく♂さんの摘出の公表は、歌手が声帯を失うという決断として大きな反響を呼びました。その後も筆談や文章、音楽制作を通じて活動を続けており、声帯を全摘出したその後の生き方の1つの例として知られています。

「声帯」と名のつくもの|声帯模写・声帯マイク・動物やロボットの声帯

「声帯」という言葉は、体の器官の名前以外にも使われています。検索でよく調べられるものをまとめて紹介します。

声帯模写とは

声帯模写とは、有名人や動物、乗り物の音などの声を真似る芸のことで、今でいう「声真似」「ものまね」にあたります。昭和の演芸の世界で広まった呼び方で、声帯を模写する、つまり他人の声帯の響きを写し取るという意味が込められています。声真似がうまい人は、声の高さだけでなく、声帯の閉じ具合による息の混じり方や、口や鼻での響かせ方まで細かく真似しています。歌のものまねも、原曲の歌手の発声を分析するよい練習になります。

声帯マイクとは

声帯マイク(咽喉マイク)は、首に巻きつけて喉の振動を直接拾うタイプのマイクです。周りの騒音を拾いにくいため、バイクのインカムや軍用・業務用の無線、騒がしい現場での通話などに使われます。空気中の音を拾う一般的なボーカルマイクとは仕組みが違い、声帯の振動を皮膚越しに拾うため、音質はこもりがちで歌の録音には向きません。

動物にも声帯はある?

犬や猫、牛、サルなど、多くの哺乳類には人と同じように喉頭の中に声帯があり、鳴き声を出しています。犬の吠え声も声帯の振動によるものです。一方、鳥には声帯がなく、気管が肺へ分かれる部分にある鳴管という器官で鳴き声を出しています。カエルは声帯を振動させ、鳴のうという袋で響かせて大きな声を出します。人の声帯は、他の動物に比べて呼吸と発声を細かく切り替えられる点が特徴で、これが言葉や歌を可能にしています。

ロボットや人工の声帯

人工的に声を作る研究では、人の声帯を模したゴムなどの振動体を使って声を出す発話ロボットが開発されています。人の声帯の仕組みを機械で再現しようとする研究は、声の病気の理解や人工喉頭の改良にも生かされています。また、音声合成ソフトや歌声合成の技術は、声帯の振動を数式でまねた音源と、声道の響きをまねたフィルターを組み合わせて声を作るのが基本の考え方です。

声帯を楽器として意識する

このように「声帯」という言葉は、声真似の芸から機械まで幅広く使われていますが、共通しているのは「声の元になる振動を生む場所」という意味です。歌を練習する人にとっても、声帯を自分だけの楽器として意識すると、ウォーミングアップやケアの大切さが実感しやすくなるでしょう。

よくある質問

声帯とはなにか、ひと言で説明すると?
喉仏の奥の喉頭にある左右2枚のヒダで、息を受けて振動し、声の元になる音を作る器官です。呼吸のときは開き、飲み込むときは閉じて気管を守る役割もあります。
声帯は鍛えられますか?
声帯そのものを大きくすることはできませんが、声帯を閉じる・伸ばす・縮める筋肉の協調は練習で鍛えられます。ストロー発声、エッジボイス、ロングトーン、スケール練習などを、負担の軽いものから順に続けるのが効果的です。
のど飴や飲み物で声帯を直接ケアできますか?
飲食物は食道に流れるため、声帯に直接触れることはありません。こまめな水分補給は体の内側から粘膜を潤すのに役立ち、直接潤したいときは蒸気の吸入が有効です。
声のかすれはどのくらい続いたら受診すべきですか?
2週間以上続く場合は耳鼻咽喉科で内視鏡の検査を受けましょう。特に喫煙者や、原因に心当たりがない場合は早めの受診が大切です。息苦しさや血の混じった痰がある場合はすぐに受診してください。
声帯結節と声帯ポリープの違いは?
声帯結節は声の使いすぎで両側の同じ位置にできる硬いタコのようなもので、音声治療で改善することが多い病気です。声帯ポリープは一度の強い負担による内出血などから片側にできる柔らかいふくらみで、手術で取ることが多い病気です。

まとめ

声帯は、喉仏の奥にある左右2枚の小さなヒダです。最後に、この記事の要点を振り返ります。

  • 声帯は喉頭の中にあり、息を受けて振動し声の元の音を作る。呼吸・飲み込みでは開閉して気道を守る
  • 声帯は軟骨に張られ、内喉頭筋が閉じる・開く・伸ばす・縮めるを担当する。神経は迷走神経の枝の反回神経と上喉頭神経
  • 声の高さは声帯の長さ・厚さ・張りで決まる。高い声は伸ばして薄く、低い声は縮めて厚く使う
  • 歌では「閉じすぎず開きすぎず」が理想。首や肩の力を抜き、声帯だけを軽く閉じる
  • 鍛えるときはストロー発声などの軽い練習から段階的に。痛みや違和感があるときは休む
  • 声のかすれが2週間以上続くときは耳鼻咽喉科へ。結節・ポリープ・炎症・麻痺・がんなど原因はさまざま

声帯の仕組みを理解しても、自分の発声が正しくできているかを一人で判断するのは難しいものです。声帯に負担をかけない発声を身につけたい人は、プロのボイストレーナーに一度見てもらうのが近道です。ボイトレ教室検索では、全国のボイストレーニング教室を地域や駅から探せます。体験レッスンを活用して、自分の声帯と長く付き合える発声を身につけましょう。