声帯閉鎖とは?意味・場所・仕組み
声帯閉鎖とは、声を出すときに左右2枚の声帯を真ん中で閉じ合わせることです。息の通り道をいったんふさぎ、そこを息が押し開けるときに声帯が振動して音が生まれます。ボイトレで「声帯閉鎖ができていない」と言われるときは、この閉じ方がゆるく、声にならない息が漏れている状態を指します。歌の世界で声帯閉鎖とはどういう意味かをひと言でまとめると、「吐いた息をむだなく声に変えるための閉じ方」です。声帯閉鎖ができた声がどんな声かというと、息の「スー」という雑音が少なく、小さな音量でも輪郭のはっきりした、澄んだ芯のある声です。
声帯閉鎖の意味と英語での言い方
声帯閉鎖は、医学や音声学の言葉では「声門閉鎖」とも呼ばれます。英語では vocal fold closure、または声帯を内側に寄せる動きを指して vocal fold adduction(内転)と言い、閉じ具合そのものは glottal closure と表現されます。海外のボイトレ動画で「cord closure」「adduction」と出てきたら、同じ話をしていると考えて大丈夫です。
大切なのは、声帯閉鎖が「できる・できない」の二択ではなく、閉じる強さに段階があるものだという点です。閉じ方が弱ければ息っぽい声に、強すぎれば詰まった苦しい声になります。歌で目指すのは、その中間の「息が漏れず、力んでもいない」ちょうどよい閉じ方です。
声帯はどこにある?場所と喉仏の関係
声帯は、首の前側にある喉頭(こうとう)という器官の中にあります。男性なら喉仏(のどぼとけ)の出っ張りのすぐ裏側、女性でも同じ高さの首の中央あたりが声帯の場所です。喉仏の正体は甲状軟骨という軟骨の角で、声帯はその内側に、前から後ろへ向かって2枚が左右に並んでいます。長さは大人でおおよそ1.5〜2cmほどの小さなひだです。
声帯の前側(喉仏側)は軟骨にくっついて固定され、後ろ側(首の後ろ寄り)は披裂軟骨(ひれつなんこつ)という小さな軟骨につながっています。この披裂軟骨が回ったり寄ったりすることで、声帯はV字に開いたり、まっすぐ閉じたりします。
声帯閉鎖の仕組みと原理|1秒に何百回も開閉している
発声の仕組みは、閉じた声帯の下に息がたまり、その圧力で声帯が押し開けられ、息が抜けると声帯の弾力と空気の流れで再び閉じる――という開閉のくり返しです。この開閉の回数が音の高さになります。たとえばラ(A4・440Hz)の音なら、声帯は1秒間に約440回開いたり閉じたりしています。
声帯閉鎖が大切だと言われる原理はここにあります。閉じている時間がしっかりあると、息が細かく区切られて音のエネルギーがまとまり、芯のある声になります。逆に閉じきらずに隙間が残ると、振動に使われない息が「スー」という雑音として漏れ、声が小さく息っぽくなります。
声帯閉鎖はいつ使う?常に閉じているの?
声帯閉鎖は特別なテクニックというより、声を出すときには常に起きている動きです。話すときも歌うときも、声が出ている間は声帯が閉じたり開いたりをくり返しています。息を吸うときや、声を出さずに息だけを吐くときは開いています。
ですから「いつ使うか」を考えるより、「場面ごとにどのくらいの強さで閉じるか」を考えるのが実践的です。囁くような歌い出しではゆるめに、サビで声を張るときはしっかりめに、というように、歌い手は閉じ具合を無意識に調整しています。声帯閉鎖を練習するとは、この調整を意図してできるようにすることだと言えます。声帯そのものの役割や構造は歌うときの声帯の役割でも詳しく解説しています。
声帯閉鎖と喉締め・声門閉鎖・喉を開くの違い
声帯閉鎖を練習し始めた人がいちばん混乱するのが、「閉じろと言われたり、開けろと言われたりする」ことです。これは閉じる場所と開ける場所が別々だからです。声帯は適度に閉じ、その上にある仮声帯や喉の空間は開けておく。この上下の区別がつくと、喉締めとの違いもすっきり理解できます。
声帯閉鎖と喉締めの違い
喉締めとは、声帯そのものではなく、声帯より上の部分まで一緒に締めつけてしまう状態です。具体的には、声帯のすぐ上にある仮声帯(かせいたい)が寄ってきたり、舌の付け根や喉の奥の筋肉が固まって声の通り道が狭くなったりします。喉仏がぐっと上がり、首に筋が浮き、声が詰まったように聞こえるのが典型です。
声帯閉鎖と喉締めの違いは、次の3点で見分けられます。
- 場所:声帯閉鎖は声帯だけの動き。喉締めは声帯の上や周りまで巻き込んだ締めつけ
- 感覚:声帯閉鎖は喉の奥が「ピタッと合う」小さな感覚。喉締めは首全体が「ギュッと固まる」大きな感覚
- 音:声帯閉鎖は明るく芯がある。喉締めは苦しそうで、響きが平たく、長く続かない
喉締めで出す声を「喉声(のどごえ)」と呼ぶこともあります。声帯閉鎖を強めようとして喉声になってしまうのはよくある失敗なので、第8章の「強すぎるサイン」とあわせて確認してください。
声帯閉鎖と声門閉鎖の違い
声門(せいもん)とは、左右の声帯のあいだにできるすき間そのもののことです。声帯が閉じれば声門も閉じるので、声帯閉鎖と声門閉鎖は同じ現象を「ひだの側から見るか、すき間の側から見るか」の違いで、ボイトレではほぼ同じ意味で使われています。
ただし「声門閉鎖」は、音声学では「あっ」と言いかけて止めたときの詰まった音(声門閉鎖音)や、声を出す直前に声門を完全に閉じてから出す発声を指すこともあります。歌の文脈で声門閉鎖と言われたら「声帯閉鎖と同じこと」、医療や言語学の文脈なら「声門を完全に閉じる動き」と読み分けると混乱しません。
声帯閉鎖と「喉を開く」は両立する
ボイトレでは「喉を開く」ともよく言われます。これは声帯を開くことではなく、声帯より上の空間(咽頭)を広く保つことです。あくびの始まりのように喉の奥が広がった状態をイメージしてください。声帯は閉じ、その上の空間は開く――これが矛盾なく同時に成り立つのが、いちばん響きのよい発声です。
咳・息を止める・飲み込むときの閉じ方との違い
声帯は発声以外でも閉じます。咳をする直前、重い物を持ち上げようと息を止めたとき、食べ物を飲み込む(嚥下する)ときです。これらは体を守るための反射的な閉じ方で、声帯だけでなく仮声帯までがっちり閉じ、気道を完全にふさぎます。
そのため「息を止める感覚で閉じる」と教わっても、そのまま歌うと強すぎて喉締めになりがちです。使うなら「閉じる場所の確認」までにとどめ、声を出すときはその何分の一かの力に落とします。また、仮声帯まで振動させると「ガラガラ」「ザラザラ」とした声になります。これはがなりのような表現としては使えますが、ふだんの声帯閉鎖とは別物です。仮声帯の位置や分離の方法は仮声帯とはで解説しています。
声帯閉鎖のメリット・デメリットと効果
声帯閉鎖を身につける効果は、「少ない息で、大きく、芯のある声が出せるようになる」ことに集約されます。一方で、閉じる力を上げすぎると喉を痛める原因にもなります。メリットとデメリットを両方知っておくと、どこを目指して練習すればいいかがはっきりします。
声帯閉鎖のメリット|声量・倍音・高音・息の長さ
- 声量が上がる:息が声に変わる割合が上がるので、同じ息の量でも声が大きく、遠くまで届くようになります。大声を出そうと息を増やすより、閉じ方を整えるほうが声量の近道です。
- 倍音が増えて声が明るくなる:声帯がしっかり閉じている時間が長いと、声に含まれる高い成分(倍音)が増えます。バンドの音やカラオケの伴奏に埋もれない「抜ける声」になり、マイクにもよく乗ります。
- 高い声が安定する:高音で声がひっくり返る原因のひとつは、閉じる力が抜けて裏声に逃げてしまうことです。閉鎖を保てると、高い声でも芯を残したまま上がれます。
- 息が長く続く:漏れる息が減るので、ロングトーンやフレーズの最後まで息がもちます。
- 喉が疲れにくくなる:意外に思われるかもしれませんが、息漏れの多い声は大きく出そうとして首や肩に力が入りがちです。効率よく閉じられると、全体の力みが減ります。
声帯閉鎖のデメリット|やりすぎると逆効果
声帯閉鎖そのものに悪い点はありませんが、強さの加減を間違えるとデメリットが出ます。
- 喉締めになりやすい:閉じることばかり意識すると、声帯の上まで締めて苦しい声になります。
- 声帯への負担が増える:強く閉じたまま大きな声を出し続けると、声帯同士が強くぶつかり、声枯れや声帯結節などのトラブルにつながるおそれがあります。
- 表現の幅が狭くなる:いつも強く閉じていると、ささやくような柔らかい声や息を混ぜた切ない声が出しにくくなります。
つまり目標は「最大限に閉じること」ではなく、曲や場面に合わせて閉じ具合を選べることです。
声帯閉鎖の効果はどのくらいで出る?
効果の出方には個人差がありますが、「閉じる感覚がわかる」までは数日〜数週間、「歌の中で自然に使える」までは数か月が一つの目安です。エッジボイスなどで閉じる場所がわかった日から、声の芯が変わるのを実感する人もいます。一方で、歌いながら閉じ具合を保つには、音程や歌詞を追いながらでも崩れないだけの慣れが必要です。
焦って長時間練習するより、1日10〜15分を毎日続けるほうが結果は早く出ます。喉に痛みや違和感が出たら、その日の練習はやめて休ませてください。
声帯閉鎖の感覚とやり方|4ステップで身につける
声帯は目に見えず、直接動かしている実感もないため、「どうやるのかわからない」と感じるのは当然です。そこで、閉じたときに起きる音と感覚の変化を手がかりにして、段階的に身につけていきます。
声帯閉鎖の感覚はどんな感じ?
声帯閉鎖の感覚は、人によって次のように表現されます。
- 喉の奥の一点が「ピタッ」と合わさる、小さなスイッチが入るような感じ
- 驚いて「あっ」と言いかけて止めたときの、喉の奥で息がせき止められる感じ
- 声の出だしに、軽い「コッ」「プツッ」という手応えがある感じ
- 息がそのまま声に変わり、口の前に息の風があまり来ない感じ
共通しているのは、感覚がとても小さいことです。首全体に力が入る、喉仏が大きく動く、といった大きな感覚があるなら、それは閉鎖ではなく締めつけです。閉鎖の感覚は「喉の奥で何かが起きている」とかすかにわかる程度で十分です。
声帯閉鎖のやり方4ステップ
- 閉じる場所を探す(エッジボイス):あくびの後のような楽な状態で、低めの「ア」を小さく出し、息をほとんど使わずに「ア゛ア゛ア゛」とプツプツ鳴らします。声帯が閉じたまま軽く振動している状態で、閉じる場所の目印になります。
- 短く区切って出す:エッジボイスの状態から、普通の声で「ア・ア・ア」と短く3回出します。一音ずつ、出だしで喉の奥が軽く合わさる手応えを確かめます。
- 閉じたまま伸ばす:区切った「ア」の1回目を、そのまま5秒ほど伸ばします。途中で息っぽくならないか、逆に詰まらないかを聞きながら保ちます。
- 音程をつけて歌う:「ドレミレド」など狭い音程で、伸ばしたときと同じ声の質のまま動かします。慣れたら歌詞のある曲の一節で試します。
1日でステップ4まで進む必要はありません。ステップ1と2で閉じる感覚がつかめない日は、そこだけをくり返せば十分です。
声の出だし(起声)の種類と使い分け
声帯閉鎖のコツは、声の出だしである「起声(きせい)」にあります。起声には大きく3つの種類があります。
| 起声の種類 | 閉じるタイミング | 声の特徴 |
|---|---|---|
| 気息起声 | 息が先に出て、あとから閉じる | 「ハァ」と息が混ざる柔らかい声 |
| 硬起声 | 完全に閉じてから、息で弾くように開く | 「ッア」と詰まったアタックのある声 |
| 柔らかい起声 | 息と閉じるのが同時 | 息漏れも詰まりもない、澄んだ声 |
基本の方法として身につけたいのは、息と閉鎖のタイミングがそろう柔らかい起声です。ステップ2で「コッ」という手応えが強すぎるなら硬起声寄り、息が先に漏れるなら気息起声寄りなので、その中間を探します。硬起声は喉に負担がかかりやすいので、ロックのシャウトなど表現で使う場面に限るのが安全です。
歌う時に声帯閉鎖を意識するコツ
練習では喉の奥に意識を向けますが、実際に歌う時まで喉ばかり意識していると、かえって力んでしまいます。声帯閉鎖をしながら歌うための使い方のコツは次のとおりです。
- 喉ではなく「音」で判断する:閉じているかどうかは、自分の声が息っぽいか澄んでいるかで聞き分けます。
- フレーズの出だしだけ意識する:歌い出しの1音で柔らかい起声ができれば、その後は自然に続きやすくなります。
- 「息を全部声に変える」とイメージする:口の前に手のひらをかざし、息の風が当たりにくい歌い方を目指します。
- 歌い方は曲に合わせる:しっとりした曲では閉鎖をゆるめ、盛り上がりで強める、という緩急をつけます。
声帯閉鎖ができているか確認する方法
声帯閉鎖は自分の感覚だけでは判断しにくいので、客観的なチェックを組み合わせて確認します。ここで紹介する確認方法は道具がほとんど要らず、自宅で数分でできます。できてるか確認したいときは、2つ以上の方法で同じ結果が出るかを見ると確実です。
確認方法1:ティッシュ・手のひらで息漏れをチェック
ティッシュを1枚、口の前10cmほどに垂らして持ち、ふつうの大きさで「アー」と伸ばします。声帯がしっかり閉じていれば、息はほとんど声に変わるので、ティッシュはわずかに揺れる程度です。ティッシュが大きくなびくなら、声にならない息が漏れています。ティッシュの代わりに手のひらを口の前にかざし、息の風の当たり方で確かめてもかまいません。
確認方法2:「アー」を何秒伸ばせるかを測る
楽に息を吸い、話し声くらいの高さで「アー」をできるだけ長く伸ばして時間を計ります。医療の現場でも声の状態を見るために使われる方法(最長発声持続時間)で、息漏れが多いほど短くなります。成人ならおおよそ15〜20秒以上続くのが一般的で、10秒を切るようなら閉じ方がゆるく、息が漏れている可能性があります。
ただし、どのくらい続くかは肺の大きさや体格でも変わります。他人と比べるより、自分の記録が練習で伸びていくかを見るのに使ってください。
確認方法3:録音して「スー」という雑音を聞く
スマートフォンで小さめの声の「アー」と、歌の一節を録音して聞き返します。声の後ろに「スー」「サー」という息の雑音が混ざっていれば、閉鎖が弱いサインです。反対に、声が平たく詰まって聞こえる、語尾が苦しそうに途切れる場合は、閉じる力が強すぎる可能性があります。録音は、練習の前後で比べられるように同じ曲・同じ高さで続けるのがおすすめです。
確認方法4:小さい声で澄んだ声が出せるか
意外と見落とされがちなのが、小さい声でのチェックです。大きな声は息の勢いでごまかせますが、小さい声で閉鎖が弱いとすぐに息っぽくなります。ささやき声の一歩手前くらいの音量で「アー」を伸ばし、それでも息の雑音が少なく澄んだ声が保てれば、閉じ方のコントロールができている証拠です。
4つのチェックで「弱すぎ」と出たら第9章、「強すぎ」と出たら第8章の対策に進んでください。どちらでもなければ、次の章の練習で精度を上げていきます。
声帯閉鎖の練習方法・トレーニングメニュー
声帯閉鎖の練習は、「閉じる場所を知る」「力まずに閉じる」「歌の中で保つ」の3つを順番に育てるのが基本です。ボイトレ教室でもよく使われる練習方法を、1日10〜15分でできるメニューにまとめました。
1日10〜15分の練習メニューと順番
喉をいきなり強く使わないよう、負担の少ない練習から順に行います。
1〜2で喉を温め、3で閉じる場所を確認し、4で閉鎖を強める、5で歌に移す、という流れです。時間がない日は3と5だけでもかまいませんが、1〜2を飛ばして強い練習から入るのは避けます。
ストロー・リップロール・ハミング|力まずに閉じる土台づくり
ストローをくわえて「ウー」と声を出す、唇をブルブル震わせるリップロール、口を閉じて鳴らすハミングは、どれも口や唇を半分ふさいで声を出す練習です。出口が狭くなると喉の中にほどよい圧が返ってくるため、声帯が少ない力でバランスよく閉じやすくなります。喉締めになりやすい人ほど、このウォームアップを丁寧に行ってください。
似た効果をねらった練習に、上を向いて水でうがいをしながら「アー」と声を出す「うがい発声」もあります。水の抵抗で喉に適度な圧がかかる練習ですが、むせやすい人や慣れないうちは無理にやらなくて大丈夫です。リップロールのやり方はリップロールとは、ハミングは歌のハミングで詳しく解説しています。
エッジボイスの練習|閉じる場所を覚える
エッジボイスは、声帯を閉じたまま、息をごく少なくして「ア゛ア゛ア゛」とプツプツ鳴らす発声です。閉鎖の感覚をつかむ練習として最もよく使われます。低めの楽な高さで、プツプツの間隔が均一になるように鳴らし、10秒ほど続けます。慣れたら、エッジボイスから普通の「アー」へなめらかに移る練習をします(エッジボイス→地声)。プツプツを大きな音にしようとしないのがコツで、音が大きく荒くなったら仮声帯まで締まっています。詳しい出し方はエッジボイスとはを参考にしてください。
ネイネイ(Nay)の練習|閉鎖を強める
ネイネイは、子どもがからかうときのような、少し鼻にかかった意地悪な声で「ネイ、ネイ、ネイ」と言う練習です。鼻にかかった明るい響きと「ネ」の子音の勢いが、声帯閉鎖を自然に強めてくれます。「ドミソミド」の音階で上下し、半音ずつ高さを上げていきます。高くなって喉が苦しくなったら、そこがその日の上限です。
母音を使った練習|イ・エから始める
母音によって閉じやすさは変わります。一般に「イ」「エ」は声帯が閉じやすく、「ア」「オ」「ウ」は息が漏れやすいと感じる人が多い母音です。まず「イー」で澄んだ声を作り、同じ声の質のまま「イーエーアーオーウー」と母音だけを変えていきます。歌の練習では、歌詞を母音だけにして歌う(「ありがとう」→「アイアオウ」)と、子音に頼らず閉鎖を保つ練習になります。
吸気発声・アンザッツなどの上級トレーニング
ほかにも、息を吸いながら声を出す吸気発声で声帯の感覚を探る方法や、響きを当てる方向ごとに喉の筋肉の使い方を分けて訓練するアンザッツという体系もあります。ただし、どちらもやり方や解釈が指導者によって大きく異なるうえ、自己流では喉に負担をかけやすい練習です。基本の5つで効果が頭打ちになってから、ボイトレ教室など指導者のもとで取り入れるのが安全です。
声帯閉鎖を鍛える・強くする方法|筋肉と呼吸のバランス
声帯閉鎖を鍛えるというと、喉の筋トレのように力を強くするイメージを持つかもしれません。しかし実際に必要なのは、閉じる筋肉の力そのものより、閉じる力・伸ばす力・息の圧の3つを釣り合わせる調整力です。仕組みを知ると、どこを強化すればいいかが見えてきます。
声帯閉鎖に関わる筋肉
声帯を動かしているのは、喉頭の中にある小さな筋肉たちです。役割ごとに分けると次のようになります。
| 筋肉 | 役割 | 歌での働き |
|---|---|---|
| 外側輪状披裂筋 | 声帯を内側に寄せて閉じる | 声帯閉鎖の主役 |
| 披裂筋 | 声帯の後ろ側を寄せる | 後ろ側のすき間をふさぐ |
| 甲状披裂筋 | 声帯を縮めて厚くする | 地声の太さ・閉鎖の強さ |
| 後輪状披裂筋 | 声帯を開く(唯一の開く筋) | 息を吸う・声を止める |
| 輪状甲状筋 | 声帯を前後に引き伸ばす | 高い声・裏声 |
「声帯閉鎖筋」という名前の筋肉があるわけではなく、閉じる働きは複数の筋肉の共同作業です。これらは腕や脚の筋肉と違って直接意識して動かせないため、特定の声を出す練習をくり返すことで間接的に鍛えるしかありません。
声帯閉鎖を強くする方法・鍛え方
閉鎖を強化するトレーニングは、重いダンベルを上げる筋トレより、正しいフォームの反復に近いものです。効果的な鍛え方は次の4つです。
- ネイネイで閉鎖を強めた声を反復する:第6章の練習を、苦しくならない高さの範囲で毎日行います。
- スタッカートで出だしを鍛える:「ア!ア!ア!」と短く弾むように出し、一音ごとに柔らかい起声をくり返します。閉じるタイミングの精度が上がります。
- 小さい声のロングトーン:息っぽくならない最小の音量で10秒伸ばします。小さい声で閉鎖を保つには細かな調整が要るため、コントロール力が鍛えられます。
- エッジボイスから声を膨らませる:エッジボイスから地声に移り、そのまま少しずつ音量を上げていきます。閉じた状態を保ったまま息を増やす練習です。
閉鎖の筋力だけを強くしようとするトレーニングは、喉締めを招きやすいので注意してください。「強く閉じる」ではなく「少ない力で確実に閉じる」ことを目標にします。
輪状甲状筋とのバランス|閉じる力と伸ばす力
高い声を出すときは、輪状甲状筋が声帯を引き伸ばして薄くします。このとき閉じる力ばかりが強いと、太い声帯のまま無理に高さを出そうとして張り上げになります。逆に伸ばす力ばかりだと、閉鎖が抜けて息っぽい裏声になります。高音を安定させるには、裏声のサイレン(低音から高音へ「ウー」と滑らかに上げる)で伸ばす筋肉を育てつつ、ネイネイで閉じる力を足していく、と両方を並行して鍛えるのが近道です。
呼吸・腹圧・横隔膜との関係|息の量は多ければいいわけではない
閉じた声帯を開かせるのは、肺から送られる息の圧です。息の量や勢いが強すぎると声帯が押し開けられて閉鎖が崩れ、弱すぎると振動が起きにくくなります。声帯閉鎖は喉だけの問題ではなく、息の圧とのバランスで決まるのです。
このバランスを安定させるのが、横隔膜を使った腹式呼吸と、お腹まわりの適度な張り(腹圧)です。息を吐くときにお腹を急にへこませず、少し外に張った状態を保つと、一定の圧で息を送り続けられます。腹筋をガチガチに固める必要はなく、腹圧は「咳払いの直前に軽くお腹が張る」程度で十分です。呼吸の基本は腹式呼吸のやり方で解説しています。
練習で喉が筋肉痛になることはある?
喉の筋肉も筋肉なので、練習しすぎると疲労感やだるさが出ることがあります。ただし、手足の筋肉痛のように「痛いのは鍛えられている証拠」と考えるのは危険です。喉の痛みやヒリヒリ感は負担が大きすぎるサインなので、その日は練習をやめ、声を休ませてください。痛みが数日続く場合や声がかすれたまま戻らない場合は、耳鼻咽喉科を受診しましょう。
声帯閉鎖が強すぎる・やりすぎのサインと緩め方
声帯閉鎖の練習を熱心にする人ほど陥りやすいのが、閉じる力のしすぎです。閉鎖が強すぎる状態は、本人には「しっかり声が出ている」と感じられることも多く、気づかないまま喉を疲れさせてしまいます。まずはサインを知り、当てはまったら閉鎖を弱める方向に調整します。
閉鎖が強すぎるときのサイン
- 数曲歌っただけで喉が疲れる、「喉痛い」と感じる、ヒリヒリする
- 歌った翌日に声枯れする、声がかすれる
- 喉仏が大きく上がる、首に筋が浮く、あごが前に出る
- 声が平たく詰まって聞こえ、響きが前に飛ばない
- 息が吐けずに苦しい、フレーズの途中で息できない感じになる
- ビブラートがかからない、音程を細かく動かせない
2つ以上当てはまるなら、閉鎖のやりすぎ、または喉締めが混ざっている可能性が高いです。特に痛みと声枯れは体からの警告なので、すぐに強さを落としてください。
強すぎる原因|喉・息・舌の3つの力み
閉鎖が強すぎる原因は、声帯そのものより周りの力みにあることがほとんどです。
- 喉まわりの力み
- 「閉じなきゃ」と意識しすぎて、声帯の上の仮声帯や喉の筋肉まで締めてしまう状態です。喉仏が上がり、喉締めの声になります。
- 息の圧が強すぎる
- 大きな声を出そうと息を強く押し出すと、声帯はそれに負けないよう強く閉じようとします。押す息と閉じる力が綱引きになり、苦しくなります。
- 舌の付け根の力み
- 舌の付け根(舌根)が奥に引っ込むと、喉を上から押しつぶすように働きます。声がこもり、喉声になりやすくなります。
閉鎖を緩める・弱める方法
- あくびの喉で脱力する:あくびの始まりのように喉の奥を広げ、その状態のまま小さな声で「ホー」と出します。喉仏が下がり、首の力が抜けます。
- ため息から声にする:「ハァー」とため息をつき、その息にうっすら声を乗せます(気息起声)。わざと閉鎖を弱めた声を出して、弱める方向の感覚を覚えます。
- 音量を半分にする:強すぎる閉鎖は大きな声とセットになりがちです。同じフレーズを半分の音量で歌い、それでも澄んだ声が出る閉じ方を探します。
- 舌先を下の前歯の裏に置く:舌が奥に引っ込むのを防ぎます。
- ストローやリップロールに戻る:第6章のウォームアップは、力まずに閉じる感覚をリセットするのにも役立ちます。
力むクセは一度で抜けるものではありません。練習の最初と最後に脱力の確認を入れて、強さをコントロールする意識を習慣にしていきましょう。
声帯閉鎖が弱い・できない・わからない原因と対策
反対に、「声帯閉鎖がわからない」「何度やってもできない」「一瞬はできても維持できない」という悩みも多く聞かれます。声帯閉鎖が難しいと感じるのは、才能ではなく原因に合った練習をしていないだけのことがほとんどです。原因ごとに対策を見ていきましょう。
声帯閉鎖がわからない・できない主な原因
- 感覚が小さすぎて気づけない:閉鎖はもともと小さな感覚なので、大きな手応えを探すほどわからなくなります。
- 息を吐きすぎるクセ:「閉じようとすると声出ない」「かすれる」と感じる人に多いのがこのタイプです。「お腹から声を出す」を意識しすぎて息を大量に送ると、声帯が押し開けられて閉じきれません。
- ふだんの話し声が息っぽい:日常的に息の多い声で話していると、閉じた声のほうが「不自然」に感じてしまいます。
- 声帯の後ろ側にすき間が残る:声帯の前側は閉じていても、後ろ(披裂軟骨側)に小さな三角形のすき間が残るタイプです。女声、特に若い女性に比較的多いとされ、息の混ざった柔らかい声になります。
- 喉のコンディション:乾燥・寝不足・風邪の後などは、声帯がむくんだり動きが鈍くなったりして閉じにくくなります。
わからないときに試したい3つのきっかけ
- 驚いた「あっ」:物を落としたときのように、短く「あっ」と言います。言い終わりで喉の奥が止まる感覚が、閉鎖の位置です。
- エッジボイス:第6章のプツプツ音が鳴っているとき、声帯は閉じています。鳴らしたまま少しずつ普通の声に移ります。
- 「ん」を強めに言う:「うん」と相づちを打つときの、少し強めの「ん」を伸ばします。口を閉じているので息が漏れにくく、閉じた声の手応えがわかりやすくなります。
練習中にアヒルのような声や、ガサガサした変な声が出ても心配いりません。閉鎖の練習では普段と違う音が出るのが普通で、それは新しい声の使い方を探している証拠です。
閉鎖が弱すぎる声とハスキーボイス
閉鎖が弱いと、息の混ざったかすれ声になります。ハスキーボイスは、生まれつきの声帯の形や閉じ方のクセによって息の成分が多く混ざった声で、それ自体は魅力的な個性です。ただ、「歌うと声が小さい」「高音で声が出ない」「すぐ息が続かない」といった悩みがあるなら、閉鎖を少し強めるだけでハスキーな質感を残したまま芯を足せます。まずは「イ」の母音とネイネイで、息の混ざり方を減らしてみてください。
閉鎖を維持できない・キープできない・続かないとき
歌い出しでは閉じられても、フレーズの後半で息っぽくなるのは、息の圧が途中で変わっていることが主な原因です。吸った直後は息を押しすぎ、終わりのほうでは息が足りなくなり、どちらも閉鎖を崩します。
- ロングトーンを「小→大→小」と音量を変えながら伸ばし、どの音量でも声の質が変わらないように保つ
- フレーズの最後の1音を、あえて一番丁寧に閉じて終える
- 息が残っているうちに次のブレスをとり、息を使い切らない
閉鎖が安定しない、高さや母音で崩れる場合も同じで、崩れる箇所だけを取り出してゆっくり練習するのが近道です。音量や高さを自由に変えても閉鎖が保てることが、本当の意味でのコントロールです。
寝起きや疲れで声帯閉鎖ができなくなるとき
寝起きは声帯がむくみ、乾燥していることが多いため、閉じにくくかすれがちです。起きてすぐ歌うのではなく、水分をとり、ハミングやリップロールで10分ほど温めてから歌いましょう。飲酒や寝不足、長時間の会話の後も同じです。
ただし、休んでも2週間以上かすれが続く、急に閉鎖ができなくなった、飲み込むときにむせるようになった、といった場合は練習ではなく体の問題かもしれません。第14章の声帯閉鎖不全も参考にして、耳鼻咽喉科を受診してください。
苦手・下手だと感じている人へ
声帯閉鎖がうまくいかない、歌えないと感じる時期は誰にでもあります。閉鎖は目に見えない筋肉の調整なので、上達は階段状で、しばらく変化がないと思ったら急にわかる、ということがよくあります。録音を週に1回残しておくと、自分では気づきにくい小さな変化を確認でき、モチベーションを保ちやすくなります。
ミックスボイス・裏声・地声と声帯閉鎖の関係
声帯閉鎖は、地声・裏声・ミックスボイスといった声区(声の種類)を分ける大きな要素です。同じ高さの音でも、声帯の厚みと閉じ具合が変わると、まったく違う声になります。声区ごとの閉鎖の度合いを知っておくと、「どの声を出したいときに、どれくらい閉じればいいか」がわかります。
地声・チェストボイスと声帯閉鎖
地声(チェストボイス)は、声帯を厚く使い、閉じている時間も長い発声です。閉鎖がしっかりしているので、太く力強い声になります。地声で閉鎖が弱いと、低い音でも声がぼやけ、声量が出ません。まずは話し声の高さの地声で、澄んだ「アー」が出せることが声帯閉鎖の出発点です。地声の鍛え方はチェストボイスとはで詳しく解説しています。
裏声・ファルセット・ヘッドボイスと声帯閉鎖
裏声は、輪状甲状筋が声帯を引き伸ばし、声帯が薄くなった状態で出す声です。その中でも、閉鎖がゆるく息が多く混ざった柔らかい裏声をファルセット、薄い声帯のまましっかり閉じて芯のある裏声をヘッドボイスと呼び分けることが多くあります。つまり、同じ裏声でも閉鎖の強さによって声の性格が変わるのです。
裏声で声帯閉鎖ができない、裏声がスカスカするという人は、まずファルセットで楽に高い音を出し、そこに「ネイ」や「イ」の母音で少しずつ芯を足していきます。閉鎖のある裏声が出せるようになると、次のミックスボイスにつながります。違いの詳細はファルセットとはとヘッドボイスとはを参考にしてください。
ミックスボイスと声帯閉鎖|コツと強さの目安
ミックスボイスは、地声のような芯と、裏声のような軽さを両立させた発声です。仕組みとしては、輪状甲状筋で声帯を伸ばして薄くしながら、閉鎖は保っている状態と説明されます。ミックスボイスの感覚をひと言でいえば、「裏声の軽さのまま、地声の手応えがある」声です。
ミックスボイスを出すコツは、裏声から始めて閉鎖を足していくことです。ミックスボイスの強さ(地声らしさ)は閉鎖の強さでほぼ決まり、閉鎖が弱いと裏声寄りの柔らかいミックスに、強いと地声寄りの力強いミックスになります。いきなり地声から高音へ張り上げてミックスを作ろうとすると、閉鎖も太さもそのままなので喉締めになりがちです。
ミックスボイスで喉が疲れるという場合は、閉鎖を強めすぎているか、息の圧で押し上げている可能性があります。一度ファルセット寄りに戻し、音量を下げて同じ高さを出してみてください。練習法はミックスボイスの出し方でまとめています。
高音で声が裏返るのは閉鎖が弱くなるから
地声で音階を上がっていくと、ある高さで急に声がひっくり返ることがあります。これは、声帯が伸びて薄くなるときに閉鎖が急に弱くなり、地声から裏声へ一気に切り替わるためです。裏返る境目(喚声点)で、閉鎖を少しずつ弱めながら声帯を薄くしていけば、段差なくつなげられます。練習では、裏返りそうな高さの前後を「ネイ」でゆっくり上下し、閉鎖が抜けきらないように保ちます。
ベルティング・ホイッスルボイスと声帯閉鎖
ベルティングは、ミュージカルやロックで高い音を地声の質感のまま張って出す発声で、声区の中でも特に閉鎖が強い部類に入ります。閉鎖と息の圧が大きいぶん喉への負担も大きいため、ミックスボイスが安定してから取り組むのが安全です。
ホイッスルボイスは、裏声よりさらに高い音域で出る笛のような声です。声帯のごく一部だけが振動していると考えられていますが、仕組みにはまだわかっていない部分も多く、閉鎖の強さで説明しきれるものではありません。出し方はホイッスルボイスとはを参照してください。
音域・声質別に見る声帯閉鎖|高音・低音・ウィスパー・ビブラート
声帯閉鎖で気をつけるポイントは、音域や出したい声質によって変わります。ここでは、高さごとの注意点と、ウィスパーボイスやビブラート、鼻腔共鳴など声質との関係を整理します。
中音域|閉じ方の基準を作る
話し声に近い中音域は、声帯閉鎖の練習の基準になる高さです。力まずに出せる高さなので、閉じ具合の変化を聞き分けやすく、ここで作った「ちょうどよい閉鎖」の声を低音と高音に広げていきます。練習の最初は必ず中音域から始めましょう。
低音・低い声|息を減らして軽く閉じる
低音では声帯が厚くゆるんだ状態になるため、息を多く送ると閉鎖が崩れて息っぽく、ぼやけた声になりやすくなります。低い声を太くしようと喉を押し下げると、今度は詰まった声になります。低音域では息の量を減らし、エッジボイスに近い軽さで閉じる意識を持つと、低い声でも輪郭がはっきりします。
高音・高音域・高い声|薄くしても閉鎖を残す
高音域では声帯を引き伸ばして薄くする必要があるため、地声のような強い閉鎖のままでは上がれません。かといって閉鎖を手放すと、ファルセットに抜けて弱々しい声になります。高い声で大切なのは、声帯を薄くしながらも閉鎖だけは残すことです。前章のミックスボイスの練習と同じく、裏声に閉鎖を足していく方向で高音を作ると、喉に負担をかけずに芯のある高音になります。
ウィスパーボイスと声帯閉鎖
ウィスパーボイスは、あえて閉鎖を弱めて息を多く混ぜた、ささやくような声です。バラードの歌い出しやサビ前の静かな場面で、切なさや親密さを演出できます。ただし息を大量に使うので喉が乾きやすく、ずっと続けると疲れやすい発声です。閉鎖を自分でゆるめられることと、閉鎖が弱いまま戻せないことは別物なので、ウィスパーから普通の声にすぐ戻れるかを確かめておきましょう。表現としての使い方はウィスパーボイスとはで解説しています。
ビブラートと声帯閉鎖
ビブラートは、音程が自然に細かく揺れる歌唱テクニックです。閉鎖が強すぎて喉が固まっていると揺れが生まれにくく、閉鎖が弱すぎると揺れても音がぼやけます。ビブラートがかからない人は、第8章の脱力で閉鎖を少し緩めてから試すと、揺れが出やすくなることがあります。
鼻腔共鳴・鼻声・軟口蓋と声帯閉鎖
鼻の奥に響きを集める鼻腔共鳴は、声を明るくし、閉鎖した声の芯を前に運んでくれます。ネイネイの練習で鼻にかかった響きを使うのはこのためです。一方で、軟口蓋(上あごの奥の柔らかい部分)が下がりすぎて息が鼻に抜ける「鼻声」は、響きがこもって閉鎖の手応えもぼやけます。「ネイ」で閉鎖の感覚をつかんだら、あくびの喉で軟口蓋を少し持ち上げ、鼻にかかりすぎない明るさに整えましょう。詳しくは鼻腔共鳴とはと軟口蓋の使い方を参考にしてください。
話し声・カラオケ・声楽・合唱・声優での声帯閉鎖
声帯閉鎖は歌だけの技術ではありません。話し声から声楽まで、声を使う場面ならどこでも関わっています。ただし、場面によってねらう閉じ具合や優先することが違うので、自分の目的に合わせて練習の方向を決めましょう。
話し声と声帯閉鎖
話し声で閉鎖が弱いと、声が小さい、こもる、電話やマスク越しで聞き返される、といった悩みにつながります。一方で閉鎖が強すぎると、きつい印象の声になったり、長く話すと喉が疲れたりします。話し声では、中音域の「ちょうどよい閉鎖」をそのまま会話に持ち込むのが目標です。朝のあいさつを少し澄んだ声で言う、音読を毎日1分録音する、といった小さな習慣が効果的です。
カラオケで声帯閉鎖を活かすには
カラオケでは、マイクが声を拾ってくれるので、息っぽい声でもある程度は聞こえます。しかし閉鎖が弱いと、伴奏に声が埋もれ、サビで声が細くなりがちです。Aメロはやや緩め、サビは閉鎖を強めて芯を出す、というように曲の中で強弱を切り替えると、歌に立体感が出て、カラオケ採点の抑揚の評価にもつながりやすくなります。カラオケでの練習の進め方はカラオケが上手くなる方法も参考にしてください。
声楽・合唱での声帯閉鎖
クラシックの声楽では、マイクを使わずにホールの後ろまで声を届けるため、効率のよい声帯閉鎖が欠かせません。同時に、喉を広く開けた深い響きも求められるので、「閉じた声帯」と「開いた喉」の両立が特に重視されます。第2章の図の状態を、最も高い精度で求められるジャンルと言えます。
合唱では、一人ひとりの閉鎖が弱く息漏れが多いと、全体の響きがぼやけて音程も合いにくくなります。逆に一人だけ強い閉鎖で張ると、周りから浮いてしまいます。合唱では息漏れを抑えつつ、音量は周りに溶け込む程度に保つのがポイントです。
声優・ナレーションでの声帯閉鎖
声優の仕事では、元気な少年の声、ささやく声、低く渋い声など、役によって声の質を大きく変えます。これを支えているのが、閉鎖の強さを自在に変える技術です。息の多い柔らかい声も、はっきりした芯のある声も、意図して出し分けられることが求められます。ナレーションでは長時間話しても疲れないことが大切なので、強すぎない安定した閉鎖が基本になります。
声帯閉鎖が強い歌手と練習曲
声帯閉鎖のイメージをつかむには、実際の歌声を聴くのがいちばんの近道です。ここでは、芯のある力強い歌声で知られ、声帯閉鎖の話題で名前が挙がりやすい歌手と、閉鎖の練習に使いやすい曲を紹介します。歌手本人が発声の仕組みを公表しているわけではないので、あくまで「聴いたときの印象」として参考にしてください。
声帯閉鎖が強いと言われる歌手
| 歌手 | 聴きどころ |
|---|---|
| 大森元貴(Mrs. GREEN APPLE) | 高い音域でも息っぽくならず、芯を保ったまま張り上げる歌声。声帯閉鎖の強い歌手の例として名前が挙がることが多い |
| 稲葉浩志(B'z) | ロックのハイトーンでも声が細くならない力強さ。サビの張った声は閉鎖の強さの参考になる |
| 藤原聡(Official髭男dism) | 地声と裏声のあいだを行き来しても芯が途切れない高音。ミックスボイスと閉鎖の関係がわかりやすい |
| 越智志帆(Superfly) | パワフルなロングトーンで知られる女性ボーカル。長く伸ばしても息漏れしない閉鎖の維持が参考になる |
比較として、Aimerのように息の成分を多く含んだハスキーな歌声も聴いてみてください。閉鎖をあえて強くしない声が、どれだけ違う表情を持つかがわかります。どちらが正解ではなく、閉鎖の強さは声のキャラクターを決める要素の一つだと感じられれば十分です。
声帯閉鎖の練習曲
練習曲は、最初から高音の多い曲を選ぶより、段階に合わせて選ぶのがおすすめです。
| 曲名(歌手) | 練習のポイント |
|---|---|
| マリーゴールド(あいみょん) | 話すような中音域が中心。息っぽくならない閉鎖の基準作りに向く |
| Lemon(米津玄師) | 低めの音域から始まる曲。低音で息を減らして輪郭を出す練習になる |
| 愛をこめて花束を(Superfly) | サビの伸びやかなロングトーンで、閉鎖を最後まで維持する練習に |
| Pretender(Official髭男dism) | サビで高音へ上がる曲。裏声に閉鎖を足すミックスボイスの練習に |
曲は原曲キーにこだわらず、カラオケのキー変更で喉が苦しくならない高さに調整してかまいません。まずワンフレーズを母音だけで歌い、息漏れがないことを確かめてから歌詞をつけると、閉鎖を保ったまま歌う感覚がつかみやすくなります。
声帯閉鎖不全とは|原因・症状・リハビリと治療
ここまでは歌や話し方の技術としての声帯閉鎖を扱ってきましたが、声帯がうまく閉じない原因が病気やけがにあることもあります。医学的には、発声のときに声帯のあいだにすき間が残って十分に閉じない状態を「声帯閉鎖不全(声門閉鎖不全)」と呼びます。練習では改善しない種類のものなので、特徴を知っておきましょう。
声帯閉鎖不全の主な原因
- 声帯麻痺:声帯を動かす神経(反回神経)が、首や胸の手術、腫瘍、ウイルス感染などで傷つき、片側の声帯が動かなくなる状態です。原因がはっきりしない場合もあります。
- 声帯の萎縮:加齢や、声を使う機会が減ることで声帯が痩せ、閉じてもすき間が残るようになります。
- 声帯ポリープ・声帯結節:声帯にできたこぶが邪魔をして、きれいに閉じられなくなります。声の使いすぎや、強すぎる閉鎖で大声を出し続けることが原因になることもあります。
- 声帯溝症:声帯の縁に溝ができ、閉じたときにすき間が残る病気です。
声帯閉鎖不全の症状と誤嚥のリスク
代表的な症状は、息の混ざったかすれ声、声が小さい、話していると息が続かない、といったものです。声帯は飲み込む(嚥下する)ときにも閉じて気管にふたをする役割があるため、閉鎖不全があると、飲み物や食べ物が気管に入る誤嚥(ごえん)が起きやすくなります。食事中によくむせる、水を飲むと咳き込むといった症状がある場合は注意が必要です。
リハビリ(音声治療)と手術による治療
声帯閉鎖不全の治療は、原因と程度によって変わります。まずは耳鼻咽喉科で、内視鏡を使って声帯の動きやすき間の状態を調べてもらうのが出発点です。
- 音声治療(リハビリ)
- 言語聴覚士の指導のもとで行う発声訓練です。たとえば壁を押したり腕に力を入れたりしながら声を出し、声帯を閉じる動きを引き出す「プッシング法」などが知られています。自己流で行うと喉を痛めることがあるため、必ず専門家の指導のもとで行います。
- 手術
- リハビリで改善が難しい場合は、声帯に薬剤などを注入して厚みを補う方法(声帯内注入術)や、首の外側から軟骨を調整して声帯を内側に寄せる方法(甲状軟骨形成術)などの手術が検討されます。ポリープが原因なら、ポリープを取り除く手術が行われます。
多系統萎縮症など神経の病気との関係
多系統萎縮症のような神経の病気では、声帯の動きに関わる症状が出ることが知られています。この場合は閉じにくさだけでなく、反対に声帯が開きにくくなり、睡眠中にいびきのような呼吸音が出たり、息苦しさが出たりすることもあります。これは発声練習で対処するものではなく、神経内科や耳鼻咽喉科での診察が必要です。
いずれにしても、声のかすれが2週間以上続く、むせやすくなった、息苦しさがあるといった場合は、ボイトレより先に医療機関を受診してください。この記事で紹介した練習は、健康な声帯の使い方を整えるためのものです。
よくある質問
- 声帯閉鎖と喉締めは何が違うのですか?
- 声帯閉鎖は声帯だけを適度に閉じる動きで、喉締めは声帯の上の仮声帯や喉の筋肉まで一緒に締めつけてしまう状態です。喉仏が大きく上がる、首に力が入る、声が詰まって苦しいと感じるなら喉締めが混ざっています。閉じるのは声帯だけ、その上の空間は開けておくのが正しい状態です。
- 「息を止める感覚」で閉じればいいのですか?
- 息を止めるときの閉じ方は、仮声帯まで閉じる強い閉鎖なので、そのまま歌うと喉締めになりやすくなります。閉じる場所を確認するきっかけとしては使えますが、声を出すときはその何分の一かの力に落としてください。まずはエッジボイスや驚いた「あっ」で、小さな閉鎖の感覚をつかむのがおすすめです。
- 声帯閉鎖は独学で身につけられますか?
- エッジボイスやネイネイなどの基本練習は独学でも取り組めます。ただし、閉鎖の強さは自分の感覚だけでは判断しにくく、喉締めのクセがついたまま練習を続けてしまう人も少なくありません。録音でのチェックを欠かさず、うまくいかないときはボイトレ教室で一度プロに聴いてもらうと、遠回りを防げます。
- 毎日練習しても喉は大丈夫ですか?
- 1日10〜15分程度で、痛みや声枯れが出ない範囲なら毎日続けてかまいません。むしろ短時間を毎日続けるほうが効果は出やすくなります。喉に痛みやヒリヒリ感が出たらその日はやめて休ませ、かすれが2週間以上続く場合は耳鼻咽喉科を受診してください。
- 声帯閉鎖ができると声はどう変わりますか?
- 息漏れが減るので、同じ息の量でも声が大きく、芯のある明るい声になります。高音でひっくり返りにくくなり、フレーズの最後まで息が続きやすくなるのも大きな変化です。話し声も通りやすくなり、聞き返されることが減ったと感じる人も多くいます。
まとめ
声帯閉鎖とは、声を出すときに左右の声帯を適度に閉じ合わせ、息をむだなく声に変えることです。この記事のポイントを振り返ります。
- 声帯閉鎖は「できる・できない」ではなく強さの段階があり、弱すぎれば息漏れ、強すぎれば喉締めになる
- 閉じるのは声帯だけ。その上の仮声帯は締めず、喉(咽頭)は開けておく
- 感覚は小さく、エッジボイス・「ア・ア・ア」・ロングトーン・音程の4ステップで身につける
- ティッシュ、「アー」の持続時間、録音、小さい声の4つで、できているかを確認する
- 練習はストロー・リップロール・ハミングで温めてから、エッジボイスとネイネイで鍛える
- ミックスボイスや高音は、裏声に閉鎖を足していく方向で作る
- かすれ・むせ・息苦しさが続くときは、声帯閉鎖不全などの病気も考えて耳鼻咽喉科へ
声帯閉鎖は目に見えない調整だからこそ、自分の耳だけで判断するのが難しい技術です。「閉じているつもりなのに息っぽい」「強めると喉が痛くなる」と感じたら、ボイストレーナーに直接聴いてもらうのが上達の近道になります。ボイトレ教室検索では、全国の教室を都道府県・市区町村・駅から探せます。体験レッスンで声帯閉鎖のチェックをお願いして、自分の声の現在地を確かめてみてください。

