肺活量とは|意味・定義と単位(ml・cc・リットル)、英語
肺活量とは、息を限界まで吸い込んだ状態から、限界まで吐き出したときに出せる空気の量のことです。簡単に言えば「1回の呼吸で出し入れできる空気の最大量」で、肺そのものの大きさではなく、肺と胸郭(肋骨で囲まれたかご)がどれだけ大きく膨らみ、どれだけ縮めるかの幅を表します。健康診断や人間ドックの呼吸機能検査で測られるほか、スポーツ、吹奏楽、歌の世界でも「肺活量がある人」「肺活量が少ない」といった言い方でよく使われます。
肺活量の定義をわかりやすく
医学的な定義では、肺活量(VC)は「最大吸気位から最大呼気位まで、ゆっくり吐き出したときの空気量」です。ポイントは3つあります。1つ目は吐き切っても肺は空にならないこと。どれだけ頑張って吐いても肺の中には1〜1.5リットルほどの空気が残り、これを残気量と呼びます。肺活量にはこの残気量は含まれません。2つ目は、ゆっくり吐いた量か、一気に吐いた量かで呼び名が変わること。一気に勢いよく吐き出した量は「努力性肺活量」と呼び、区別します(後の章で解説します)。3つ目は、肺活量は息を吸う筋肉・吐く筋肉の働き、胸郭の柔らかさ、肺の弾力の合計で決まるということです。つまり肺活量は「肺の大きさ」だけでなく、「呼吸に関わる体全体の働き」を映す数値だと考えると理解しやすくなります。
肺活量は何で決まる?何に役立つ数値か
肺活量に影響を与える因子のうち、最も大きいのは身長(胸郭の大きさ)、年齢、性別の3つです。個人の肺活量でどこまで体の状態がわかるかは限られますが、これらを知っておくと数値を正しく読めます。肺活量を決める主な因子は、身長(胸郭の大きさ)、年齢、性別の3つです。体格が大きいほど胸郭が広く、肺活量も大きくなります。20代前半をピークに年齢とともに少しずつ減り、同じ身長なら男性のほうが女性より大きい傾向があります。このほか、呼吸筋の強さ、姿勢、肥満、喫煙、肺や胸郭の病気なども影響を与えます。
肺活量を測る目的は、主に次の2つです。
- 医療・健康診断: 肺が十分に膨らむか(拘束性の障害がないか)を調べる。手術前の評価や、呼吸器の病気の経過観察にも使われる
- スポーツ・音楽: 呼吸の余裕の目安として話題になる。ただし持久力や歌のうまさを直接表す数値ではない(後の章で解説)
単位の読み方|ml・cc・リットル(L)の関係
肺活量の単位は、ミリリットル(ml)かリットル(L)で表すのが一般的です。昔の学校の体力テストや古い資料ではcc(シーシー)で書かれていることもありますが、1cc=1mlなので、ccとmlは同じ量です。ccとは cubic centimeter(立方センチメートル)の略です。1000ml(1000cc)が1リットルなので、3500ml=3500cc=3.5Lという関係になります。健診の結果票では「L」で小数点以下2桁まで表示されることが多く、「3.52L」なら3520mlのことです。表し方が違うだけで意味は同じなので、見比べるときは単位をそろえてから比べましょう。
肺活量の英語・略語と類語
- 英語
- 英語表記は vital capacity(えいごの読みはヴァイタル・キャパシティ)。英語で「lung capacity」と言うこともあるが、医学的には全肺気量(肺に入る空気の総量)を指す場合もあるので注意
- 略語
- VC。VCとは vital capacity の頭文字。努力性肺活量は FVC(forced vital capacity)
- 類語・関連語
- 全肺気量、最大吸気量、1回換気量(安静時の1回の呼吸量)。別名として「肺容量」と書かれることもあるが、厳密には別の量
- 例文
- 「水泳部の彼は肺活量が多い」「肺活量を鍛えるとロングトーンが楽になった」
なお、高校の論理国語の教科書に載っている鷲田清一の評論「思考の肺活量」は、すぐに答えを出さずに問いを抱え続ける力を肺活量にたとえた文章で、呼吸の肺活量とは比喩としての関係です。
肺活量の平均・基準値|年齢別・男女別の目安
肺活量の平均値は、身長・年齢・性別で大きく変わるため「日本人の平均は◯ml」と1つの数字では言えません。そこで健康診断では、身長・年齢・性別から計算した予測肺活量(その人の基準値)を出し、実際に測った値と比べて評価します。ここでは、日本呼吸器学会が2001年に示した日本人の予測式を使って、年代別の目安を表にしました(計算式そのものは後の章で解説します)。
年齢別・年代別の肺活量の目安(平均的な身長で計算)
男性は身長170cm、女性は身長158cmとして、各年代の真ん中の年齢(20代なら25歳)で計算した値です。成人男性・一般男性の肺活量はおおむね4000ml前後、女性は3000ml前後が標準的な値と考えてよいでしょう。
| 年代 | 男性(170cm) | 女性(158cm) |
|---|---|---|
| 20代 | 約4820ml(4.82L) | 約3430ml(3.43L) |
| 30代 | 約4590ml | 約3250ml |
| 40代 | 約4360ml | 約3070ml |
| 50代 | 約4130ml | 約2890ml |
| 60代 | 約3900ml | 約2710ml |
| 70代 | 約3670ml | 約2530ml |
| 80代 | 約3440ml | 約2350ml |
| 90代 | 約3210ml | 約2170ml |
たとえば40歳の男性(170cm)なら約4470ml、50歳の男性なら約4240ml、60歳なら約4010mlが予測値です。35歳の平均的な女性なら約3250ml、20歳の女性なら約3520mlになります。身長が10cm違うと男性で約450ml、女性で約320ml変わるので、表の値はあくまで目安として、自分の身長で計算した値と比べてください。80代・90代(90歳前後)や95歳以上の高齢者・老人の値は、予測式の元になったデータが少ない年齢層なので、参考程度に見るのが安全です。
同じ年代の中でも肺活量には個人差があり、多くの人の値を並べた分布を見ると、平均の上下に大きく広がっています。年齢別の分布図を見ても、平均値から±20%程度の幅に多くの人が入るため、平均と少し違うだけで心配する必要はありません。
肺活量のピークは何歳?年齢で下がる理由
肺活量のピークは20代前半(おおむね20〜25歳)で、その後は年齢とともにゆるやかに下がります。予測式では、男性で1年あたり約23ml、女性で約18mlずつ減る計算です。年齢とともに下がるのは、肺の弾力(縮む力)が落ちること、肋骨まわりの関節や軟骨が硬くなって胸郭が広がりにくくなること、呼吸筋の筋力が落ちることが重なるためです。グラフで見ると急に落ちるのではなく、一定のペースでなだらかに下がっていきます。この年齢による低下は誰にでも起こる老化の一部で、病気ではありません。
男女差の理由と、身長・体重との関係
肺活量に男女差がある理由は、主に体格の違いです。男性のほうが平均身長が高く、胸郭も大きいため肺が膨らめる空間が広くなります。同じ身長で比べても、女性の予測値は男性より低く出ます。身長との関係は強く、身長が高い人ほど肺活量も大きくなります。一方、体重はそのまま比例するわけではなく、肥満でお腹まわりに脂肪が多いと横隔膜が下がりにくくなり、かえって肺活量が下がることがあります。
子供・中学生の肺活量は?
子供の肺活量は、身長の伸びとともに増えていきます。成長期の子供の値は大人の予測式では正しく評価できず、小児用の基準で見るのが原則です。現在の学校の新体力テストには肺活量の項目がないため、中学生の全国平均のような公的な数字は一般には公表されていません。身長が大人に近づく中学生後半〜高校生になると、成人の値に近づいていきます。
基準値・正常値の考え方|「平均以下」でも問題ないことが多い
肺活量の「基準値」「正常値」は、上の表の数字そのものではなく、予測値に対して80%以上あるかで判断するのが通常のやり方です。たとえば予測値が4000mlの人なら、3200ml以上あれば正常の範囲と判定されます。つまり年齢別の平均値より少し低くても、身長が低い人や体格が小さい人なら正常なことはよくあります。ml表示・L表示どちらの基準値も考え方は同じです。
肺活量3000・4000・5000・6000mlはどのくらい?数値の見方
「自分の肺活量4000mlは多いの?少ないの?」と気になったときは、前の章の年代別の目安と比べるのが基本です。ここでは、よく検索される数値がどれくらいのレベルなのかを一覧にしました。前提として、同じ数値でも身長・年齢・性別で評価はまったく変わります。下の表は、成人の平均的な体格(男性170cm前後・女性158cm前後)を想定した大まかな目安です。
数値別の目安一覧(ml・cc・L)
| 肺活量 | 成人男性から見ると | 成人女性から見ると |
|---|---|---|
| 2300〜2600ml(2400mlなど) | 少なめ(予測値の6割程度のことも) | 60代以降なら標準的。20〜30代ならやや少なめ |
| 3000ml(3L) | 少なめ〜高齢者の標準 | 標準〜やや多め |
| 3500〜3900ml(3600mlなど) | 60〜70代の標準。若い人はやや少なめ | 多め(3500の女性は20代の平均より上。3700の女性は多いほう) |
| 4000〜4500ml(4300mlなど) | 30〜50代の標準 | かなり多い(4000の女性は長身か運動習慣がある人に多い) |
| 4600〜4900ml(4700・4800mlなど) | 20〜30代の標準〜やや多め | 非常に多い |
| 5000〜5500ml | 多い(長身の人や持久系のスポーツ経験者に多い) | まれなレベル |
| 6000〜6800ml | かなり多い(6000の男性は長身の運動選手に多い) | 非常にまれ |
| 7000〜9000ml(7500・8500mlなど) | トップアスリート級で非常にまれ | ほぼ見られない |
「肺活量は何リットルあれば普通?」という疑問には、成人男性なら4リットル前後、女性なら3リットル前後と答えられます。リットル表示でいえば、4.5Lや4.6L、4.8Lは成人男性の標準から少し多めくらい、2リットル台は小柄な女性や高齢の方にはよくある値です。4リットルを超えると女性ではかなり多く、5リットルを超えると男性でも多いほう、6リットル以上は運動選手でも大きい部類です。
5000cc・6000cc・7000cc・8000ccはどのくらいすごい?
cc表記で「5000cc超え」と言われると大きく感じますが、身長180cm前後の若い男性なら予測値そのものが5000ml(5000cc)近くになるため、長身の人にとっては「標準よりやや多い」程度のこともあります。6000ccになると、身長が高く、水泳・ボート・長距離走などで呼吸を鍛えてきた人に見られるレベルです。7000cc以上、8000ccともなると、一般の人の中ではまず出会わない数値で、ネットで「化け物」「やばい」と話題になるのはこのあたりからです。
人間の肺活量の限界としてよく引き合いに出されるのは、後の章で紹介するボート競技の選手の記録で、11リットル台と報じられています。平均的な成人男性のcc(ml)と比べると2倍以上で、人間の肺活量としては極めて例外的な値です。
数値だけで優秀かどうかは決まらない
肺活量が大きいほど「優秀」「レベルが高い」と感じがちですが、医学的に大事なのはその人の予測値に対して何%あるかです。身長150cmの人の3000mlと、身長185cmの人の3000mlでは意味がまったく違います。数値の多い・少ないで一喜一憂するより、次の章で紹介する計算式で自分の予測肺活量を出し、%肺活量を見るほうが正確です。ちなみに肺活量が平均より大きいこと自体に健康上のデメリットはありませんが、後の章で触れるように、病気によって肺の容量が増えて見えるケースもあります。
肺活量の計算式|予測肺活量と%肺活量(パーセント肺活量)の求め方
健康診断の結果票に出てくる「予測肺活量」と「%肺活量」は、どちらも計算で求める値です。ここでは計算式と求め方を、看護の国家試験や授業の計算問題でも使える形で整理します。
予測肺活量の計算式(日本呼吸器学会の予測式)
予測肺活量とは、身長・年齢・性別が同じ健康な日本人なら、これくらいあるはずという基準値です。日本呼吸器学会が2001年に発表した予測式(18歳以上が対象)は次のとおりです。答えはリットルで出ます。
- 男性
- 予測肺活量(L) = 0.045 × 身長(cm) − 0.023 × 年齢 − 2.258
- 女性
- 予測肺活量(L) = 0.032 × 身長(cm) − 0.018 × 年齢 − 1.178
計算例: 身長170cm・40歳の男性なら、0.045×170=7.65、0.023×40=0.92なので、7.65 − 0.92 − 2.258 = 4.472L(約4470ml)が予測値です。身長158cm・40歳の女性なら、0.032×158=5.056、0.018×40=0.72で、5.056 − 0.72 − 1.178 = 約3.16Lになります。
昔から使われてきたBaldwin(ボールドウィン)の予測式
日本では長く、アメリカで作られたBaldwinの予測式も使われてきました。看護の教科書や国家試験の問題で今も見かける公式です。答えはmlで出ます。
- 男性
- 予測肺活量(ml) = (27.63 − 0.112 × 年齢) × 身長(cm)
- 女性
- 予測肺活量(ml) = (21.78 − 0.101 × 年齢) × 身長(cm)
同じ170cm・40歳の男性で計算すると、(27.63 − 4.48) × 170 = 約3940mlとなり、日本呼吸器学会の式より1割ほど低く出ます。どの予測式を使うかは医療機関によって異なり、さらに日本呼吸器学会は2014年に新しい基準値(LMS法による予測式)も示しています。結果票で予測値の算出方法が気になるときは、検査を受けた施設に確認してください。
試験や授業で計算方法を問われたときは、どの式を使うかの指定を確認してから計算しましょう。
%肺活量(パーセント肺活量)の求め方
%肺活量は、実際に測った肺活量(実測値)が、予測肺活量の何パーセントにあたるかを表す割合です。わかりやすく言えば「その人の基準に対する達成率」です。
%肺活量 = 実測肺活量 ÷ 予測肺活量 × 100
たとえば予測値4470mlの男性の実測値が3800mlなら、3800 ÷ 4470 × 100 = 約85%です。計算式の単位はmlかLにそろえてから割り算しましょう(3.8L ÷ 4.47Lでも同じ答えになります)。
%肺活量は何パーセントなら正常?
| %肺活量 | 意味 |
|---|---|
| 100パーセント以上(例: 116%、120%、130パーセント、140%) | 予測値より大きい。体格の割に肺活量が多い |
| 80〜99%(例: 90パーセント、95%) | 正常範囲 |
| 80パーセント以下(80%未満) | 拘束性換気障害の疑い。70パーセント前後以下なら医療機関での精密検査を検討 |
%肺活量の平均は健康な人ならおおむね100%前後に集まるように予測式が作られているので、年齢別に平均を探す必要はありません。20代でも70代でも、同じ「80%以上なら正常」という物差しで評価できるのが%肺活量の便利なところです。なお「肺年齢」は実年齢とは別に、1秒量から逆算する指標で、%肺活量とは計算の仕方が違います(後の章で解説)。
肺気量分画とは|1回換気量・予備吸気量・予備呼気量・残気量と全肺気量
肺の中の空気の量を、呼吸の段階ごとに区切って表したものを肺気量分画といいます。肺活量はこの分画の一部で、「肺活量に含まれるもの・含まれないもの」を知ると、検査結果の意味や肺活量と肺気量の違いがすっきり理解できます。看護や医療系の国試でも、分画の図(グラフ)から数値を読み取る問題が定番です。
肺気量分画の4つの基本の量
肺の空気は、次の4つの「量(volume)」に分けられます。数値は若い成人男性の教科書的な目安です。
| 分画 | 意味 | 目安(成人男性) |
|---|---|---|
| 1回換気量(TV) | 安静時の1回の呼吸で出入りする空気 | 約500ml |
| 予備吸気量(IRV) | 普通に吸ったあと、さらに吸い込める量 | 約3000ml |
| 予備呼気量(ERV) | 普通に吐いたあと、さらに吐き出せる量 | 約1100ml |
| 残気量(RV) | 最大に吐き切っても肺に残る量 | 約1200ml |
予備呼気量は英語の expiratory reserve volume を略してERVと書きます。残気量は「残機量」と表記されることもありますが、正しくは「残気量」です。
国試でよく出る「肺活量はなんの和か」という問いの答えは、図のとおり予備吸気量・1回換気量・予備呼気量の和です。教科書のイラストでは、スパイロメーターで記録した波形の横に、この図のような分画の帯を並べて描くのが一般的です。
肺活量・全肺気量・最大吸気量などの「容量」
基本の4つの量を組み合わせたものを「容量(capacity)」と呼びます。肺活量もその1つです。
- 肺活量(VC) = 予備吸気量 + 1回換気量 + 予備呼気量(約4600ml)。残気量は含まない
- 全肺気量(TLC) = 肺活量 + 残気量(約5800ml)。肺に入る空気の総量。「全排気量」と書かれることもあるが誤り
- 最大吸気量(IC) = 1回換気量 + 予備吸気量(約3500ml)。普通に吐いた位置から吸い込める最大の量
- 機能的残気量(FRC) = 予備呼気量 + 残気量(約2300ml)。普通に吐いたあと肺に残っている量
「最大呼気量」という言葉は、最大吸気位から吐き出せる量という意味なら肺活量とほぼ同じものを指しますが、正式な分画の名前ではありません。つまり、肺活量に含まれないものは残気量だけで、機能的残気量と全肺気量は残気量を含む量です。肺活量はスパイロメーターで直接測れますが、残気量を含む量は吐き出せない空気なので、ガス希釈法などの別の検査が必要です。
1回換気量の計算と、残気量・残気率とは
1回換気量を使う代表的な計算が分時換気量(1分間に出入りする空気の量)で、「1回換気量 × 1分間の呼吸数」で求めます。1回換気量500ml・呼吸数12回なら、500×12=6000ml(6L)です。ただし1回換気量のうち約150mlは気管などの通り道(死腔)にとどまり、ガス交換に使われません。実際にガス交換に使われる肺胞換気量は「(1回換気量 − 死腔量)× 呼吸数」=(500 − 150)× 12 = 4200ml です。
残気量とは、吐き切っても肺に残る空気のことで、肺がぺしゃんこにつぶれないように保つ役割があります。残気量を全肺気量で割った割合を残気率といい、年齢とともに上がります。肺気腫(COPD)などで息を吐き切れなくなると、残気量・残気率が大きくなり、そのぶん肺活量が小さくなるのが特徴です。分画の種類と分類を図とセットで覚えておくと、健診の結果や医療の話題が読みやすくなります。
肺活量検査(呼吸機能検査)のやり方とコツ|難しい・うまくできないときは
肺活量検査とは、スパイロメーターという機械で呼吸の量と速さを測る検査で、正式には呼吸機能検査(スパイロメトリー)の一部です。健康診断や人間ドック(「人間ドッグ」と書かれることもあります)、手術前の検査、喘息やCOPDの診察などで行われます。痛みはありませんが、全力で吸って吐く必要があるので「難しい」「苦手」と感じる人が多い検査です。
肺活量検査のやり方(測定方法の流れ)
一般的な測定方法は次のとおりです。多くは椅子に座った座位で行い、検査技師の声かけに合わせて呼吸します。
- 鼻から空気が漏れないようにノーズクリップで鼻をつまみ、マウスピースをくわえる
- 普通の呼吸(安静呼吸)を数回くり返し、呼吸を落ち着かせる
- 合図で、これ以上吐けないところまでゆっくり吐き切る
- 続けて、限界まで大きく息を吸い込む
- もう一度、ゆっくり最後まで吐き切る。記録の線が平らになる(プラトー)まで吐き続ける
「吐いて吐いて、もっと吐いて!」「はい、吸って吸って、まだ吸えます!」という技師の声かけは、限界まで出し切ってもらうためのものです。ギリギリまで頑張らないと実際より低い数値が出るため、2〜3回測って良いほうの値を採用するのが一般的です。続けて一気に吐き出す努力性肺活量の測定もセットで行うことが多く、こちらは次の章で解説します。
肺活量検査のコツ|うまくできない人のためのポイント
- マウスピースを唇でしっかりくわえる: すき間から空気が漏れると数値が低く出る
- 吸うときは肩を上げず、胸とお腹を全体に膨らませる: 背筋を伸ばして座ると胸郭が広がりやすい
- 吐くときは途中で止めない: 「もう出ない」と思ってから、あと数秒絞り出すつもりで
- 1回目は練習と割り切る: 要領がわかる2回目以降のほうが良い値になりやすい
- 直前の食事・喫煙・きつい服を避ける: お腹が張っていると横隔膜が下がりにくい
どうしても難しいときは、無理をせず技師に「うまくできない」と伝えてください。やり方をもう一度説明してもらえます。検査のあとに軽い頭痛やめまいが出ることがありますが、深呼吸をくり返したことによる一時的なものがほとんどです。続くときは医師に相談しましょう。
姿勢で数値は変わる?座位・立位・仰臥位
肺活量は姿勢によって少し変わります。一般に、座位や立位に比べて、仰向けに寝た仰臥位(臥位)では肺活量が小さくなります。寝ると腹部の内臓が横隔膜を胸の側に押し上げ、横隔膜が下がりにくくなるためです。検査の値を前回と比べるときは、同じ姿勢で測ることが大切です。
検査の費用・保険点数と、何科で受けられるか
保険診療での肺活量の検査(肺気量分画測定)は90点、努力性肺活量を含むフローボリュームカーブは100点です(令和6年度の診療報酬点数)。1点は10円なので、肺気量分画測定だけなら900円、3割負担で約270円が検査そのものの費用の目安になります(別に初診料・再診料などがかかります)。健康診断や人間ドックで受ける場合はコースの料金に含まれます。
検査を受けたいときは、呼吸器内科のある病院やクリニックが窓口です。息切れ・長引く咳などの症状があれば、内科か呼吸器内科を受診し、必要に応じて検査を受ける流れになります。喘息の人の肺活量検査では、発作が出ていないか確認しながら慎重に行われます。
肺活量検査で何がわかる?
肺活量検査でわかることは、肺が十分に膨らむかどうか(%肺活量)と、息を勢いよく吐き出せるかどうか(1秒率)の2つです。この2つの数値の組み合わせで、肺の働きに問題があるかどうかを大まかに分類できます。全身麻酔の手術前に呼吸機能検査が行われるのは、麻酔中や手術後の呼吸にどのくらい余裕があるかを確かめるためです。数値の読み方は次の章で詳しく説明します。
努力性肺活量と1秒量・1秒率|肺活量との違いとグラフの見方
健康診断の呼吸機能検査の結果には、肺活量のほかに「努力性肺活量」「1秒量」「1秒率」といった項目が並びます。肺活量が「どれだけ大きく膨らむか」を見るのに対し、これらは「どれだけ勢いよく吐き出せるか」を見る数値です。
努力性肺活量(FVC)とは|肺活量(VC)との違い
努力性肺活量(努力肺活量とも呼ぶ)とは、限界まで吸った状態から一気に、できるだけ速く吐き出したときの空気の量です。英語の forced vital capacity の略でFVCと書きます。FVCとは、つまり「力いっぱい吐いた肺活量」のことです。やり方は、限界まで吸ったあと、合図で「ハッ!」と一気に吐き出し、そのまま最後まで吐き切ります。
ゆっくり吐く肺活量(VC)と、一気に吐く努力性肺活量(FVC)の違いは吐き方だけで、健康な人ならほぼ同じ値(L)になります。ところがCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などで気道がつぶれやすくなっていると、勢いよく吐いたときに途中で気道が閉じてしまい、空気が肺に閉じ込められます。これを空気とらえこみ現象といい、FVCがVCより明らかに小さくなります。FVCとVCの差は、この現象の目安にもなります。
1秒量・1秒率とは|計算式と基準値
- 1秒量(FEV1)
- 努力性肺活量の測定で、吐き始めの最初の1秒間に吐き出した量。1秒量の基準値も、身長・年齢・性別による予測値との比(%1秒量)で評価する
- 1秒率(FEV1%)
- 1秒量 ÷ 努力性肺活量 × 100。最初の1秒で全体の何パーセントを吐き出せたか。70%以上が基準値(正常)
たとえば努力性肺活量4.0L、1秒量3.2Lなら、1秒率は3.2 ÷ 4.0 × 100 = 80%です。健康な若い人では最初の1秒で8割前後を吐き出せます。1秒率が低い(70%未満)ということは、息の通り道が狭くなって速く吐けない状態を意味し、喘息やCOPDなどの「閉塞性換気障害」が疑われます。
換気障害の分類|%肺活量と1秒率の組み合わせ
%肺活量(80%が境目)と1秒率(70%が境目)を組み合わせると、肺の働きの状態は4つの区分に分類できます。健診結果の総合判定も、基本的にはこの分類を元にしています。
- 拘束性換気障害: 肺が膨らみにくい。間質性肺炎、胸郭の変形、神経・筋肉の病気、高度の肥満など
- 閉塞性換気障害: 息を速く吐けない。COPD、喘息など
- 混合性換気障害: 両方の特徴がある。進行したCOPDなど
フローボリューム曲線の見方|ピークフロー・V25・MMF
努力性肺活量の測定では、吐く速さ(流量)と吐いた量をグラフにしたフローボリューム曲線も記録されます。グラフの見方のポイントは次の3つです。
- ピークフロー(PEF)
- 吐き始めに出る最大の速さ。ピークフローとは「息の瞬発力」で、喘息の人が家庭でピークフローメーターを使って毎日記録する指標でもある
- V25
- 肺活量の残り25%の位置での速さ。細い気道(末梢気道)の状態を反映し、喫煙の影響が早く出やすい
- MMF(MMEF)
- 努力性肺活量の25〜75%の区間を吐くときの平均の速さ
健康な人のグラフは、吐き始めに鋭いピークがあり、そこからほぼ直線的に下がる三角形に近い形です。閉塞性の障害があると、ピークのあとの下り坂が下に凹んだ形になります。
肺年齢とは|実年齢より上・若いの意味
肺年齢は、1秒量と身長・性別から「この1秒量は何歳の人の標準にあたるか」を逆算した指標で、日本呼吸器学会が提唱しています。肺年齢が実年齢より上なら、同年代より呼吸機能が落ちているサインで、特に喫煙者はCOPDの早期発見のきっかけになります。肺年齢が実年齢より若いなら、同年代より良好な状態です。
健康診断・人間ドックの肺活量の見方|低い・基準値以下と言われたら
健康診断で「肺活量が基準値以下」「呼吸機能で引っかかった」と言われると不安になるものです。ここでは、検査結果の見方と、判定ごとに何をすればいいかを整理します。
検査結果の見方|まず見る3つの項目
| 項目 | 見るポイント | 基準 |
|---|---|---|
| %肺活量 | 肺が十分に膨らむか | 80%以上 |
| 1秒率 | 息を速く吐き出せるか | 70%以上 |
| 肺活量(実測値) | 参考。単独では評価しない | 予測値と比べる |
健康診断の見方で大事なのは、実測の肺活量の数字だけで良し悪しを判断しないことです。3000mlという数値も、小柄な人なら正常、長身の人なら低い、というように評価が変わります。結果票に%肺活量が書かれていれば、そちらで判断しましょう。人間ドックの見方も同じで、施設によっては肺年齢も記載されます。
判定区分(A〜E判定)の意味
判定の表し方は施設によって違いますが、人間ドックの学会の判定区分では、おおむね次のように分けられています。
- A: 異常なし
- B: 軽度の異常(日常生活に支障なし)
- C: 要再検査・生活改善
- D: 要医療(要治療・要精密検査)
- E: すでに治療中
「E判定」は治療中の人に付く区分で、異常の程度が最も重いという意味ではありません。自分の結果票の判定の定義は、欄外の説明を確認してください。
肺活量が低い・低すぎると言われたときに考えられること
%肺活量が80%未満と言われても、すぐに病気とは限りません。よくあるのは次のようなケースです。
- 検査がうまくいかなかった: 吸い込みや吐き切りが不十分、マウスピースからの空気漏れなど。検査が難しいと感じた人に多い
- 体格・体型による影響: 高度の肥満、猫背などの姿勢、妊娠中など
- 一時的な体調: 風邪、鼻づまり、咳が続いているとき
- 病気によるもの: 間質性肺炎、胸郭の変形、胸膜の病気、神経や筋肉の病気など(次の章で解説)
基準値より低い値が出たときの評価は、1回の結果より経過が大事です。前年と比べて大きく落ちていないか、息切れ・咳・痰などの症状がないかも合わせて確認しましょう。
再検査・要精密検査になったら
再検査は、もう一度同じ検査をして値を確かめるものです。検査のコツを意識してやり直すと、基準内に戻ることもよくあります。要精密検査の場合は、呼吸器内科で胸部レントゲンやCT、詳しい呼吸機能検査(残気量の測定など)を受け、原因を調べます。症状がなくても、判定を放置せず受診することが大切です。精密検査で問題がなければ、それがわかること自体が安心材料になります。
肺活量が少ない原因と特徴|病気・生まれつき・タバコ、少ないとどうなる?
肺活量が少ない人には、「もともと体格が小さい」という生まれつきの理由から、姿勢や生活習慣、病気まで、さまざまな原因があります。原因を大きく4つに分けると整理しやすくなります。
生まれつき・もともと少ない人の特徴
肺活量が少ない人の特徴として最も多いのは、単純に体格が小さいことです。身長が低い人、胸郭が小さい人は、もともと肺活量が少なく出ます。体格は遺伝の影響を受けるので、「親も肺活量が少なかった」ということはありえますが、%肺活量が80%以上あれば、体格に見合った正常な値です。また、運動習慣がなく呼吸筋が弱い人、猫背で胸が縮こまった姿勢の人も、実力より低い値になりがちです。
肺活量が低下・減少する病気
- 間質性肺炎・肺線維症: 肺が硬くなって膨らみにくくなり、肺活量が減少する代表的な病気。空咳や動いたときの息切れが症状
- COPD(慢性閉塞性肺疾患): 主な原因は喫煙。息を吐き切れず残気量が増えるため、その分肺活量が小さくなる
- 喘息: 発作時は気道が狭くなり、特に1秒率が下がる。コントロールされていれば肺活量はほぼ正常なことも多い
- 漏斗胸・側弯症: 胸郭の形が変わり、程度によっては肺が広がるスペースが減る
- 神経・筋肉の病気: 呼吸筋が弱くなり、十分に吸えない・吐けない
- 肺の手術・がん: 肺がんなどで肺の一部を切除すると、その分肺活量は減る。治療による減少の程度は手術前に予測される
鼻づまりや口呼吸そのものは肺活量を直接下げるわけではありませんが、呼吸が浅くなったり、検査で鼻から息が漏れたりして低い値が出ることがあります。逆流性食道炎や睡眠時無呼吸症候群も直接肺活量を下げる病気ではないものの、咳が続く・肥満と関係するなどの形で呼吸に影響することがあります。レントゲンだけでは肺活量はわからず、必要に応じて呼吸機能検査と組み合わせて評価します。気になる症状があれば、自己判断で薬を使うのではなく、呼吸器内科で相談してください。
タバコ・電子タバコと肺活量
喫煙は、肺活量の低下や1秒量の低下を招く最大の生活習慣です。長く吸い続けるとCOPDにつながり、一度失われた肺の機能は元に戻りにくくなります。加熱式タバコ(プルーム・テックなど)や電子タバコも、「紙巻きより害が少ない」と言い切れる根拠は十分ではなく、肺の健康を考えるなら禁煙が確実です。
肥満・妊婦・加齢による変化
お腹まわりの脂肪が多いと横隔膜が下がりにくくなり、肺活量が落ちます。妊婦さんも、お腹が大きくなるにつれて横隔膜が押し上げられ、呼吸が浅く感じやすくなります(出産後は戻っていきます)。また、年齢とともに肺活量が下がるのは自然な老化で、「昔より肺活量が落ちた」と感じても、予測値に対する割合が保たれていれば心配はいりません。
肺活量が少ないとどうなる?症状と日常生活への影響
健康な範囲で肺活量が少なめなだけなら、日常生活に困ることはほとんどありません。一方、病気などで大きく低下すると、次のような症状が出ることがあります。
- 階段や坂道で息苦しい、疲れやすい
- 長く話すと息が続かない、声が小さいと言われる
- 吐く力が弱いため、咳やくしゃみで痰をうまく出せない
肺活量が弱い・低いとどうなるかは程度によりますが、こうした症状が急に出た、以前より明らかに悪くなったという場合は、早めに受診してください。不安やストレスなどメンタルの状態で呼吸が浅くなることもありますが、それで肺活量そのものが落ちるわけではありません。なお、肺活量と免疫力の関係を示す確かな根拠はなく、「肺活量を増やせば風邪をひかない」といった効果は期待しないほうがよいでしょう。高地で起こる高山病も、肺活量が大きければ防げるというものではありません。
肺活量が多い人・強い人の特徴|多いとどうなる?メリット・デメリット
「肺活量がすごいね」と褒められる人、肺活量が高い人にはどんな特徴があるのでしょうか。また、肺活量が多いと体力や持久力に有利なのでしょうか。ここでは、肺活量が多いことの意味を、よくある誤解とあわせて整理します。
肺活量が多い人の特徴
- 身長が高く、胸郭が大きい: 肺活量の多い人の特徴として最もはっきりしているのが体格。胸板が厚い人も胸郭が大きい傾向がある
- 若い: 20代前半がピークなので、同じ体格なら若い人ほど多い
- 水泳・ボート・長距離走・吹奏楽などの経験者: 深く大きな呼吸をくり返してきた人は、呼吸筋が発達し、胸郭の動きも大きい
- 姿勢が良い: 背筋が伸びていると胸郭が広がりやすい
肺活量が多い女性も、長身だったり、水泳や管楽器の経験があったりすることが多いようです。胸筋を鍛えて胸板を厚くすれば肺活量が大きく増える、というほど単純ではありませんが、胸まわりが柔らかく大きく動くことはプラスに働きます。
肺活量が多いとどうなる?メリット
肺活量が高いとどうなるかを一言でいえば「息の余裕が増える」です。肺活量を鍛えるメリットも同じで、肺活量が多いメリットは、1回の呼吸で出し入れできる空気の余裕が大きいことです。具体的には次のような場面で有利になります。
- 歌のロングトーンや長いフレーズで、息継ぎまでの余裕がある
- 管楽器で長いフレーズや大きな音を出しやすい
- 水泳で息継ぎの間隔を長く取りやすい、素潜りで息を長く止めやすい
- 話す仕事(アナウンサー、講師、俳優など)で息が続きやすい
このように、肺活量はスポーツや仕事に活かせる場面がありますが、その差は「息の余裕」の話であり、上手さや強さそのものを決めるわけではありません。
肺活量と体力・持久力・心拍数の関係
「肺活量が多い=体力がある・持久力がある」と思われがちですが、実は両者の関係はそれほど強くありません。持久力を決めるのは、酸素を体に取り込んで筋肉で使う能力(最大酸素摂取量、VO2max)で、これは心臓が送り出す血液の量や筋肉の働きに大きく左右されます。健康な人の肺は、運動中でも肺活量の一部しか使っておらず、肺活量が持久力の上限になることは通常ありません。
肺活量と持久力の関係を調べた研究論文でも、健康な人では肺活量より心臓や筋肉の能力のほうが持久力との結びつきが強いとされています。運動を続けると心拍数(脈拍)が安静時に下がり、同じ運動でも息が上がりにくくなりますが、これは主に心臓と筋肉の適応によるものです。つまり、有酸素運動で「息が楽になった」と感じる理由の多くは肺活量の増加ではなく、持久力の向上です。
肺活量が多いデメリットはある?肺気腫で増加するのは別の量
健康な人の肺活量が多いこと自体に、デメリットはありません。ただし、「肺の容量が増加する病気」として肺気腫(COPDの一種)が知られていることから、「肺活量が多いと病気?」と心配されることがあります。肺気腫で増加するのは全肺気量や残気量(吐き出せずに残る空気)であり、肺活量はむしろ減るのが特徴です。肺が過剰に膨らんだまま縮めなくなる状態で、肺活量の増大とは意味が違います。肺活量が予測値を大きく上回っていて、息切れなどの症状がなければ、体格や運動経験による「強み」と考えてよいでしょう。
肺活量の世界記録・日本一と、アスリート・歌手・有名人の肺活量
肺活量の「最高記録」や「世界一」は、どれくらいの数値なのでしょうか。ここでは、報道で確認できる記録と、アスリートや歌手の肺活量について、わかっていることとわかっていないことを分けて紹介します。
肺活量の世界記録・世界一は11リットル台
人間の肺活量の最大値としてよく紹介されるのが、イギリスのボート選手ピート・リード(Pete Reed)の記録です。オリンピックで3度金メダルを獲得した選手で、2009年にイギリス海軍の医学研究所で測定された肺の容量が11.68リットルだったと、イギリスボート協会などが紹介しています。平均的な成人男性の肺活量(4〜5リットル前後)の2倍以上で、人間の限界に近い例外的な数値です。
競泳のマイケル・フェルプスの肺活量が12リットルという話もネットで広まっていますが、公式な測定結果は確認できず、噂の域を出ません。また、肺活量はギネス世界記録の定番の種目ではなく、「ギネス認定の世界記録」として確認できる数値は見当たりません。日本一(日本1)の記録についても、公的に認められた記録は確認できませんでした。テレビやネットで「日本一」とされる数値は、測定条件(ゆっくり吐いたか、一気に吐いたか、機器の種類)がそろっていないことが多いので、参考程度に見ておきましょう。
アスリートの肺活量の平均は?
アスリートの肺活量は一般の人より大きい傾向がありますが、競技ごとの平均値をまとめた公的なランキングのようなものはありません。傾向としては、次のように言えます。
- 水泳・ボート選手: 大きい傾向が強い。長身の選手が多く、水中で呼吸を制限する競技特性もある
- マラソン選手・陸上の長距離選手: 持久力は非常に高いが、小柄な選手も多く、肺活量が突出して大きいとは限らない
- 管楽器奏者・歌手: 呼吸を使いこなす技術は高いが、肺活量は体格相応のことも多い
男性アスリート・女性アスリートとも、肺活量の大きさは競技力の一因にすぎません。前の章で説明したとおり、持久力を決めるのは主に心臓と筋肉の能力です。マラソン選手の強さの秘密は、肺活量よりも酸素を効率よく使う力にあると考えられています。
歌手・有名人・芸能人の肺活量
「あの歌手は肺活量がすごい」とプロの歌手やアイドル、芸能人の肺活量が話題になることがありますが、本人が医療機関で測った正確な数値が公表されることはまれです。バラエティ番組や動画の企画での測定は、使う機器や吐き方がまちまちなので、数値を横並びで比べるのは難しいのが実情です。
むしろ歌の世界で注目したいのは、長いフレーズを歌い切る歌手が「肺活量が多いから」ではなく「少ない息で効率よく声にしているから」歌えているという点です。歌と肺活量の関係は、後の章で詳しく解説します。
肺活量は鍛えられる?増やす方法・上げる方法の考え方
「肺活量を鍛える方法」「肺活量を増やす方法」は、肺活量について最も多く調べられているテーマです。具体的なトレーニングに入る前に、何が鍛えられて、何が変わらないのかを知っておくと、効果を正しく期待できます。
肺そのものは大きくならない、でも数値は上げられる
大人になってから、肺そのもの(肺胞の数や肺の大きさ)を増やすことはできません。肺活量の多くは身長や胸郭の大きさで決まるため、トレーニングで2倍、3倍に増えることもありません。それでも、肺活量の数値を上げることは可能です。肺活量は「どれだけ吸えて、どれだけ吐き切れるか」の幅なので、次の3つの要素を改善すれば、その幅が広がるからです。
- 呼吸筋を強くする: 横隔膜、肋骨の間の肋間筋、腹筋群など。吸う力が上がれば深く吸え、吐く力が上がれば残気の手前まで吐き切れる
- 胸郭を柔らかくする: 肋骨まわりの筋肉や関節が硬いと胸が広がらない。ストレッチで動く範囲を広げる
- 姿勢を整える: 猫背だと胸が縮こまり、お腹が圧迫されて横隔膜が下がりにくい。背筋を伸ばすだけで吸える量が変わる
肺活量を強くする方法・付け方のまとめ
「肺活量の付け方」「肺活量を強くする方法」「増やし方」と表現はさまざまですが、やることは同じです。肺活量で差がつくのは、肺の大きさより、呼吸筋・胸郭・姿勢の3つをどれだけ使いこなせるかです。この3つを順番に整えていくのが、遠回りに見えて一番確実な方法です。
どれくらい増える?期間の目安
トレーニングで肺活量がどれくらい増えるかは、元の状態によって大きく違います。運動習慣がなく呼吸筋が弱っていた人や、姿勢が悪かった人ほど向上の余地があります。一方、もともと運動をしている若い人では、測定値の変化はわずかなことが多いです。ただし数値の変化が小さくても、息を深く吸う・長く吐くコントロールは練習で確実に上達します。歌や管楽器で「息が続くようになった」と感じる効果の多くは、この使い方の上達によるものです。呼吸筋の筋力も他の筋肉と同じく、週に数回の練習を数週間〜数か月続けて変化が出てくるのが一般的です。
簡単にできる肺活量を増やす方法の基本
- 深い呼吸法を習慣にする: 腹式呼吸で、お腹と脇腹、背中まで膨らませるように大きく吸い、ゆっくり吐き切る
- 胸まわりのストレッチ: 肋骨まわりや胸の筋肉を伸ばし、胸郭が広がる範囲を増やす
- 呼吸筋に負荷をかける: 風船やトレーニング器具で、吸う・吐くに抵抗をかける
- 有酸素運動: 息が上がる運動で、深い呼吸を自然にくり返す
具体的なトレーニングメニューと器具は、次の2つの章で紹介します。
落ちた肺活量は戻る?戻らない?
運動不足や長い入院、姿勢の悪化などで落ちた肺活量は、呼吸筋の筋力や胸郭の柔らかさが原因であれば、トレーニングやリハビリで戻すことが期待できます。高齢者でも呼吸筋は鍛えられ、医療の現場では呼吸リハビリテーションとして行われています。一方、喫煙などで肺そのものが壊れてしまったCOPDの場合、失われた肺の組織は戻りません。それでも呼吸リハビリで息切れを改善し、日常生活を楽にすることはできます。肺活量が少ない状態を改善したい、戻し方を知りたいという場合で、持病がある人は、自己流で頑張る前に主治医に相談してください。
肺活量を鍛えるトレーニング|自宅でできる呼吸法・ストレッチと運動
ここでは、肺活量を増やすトレーニングを「自宅でできる呼吸トレーニング」「ストレッチと体幹」「運動(有酸素運動)」の3つに分けて紹介します。どれも特別な道具なしで簡単に始められるメニューです。
自宅でできる呼吸トレーニング
- 腹式呼吸(3分): 仰向けか椅子に座り、鼻から4秒かけて吸い、お腹と脇腹を膨らませる。口から8秒かけて細く吐く。腹式呼吸の詳しいやり方は腹式呼吸の記事を参照
- ロングブレス(5回): 大きく吸ったら「スー」と細く一定に吐き、何秒続くか計る。秒数を記録して、少しずつ伸ばすことを目標にする
- 吐き切りブレス(5回): 普通に吐いたあと、さらにお腹を締めて最後まで吐き切る。吐き切ったら力を抜くと自然に空気が入ってくる
- 3段階吸い(5回): 「吸って、もっと吸って、さらに吸う」と3回に分けて限界まで吸う。胸郭を広げる感覚をつかむ
ロングブレスの秒数は、ボイストレーニングでは「20秒続けば合格ライン、30秒以上なら十分」がよく使われる目安です。平均の秒数にこだわるより、昨日の自分より伸びたかを見るほうが続きます。息止めで肺活量を鍛えようとする人もいますが、息止めは酸素不足でめまいや失神を起こす危険があり、特に水中で一人で行うのは絶対にやめてください。息止めの秒数は肺活量よりも慣れや体の反応に左右されるため、肺活量の目安にもなりません。
胸郭を広げるストレッチと体幹トレーニング
- 胸を開くストレッチ: 両手を背中で組み、肩甲骨を寄せて胸を天井に向ける。大きく息を吸いながら20秒キープ
- 体側(脇腹)のストレッチ: 片腕を上げて反対側に体を倒し、伸ばした側の肋骨の間に空気を入れるように吸う
- 腹筋・プランク: 吐き切る力を支えるのはお腹の筋肉。プランクで呼吸を止めずに30秒キープするのは、体幹と呼吸を同時に鍛える良い練習
ストレッチで胸郭が柔らかくなると、同じ筋力でも吸える量が増えます。筋トレやダイエットの後に取り入れても効果的です。
有酸素運動で肺活量を鍛える|ランニング・水泳・縄跳び
息が上がる有酸素運動は、深く大きな呼吸を自然にくり返すので、呼吸筋のトレーニングになります。
| 運動 | 特徴 | 目安 |
|---|---|---|
| ランニング・ジョギング | 手軽で続けやすい。会話ができる程度のペースから | 20〜30分、週2〜3回 |
| ウォーキング | 高齢者や運動が苦手な人向け。坂道や早歩きで負荷を上げる | 30分、週3〜5回 |
| 水泳 | 水圧で胸に負荷がかかり、息継ぎのリズムで呼吸をコントロールする練習になる | 20〜30分、週1〜2回 |
| 縄跳び | 短時間でも息が上がる。自宅の近くでできる | 1分×5セット |
| エアロバイク・ロードバイク | 膝への負担が少ない。トレッドミルと同様に室内でもできる | 20〜40分 |
水泳で肺活量を鍛えるメニューとしては、クロールで「3回かきで1回息継ぎ」を「5回かきで1回」に伸ばしていく、プールで壁を蹴ってけのびでどこまで進めるか挑戦する、などがあります。バスケや陸上などの部活動をしている人は、普段の練習自体が呼吸のトレーニングになっています。
ランニングで肺活量が増えるかについては、前の章で説明したとおり、肺活量より持久力の向上が中心です。ランニングの距離や時間を伸ばすと「息が楽になる」のは主に心臓と筋肉の適応ですが、呼吸筋も一緒に鍛えられます。有酸素運動と肺活量の関係は「直接増やす」より「呼吸を支える体を作る」と考えるとよいでしょう。プロテインなどのサプリメントで肺活量が増えることはありません。
高齢者・喘息の人が鍛えるときの注意
高齢者の鍛え方は、座ったままできる腹式呼吸や、口をすぼめてゆっくり吐く口すぼめ呼吸から始めるのが安全です。喘息がある人は、発作が落ち着いているときに行い、運動前には主治医の指示どおりに薬を使ってください。冷たい空気や激しい運動が発作のきっかけになることがあるため、ウォーキングや水泳など比較的負担の少ない運動から始めましょう。
肺活量トレーニンググッズ・器具|風船・ペットボトル・ストロー・100均・パワーブリーズ
呼吸筋に負荷をかけるには、肺活量を鍛える器具やトレーニンググッズを使うと効率的です。身近な道具や100均で手に入るものから、専用のトレーニング器具まで、使い方とあわせて紹介します。器具なしでも前の章のトレーニングは十分できるので、続けやすいものを1つ選べば大丈夫です。
「吐く」を鍛えるグッズと「吸う」を鍛えるグッズ
グッズは、息を吐くときに抵抗がかかるものと、吸うときに抵抗がかかるものに分けられます。多くの身近な道具は「吐く」側で、「吸う」側を鍛えるには専用の器具が向いています。
風船を使った鍛え方
風船は、100均でも手に入る定番のグッズです。息を吹き込んで風船を膨らませるには、ゴムの抵抗に負けない吐く力が必要です。
- 背筋を伸ばし、鼻から大きく吸う
- 風船を口にくわえ、お腹を締めながら一息で吹き込む
- 口を離して空気を抜き、これを5〜10回くり返す
最初の一吹きが一番きついので、手で風船を軽く伸ばしてから始めると楽です。慣れてきたら「何回で膨らませられるか」を記録すると上達がわかります。浮き輪を膨らませるのも同じ練習になりますが、大きいものは回数を区切って休みながら行いましょう。頭がくらくらしたら中止してください。
ペットボトル・ストロー・牛乳パックでできるトレーニング
- ペットボトル(吸う練習): 空のペットボトルをくわえ、息を吸って本体をへこませる。500mlの柔らかいものから始め、へこまない硬めのボトルや2Lペットボトルで負荷を上げる。炭酸用の硬いボトルは負荷が強いので注意
- ストロー(吐く練習): 細いストローをくわえて、細く長く息を吐く。ストローが細いほど抵抗が大きい。水を入れたペットボトルにストローを差してブクブク吐く方法は、泡の様子で息の強さが目で見える
- 牛乳パック: 牛乳パックの底を切って筒にし、紙片やティッシュを吹き飛ばす手作りのおもちゃにできる。子供と一緒に楽しめる
ピロピロ笛・ろうそく・ピンポン玉|ゲーム感覚の練習
ピロピロ笛(吹き戻し)を伸ばしたまま長く保つ、ろうそくの火を消さずに揺らし続ける、机の上のピンポン玉やボールをストローで吹いてゴールまで運ぶ、といったゲーム感覚の練習は、子供から高齢者まで楽しめます。介護施設のレクリエーションとして、ビニール袋を膨らませて風船バレーをするなど、呼吸を使う遊びがよく取り入れられています。
パワーブリーズなどの専用トレーニング器具
パワーブリーズ(POWERbreathe)は、息を吸うときに弁で抵抗をかける吸気筋トレーニング器具で、スポーツ選手や呼吸リハビリで使われています。負荷の強さを調整でき、メーカーは1回30呼吸を1日2回行う使い方を基本の目安として案内しています。使い方や負荷設定の詳細は、製品ごとに公式の説明書で確認してください。
病院のリハビリでは、吸い込んだ空気の量や速さに応じてボールが上がる器具(インセンティブ・スパイロメトリー)を、手術前後の呼吸訓練に使うことがあります。こうした訓練器具やリハビリ器具は、看護師や理学療法士の指導のもとで使うのが基本です。
おすすめの選び方とトレーニングマスクの注意
| 目的 | おすすめ |
|---|---|
| まずは器具なしで始めたい | 腹式呼吸・ロングブレス(前の章) |
| お金をかけずに負荷を足したい | 風船・ストロー・ペットボトル |
| 吸う力をしっかり鍛えたい | パワーブリーズなどの吸気筋トレーニング器具 |
| 子供・高齢者と楽しく | ピロピロ笛・ピンポン玉のゲーム |
ランキングや口コミで人気の器具も、続けなければ効果は出ません。口に当てて呼吸に抵抗をかけるトレーニングマスクは、「高地トレーニングと同じ効果」とうたわれることがありますが、空気中の酸素の濃さは変わらないので高地と同じにはなりません。呼吸筋に負荷がかかるメリットはあるものの、苦しくなったらすぐ外す、運動中の無理な使用は避けるなど、安全を優先してください。
肺活量を自宅で測る方法|ペットボトルの測り方・アプリ・簡易測定器
病院に行かなくても、肺活量はおおまかに調べることができます。ここでは、自宅でできる簡単な測り方と、測定器・アプリ、無料で測れる場所の探し方を紹介します。どれも医療機関の検査ほど正確ではないので、セルフチェックとして「前回より増えたか」を比べる使い方がおすすめです。
ペットボトルと水を使った測り方(水置換法)
自宅でできる肺活量の調べ方として最も手軽なのがこの方法です。理科の実験でおなじみの水上置換の原理で、吐いた息の量を水の量に置き換えて測ります。
- 2Lペットボトルを2〜3本用意し、500mlごとに油性ペンで目盛りを付けておく(水を500mlずつ入れて印を付けると正確)
- ボトルに水を満タンに入れ、キャップを閉めて、水を張った洗面器や浴槽の中で逆さにしてからキャップを外す
- 曲がるストローやホースの先をボトルの口に差し込む
- 限界まで息を吸い、ホースから一気に最後まで吐き切る。1本目がいっぱいになったら、すぐに2本目に差し替える
- ボトルの中にたまった空気の量(押し出された水の量)を目盛りで読み、合計する
1人でやるとボトルを支えながら吐くのが難しいので、2人でやるとスムーズです。ホースの太さや吹き込むときの圧力で誤差が出るため、3回測って最大値を記録しましょう。風船に吹き込んで膨らんだ風船の大きさから体積を計算する方法もありますが、ゴムの抵抗で吐き切りにくく、ペットボトルの方法より誤差が大きくなります。
簡易測定器・肺活量計(メーター)を使う
市販の簡易肺活量計(測定機器)には、吹き込むとメーターの針や目盛りが動くアナログのものと、数値を液晶に表示する電子式のもの(小型のポケッタブルな計測器など)があります。家庭用の簡易測定は医療用のスパイロメーターほど精度は高くありませんが、同じ機械で継続して計測すれば、トレーニングの成果を確かめるには十分です。ネットでは「肺活量を測るやつ」「測る機械」として探されることも多く、通販で数千円程度から手に入ります。医療機器のレンタル業者で測定器を扱っている場合もありますが、個人でのレンタルは限られるので、購入するか次の方法を検討しましょう。
アプリ・サイトで測定できる?
スマートフォンのマイクに息を吹きかけて肺活量を測定するとうたうアプリやサイトもありますが、マイクで拾えるのは音の大きさや長さで、吐いた空気の量(ml)を正確に測ることはできません。ゲームやロングブレスの秒数記録として楽しむ分にはよいですが、数値を健康の判断に使うのは避けてください。
肺活量を無料で測れる場所・どこで測る?
正確に肺活量を調べる方法は、医療機関の呼吸機能検査です。職場や自治体の健康診断、人間ドックのコースに含まれていることが多いので、まずは受診先に確認しましょう。自治体や薬局の健康イベントで、肺年齢の測定を無料で行っていることもあります。息切れなどの症状があれば、呼吸器内科で保険診療として検査を受けられます。測れる場所を探すときは「呼吸機能検査」「スパイロメトリー」で調べると見つけやすくなります。
歌と肺活量の関係|歌がうまい人は肺活量が多い?
「歌で息が続かないのは肺活量が足りないから」「歌がうまい人は肺活量がある」とよく言われます。たしかに歌と肺活量には関係がありますが、実はそれほど単純ではありません。ボイトレの現場では、息が続かない原因の多くは肺活量の不足ではなく、息の使い方にあると考えられています。
歌で使う息は肺活量のほんの一部
普通に話すときや歌うときに使う息は、肺活量のすべてではありません。歌では肺活量の上のほう(深く吸った状態)から中ほどまでを使うことが多く、残気量の手前まで吐き切ることはまれです。肺活量が3000mlの人と4500mlの人を比べても、歌のフレーズで実際に使う量の差は思ったより小さいのです。
それよりも大きな差が出るのは、吐いた息をどれだけ効率よく声に変えているかです。声帯がしっかり閉じて、少ない息で声帯を振動させられる人は、同じ量の息でもずっと長く歌えます。逆に、声帯の閉じ方が弱く息漏れが多い声(息っぽい声)では、肺活量が多くてもすぐに息がなくなります。
肺活量と歌唱力・声量の関係
- 声量: 大きな声は息の量を増やすことより、声帯の閉じ方と共鳴で作られる。息を強く押し出しすぎると、かえって喉を締めて声がつぶれる
- ロングトーン: 息を一定に少しずつ出し続けるコントロールが重要。肺活量が多いほど余裕はあるが、コントロールが下手だと最初に息を使いすぎる
- 歌唱力全般: 音程・リズム・表現力は肺活量とはほぼ無関係。肺活量が平均以下でも歌がうまい人はたくさんいる
「歌うまい人は肺活量がすごい」というイメージは、息の使い方がうまいから長く歌えている姿を見て生まれたものだと考えられます。つまり、肺活量は歌にとって「あれば余裕が生まれる土台」ではあっても、歌がうまいかどうかを決める要素ではありません。プロのボーカルが長いフレーズを歌い切れるのは、肺活量の大きさ以上に、息の支えと声帯のコントロールを練習で身につけているからです。
歌で息が続かない本当の原因
- 吸う量が足りない: 肩で浅く吸っていて、肺活量の一部しか使えていない
- 息漏れが多い: 声帯の閉じ方が弱く、声にならない息が漏れている(声帯閉鎖の問題)
- 最初に吐きすぎる: フレーズの頭で勢いよく息を使い、後半で足りなくなる
- ブレスの位置が決まっていない: 吸える場所で吸わず、限界まで我慢してしまう(歌のブレスの問題)
これらはいずれも、肺活量を増やすより先に直せるものです。ボイトレで呼吸の練習や発声練習から始めるのは、肺活量の数値を上げるためではなく、今ある肺活量を無駄なく使う出し方を身につけ、息を味方につけるためです。息を長く保つ練習の詳細はロングトーンの記事も参考にしてください。カラオケで息が続かないと感じている人は、次の章のトレーニングを試してみてください。
歌のための肺活量トレーニング|息が続く歌い方の練習メニュー
歌のために肺活量を鍛えるなら、一般的な肺活量トレーニングに加えて、「吸った息を声に変える」練習をセットで行うのが近道です。ここでは、歌の鍛え方として効果的な練習を順番に紹介します。
歌のためのブレストレーニング4ステップ
- 深く速く吸う練習: 歌では一瞬で吸う必要がある。「スッ」と1秒で、お腹と脇腹・背中まで膨らませる。肩が上がったら浅い呼吸のサイン
- 細く一定に吐く練習: 「スー」と歯のすき間から息を出し、20〜30秒同じ強さで吐き続ける。息の量ではなく「一定さ」を意識する
- 息を声にする練習: 同じ音程で「アー」とロングトーン。最初の1秒で息を使いすぎず、最後まで同じ声量を保つ。リップロールやハミングで行うと少ない息で声を出す感覚がつかみやすい
- 曲の中で使う練習: 歌う曲の歌詞にブレスの位置(V字などの印)を書き込み、「吸える場所で必ず吸う」を徹底する
この4つは、肺活量そのものを大きく増やすというより、今ある息を最大限に使えるようにする訓練です。呼吸筋のトレーニング(前の章の器具を使った練習など)と組み合わせると、息の余裕と使い方の両方が伸びていきます。
カラオケで息が続かない人の練習のコツ
- 1曲を通して歌う前に、苦しいフレーズだけを取り出して練習する
- 息が続かない箇所は、1つ前のブレスで深く吸えているかを確認する
- サビ前などで「吸う時間が短い」ところは、前の音を少し短く切って吸う時間を作る
- キーが高すぎると喉に力が入り、息を浪費する。原曲キーにこだわらずキーを下げてみる
ボカロの「長音厨肺活量テスト」は肺活量の練習になる?
肺活量を使う歌として有名なのが、木村わいPが初音ミクの声で作ったボカロ曲「長音厨肺活量テスト」です。歌詞の中で長く伸ばす音が次々と出てきて、どこまで伸ばし続けられるかを試す、テスト形式の曲として人気を集めました。歌ってみた動画などで挑戦している人も多く、「最後まで合格できるか」「何秒伸ばせるか」がよく話題になります。
この曲への挑戦は、ロングトーンの練習として楽しく取り組める一方、息を止めるように喉を締めて伸ばすと、声帯に負担がかかります。やり方のポイントは、音を伸ばすときに喉を締めず、細く一定の息で声を支えることです。苦しくなったら無理をせず、途中で休みながら挑戦しましょう。こうした曲は肺活量のテストというより、息のコントロールのテストだと考えると、練習としての効果も上がります。
毎日の練習とボイトレの活用
歌のための呼吸の練習は、1回10〜15分でも毎日続けるほうが、週末にまとめて長時間やるより効果的です。自分では息漏れや吸い方のクセに気づきにくいので、上達が止まったと感じたら、ボイストレーニングの教室で呼吸と発声を見てもらうのもおすすめです。息の支えや声帯閉鎖は、先生に客観的に指摘してもらうと短期間で改善しやすいポイントです。
吹奏楽・楽器と肺活量|肺活量を使う楽器と部活での鍛え方
吹奏楽部に入ると「肺活量を鍛えなさい」と言われることがよくあります。管楽器は息がそのまま音になるので、歌と同じく肺活量との関係がよく話題になります。ここでは、肺活量を使う楽器の特徴と、吹奏楽部でできる鍛え方を紹介します。
肺活量を使う楽器は?息の「量」と「圧力」で考える
「肺活量が必要な楽器ランキング」のような話題がありますが、楽器によって必要なのは息の量だけではなく、息の圧力(強さ)でもあります。大まかに分けると次のようになります。
- 息の量を多く使う楽器: チューバ、ユーフォニアム、バリトンサックス(バリサク)、バスクラリネット(バスクラ)などの低音楽器。管が太く長いため、たくさんの息を流す。フルートは歌口の外にも息が逃げるので、見た目以上に息の量を使う
- 息の圧力を多く使う楽器: オーボエ、トランペットの高音など。リードやマウスピースの抵抗が大きく、少ない量を強い圧力で送る。息が余って苦しくなる「吐き切れない」悩みが多い
- 両方を使う: トロンボーンやホルンの大音量の場面など
どの楽器も、奏法や音域、演奏する曲によって必要な息は変わります。肺活量が多い人が有利な場面はありますが、吹奏の技巧、つまり息のスピードと量のコントロールのほうが音色への影響は大きいといえます。
吹奏楽部での肺活量の鍛え方・トレーニング
- ブレスの基礎練習: メトロノームに合わせて「4拍で吸って8拍で吐く」「2拍で吸って16拍で吐く」など、吸う長さと吐く長さを変える
- ロングトーン: 楽器で同じ音を一定の音量で伸ばす。音の始まりから終わりまで音程と音色がぶれないように吹く
- ブレス・ビルディング系の器具・風船: 前の章の風船やストロー、専用のトレーニング器具で呼吸筋に負荷をかける
- 体力づくり: 部活のランニングや体幹トレーニングは、姿勢を保って息を支える体を作る
吹奏楽部で肺活量を増やす方法として、こうした基礎練習を毎日短時間続けるのが効果的です。練習の最初に呼吸だけのウォーミングアップを入れ、楽器を使う練習に移ると、息の使い方が安定しやすくなります。
楽器と歌の息の使い方の違い
管楽器は唇やリードの抵抗に向かって息を送るのに対し、歌は声帯が息の抵抗になります。どちらも「吸った息をどれだけ効率よく音にするか」が大事という点は共通しています。吹奏楽で鍛えた呼吸のコントロールは歌にも活かせますし、逆に歌の腹式呼吸やロングトーンの練習は楽器にも役立ちます。
よくある質問
- 肺活量って何?何リットルあれば標準値?
- 肺活量とは、限界まで吸った息を吐き切ったときの空気の量です。標準値は身長・年齢・性別で変わり、平均的な体格なら成人男性で4〜4.8リットル前後、女性で3〜3.4リットル前後が目安です。たとえば170cm・30代の男性なら約4600ml、4700mlあれば標準的です。自分の標準値は予測式で計算し、%肺活量で評価するのが正確です。
- %肺活量が79%や77%でした。悪いということですか?
- 80%未満は拘束性換気障害の疑いとされますが、79%や77%のように境目に近い値は、検査がうまくいかなかっただけのこともよくあります。息切れなどの症状がなければ、まずは再検査でコツを意識して測り直しましょう。98%なら正常範囲です。70%を下回る、前年より大きく下がった、症状がある場合は呼吸器内科を受診してください。
- 痩せると肺活量は増えますか?
- 肥満でお腹まわりの脂肪が横隔膜の動きを妨げていた人は、痩せることで横隔膜が下がりやすくなり、肺活量が増えることがあります。肺活量が増えるとどうなるかといえば、呼吸に余裕が出て、階段などで息苦しさを感じにくくなる可能性があります。ただし標準体重の人がさらに痩せても肺活量は増えません。
- 肺活量が全然ない気がします。弱いとどうなりますか?
- 「すぐ息が切れる」「肺活量が全然ない」と感じる原因の多くは、運動不足による持久力の低下や浅い呼吸のクセで、肺活量そのものは正常なことがほとんどです。肺活量が弱いとどうなるかは程度次第で、病気で大きく低下すると息苦しさや疲れやすさが出ます。気になる場合は、健康診断の結果を確認するか、医療機関で検査を受けましょう。
- 肺活量の検査で何がわかりますか?
- 肺活量の検査で何が分かるかというと、肺が十分に膨らむか(%肺活量)と、息を勢いよく吐けるか(1秒率)の2点です。この組み合わせで、拘束性・閉塞性などの換気障害の有無を大まかに判断します。喘息やCOPD、間質性肺炎などの早期発見や、手術前の評価に使われます。
まとめ
肺活量とは、限界まで吸った息を吐き切ったときの空気の量で、身長・年齢・性別によって大きく変わります。最後に、この記事の要点を振り返ります。
- 平均・基準値: 平均的な体格なら成人男性で4000ml前後、女性で3000ml前後。20代前半がピークで、年齢とともにゆるやかに下がる
- 評価の仕方: 数値そのものではなく、予測肺活量に対する%肺活量で見る。80%以上なら正常、1秒率は70%以上が基準
- 検査のコツ: マウスピースをしっかりくわえ、限界まで吸って最後まで吐き切る。低い値が出たら再検査で確かめる
- 少ない原因: 体格、姿勢、肥満、喫煙、COPDや間質性肺炎などの病気。症状があれば呼吸器内科へ
- 鍛え方: 肺そのものは大きくならないが、呼吸筋・胸郭の柔らかさ・姿勢を整えると数値は上げられる。呼吸法、ストレッチ、有酸素運動、風船やパワーブリーズなどの器具を組み合わせる
- 歌との関係: 息が続くかどうかは肺活量より「息を声に変える効率」で決まる。声帯閉鎖・息の支え・ブレス位置の練習が近道
歌で息が続かない悩みは、肺活量を増やすトレーニングだけでなく、呼吸と発声のフォームを見直すことで大きく改善します。自分の吸い方や息漏れのクセは一人では気づきにくいので、プロに見てもらうのが効率的です。体験レッスンを受けられるボイストレーニング教室は、ボイトレ教室検索で都道府県や駅から探せます。呼吸の基礎をもっと知りたい人は、歌のブレスや横隔膜の記事もあわせて読んでみてください。

