レイドバックとは|意味・英語・音楽用語としての意味

レイドバックとは、英語の laid-back(レイドバック)をカタカナにした言葉で、「くつろいだ」「のんびりした」「肩の力が抜けた」という意味です。日本語では大きく分けて2つの場面で使われます。ひとつは人の性格や雰囲気、服装などを表す日常語としての意味、もうひとつは音楽用語としての意味です。音楽の世界でレイドバックと言うときは、ビート(拍)のジャストより、ほんの少し後ろにタイミングを置いて、ゆったりしたノリを作ることを指します。

英語 laid-back の意味と綴り

英語の綴りは laid-back(ハイフンあり)が基本で、laidback と1語で書かれることもあります。lay back(後ろにもたれる、寝そべる)という句動詞の過去分詞 laid に back が付いた形で、「背もたれに体を預けたような」というイメージから「くつろいだ」「気楽な」という形容詞になりました。英語圏では、a laid-back person(おおらかな人)、a laid-back atmosphere(ゆったりした雰囲気)のように、人にも場所にも使う日常的な単語です。音楽について使う場合も、英語では laid-back groove(ゆったりしたグルーヴ)、play laid-back(後ろ気味に弾く)のように同じ単語を当てます。日本語の意味として「いみ」を一言で言えば「くつろいだ感じ」です。

スラングというほど崩れた言葉ではなく、辞書に載っている一般的な形容詞です。ただし会話では「あの人はほんとにレイドバックしてるよね」のように、日本語でもややくだけた言い回しで使われます。

音楽用語としてのレイドバックとは

音楽用語としてのレイドバックは、楽譜に書かれる記号ではなく、演奏や歌の「タイミングの置き方」についての言葉です。メトロノームやドラムのクリックがぴったり鳴る位置を「ジャスト」とすると、レイドバックはそこからわずかに遅れた位置に音を置きます。遅れるといっても、リズムが崩れるほどではありません。テンポ(曲の速さ)は変わらず、拍の位置も保ったまま、一音一音の発音のタイミングだけを後ろに寄せるのがポイントです。その結果、聴き手には「余裕がある」「重心が低い」「気だるくて心地いい」といった印象が生まれます。

1970年代のロックやソウルの評論で、ゆったりしたサウンドやリズムを指して盛んに使われた言葉で、日本でも音楽雑誌を中心に「レイドバックしたサウンド」という言い方が広まりました。現在はポップス、R&B、ヒップホップ、ジャズなど、ジャンルを問わず使われます。

英語 laid-back から生まれた2つの意味 laid-back くつろいだ・気楽な 日常語 おおらかな性格 ゆったりした服・空間 音楽用語 拍の少し後ろで 音を鳴らすノリ
レイドバックは「くつろいだ」という英語から、日常語と音楽用語の2つの意味で使われる

レイドバックの対義語・反対語

日常語としてのレイドバックの対義語(反対語)は、英語なら uptight(ピリピリした、堅苦しい)や tense(緊張した)、high-strung(神経質な)などです。日本語なら「せかせかした」「余裕のない」が近いでしょう。音楽用語としての反対は、拍の少し前に音を置く「前ノリ」「突っ込み気味」(英語では on top of the beat、ahead of the beat、pushing)です。前ノリは疾走感や勢いを生み、レイドバックは落ち着きや余裕を生みます。どちらが正しいということはなく、曲の雰囲気に合わせて使い分けるものです。

ビートの後ろで鳴らす|レイドバックとリズム・グルーヴの関係

レイドバックを理解するいちばんの近道は、ビート(拍)に対して音をどこに置くかを図で見ることです。同じテンポ、同じリズムの譜面でも、音を拍のジャストに置くか、少し前に置くか、少し後ろに置くかで、曲のノリはまったく変わります。レイドバックはこの「後ろに置く」選択のことです。

前ノリ・ジャスト・レイドバックの違い

拍に対するタイミングの置き方は、大きく3つに分けて考えられます。

  • 前ノリ(ahead of the beat):拍よりわずかに早く音を出す。せき立てるような勢い、疾走感、緊張感が出る。パンクや速いロックで好まれる。
  • ジャスト(on the beat):拍ぴったりに音を出す。きっちりした、機械的で整った印象。打ち込みのダンスミュージックの基準。
  • レイドバック(behind the beat):拍よりわずかに遅く音を出す。ゆったり、重心が低い、色気がある、気だるいといった印象。ソウル、R&B、ヒップホップ、ブルース、レゲエなどで好まれる。

ずらす量は、テンポや楽器、曲の場面によって変わるため決まった数値はありませんが、「ずれている」と意識的に聞き取れるかどうかの、ごくわずかな差です。譜面の音符1つぶん(8分音符や16分音符)も遅らせてしまうと、それはレイドバックではなく、単にリズムに乗り遅れた状態か、別のリズムになってしまいます。拍の位置は全員で共有したまま、その中で音の「置き場所」をほんの少し後ろに寄せる、と考えるとよいでしょう。

拍に対して音を置く位置の3つの違い 拍 拍 前ノリ ジャスト レイド バック 勢い 整然 余裕
拍の位置は同じまま、音の出だしを少し前に置くと前ノリ、少し後ろに置くとレイドバックになる

ビート・バックビートとレイドバック

ポップスやロックの多くは、4拍子の2拍目と4拍目にスネアドラムのアクセントが来る「バックビート」でできています。レイドバックが特に効くのは、このバックビートのスネアです。ドラマーがスネアをほんのわずか遅らせて叩くと、バンド全体のビートが後ろに引っ張られ、ゆったりとした重いノリになります。逆にスネアが前に突っ込むと、同じテンポでも急いでいるように聞こえます。歌やギターがレイドバックするときも、このバックビートを基準に「スネアの少し後ろに言葉を置く」と考えるとわかりやすくなります。

グルーヴ・スウィングとの違い

グルーヴは、音楽を聴いて体が自然に動くような心地よいノリ全体を指す言葉です。レイドバックはそのグルーヴを生み出す要素のひとつで、「タイミングを後ろに置く」という具体的な手段の名前です。つまりレイドバックは、グルーヴを作るための方法のひとつと言えます。

スウィングは、8分音符を均等に割らず、表を長く・裏を短く「タッ・カ・タッ・カ」と跳ねさせるリズムの割り方です。スウィングが「1拍の中の長さの配分」を変えるのに対して、レイドバックは「音の出だしのタイミング全体」を後ろに寄せます。両者は別物ですが、ジャズでは跳ねたスウィングのリズムを、さらにレイドバック気味に演奏することがよくあります。リズムの基礎となる拍や拍子の考え方はリズムとはで解説しています。

レイドバックの歌い方|ボーカルで後ろに置くコツ

歌でのレイドバックは、伴奏のビートを感じたまま、言葉や音の出だしを拍のほんの少し後ろに置いて歌うことです。R&Bやソウルの歌手、ブルースの歌手、ヒップホップのラッパーなどがよく使い、「余裕がある」「色っぽい」「力が抜けていてうまい」と聞こえる大きな理由になっています。ここではボーカルでレイドバックを作る具体的なやり方を、4つのポイントに分けて説明します。

ポイント1:拍の位置を体で取り続ける

いちばん大切なのは、遅らせて歌っている間も、拍の位置そのものは体の中で正確に刻み続けることです。足でリズムを踏む、首や肩で小さく拍を取るなど、体のどこかで「ジャストの拍」を感じながら、声だけを少し後ろに置きます。拍を見失ってしまうと、レイドバックではなく単に「遅れている」「走っている」歌になります。上手な歌手のレイドバックが心地よいのは、本人が拍を誰よりも正確に感じているからです。

ポイント2:遅らせるのはフレーズの入りと語頭

すべての音を均等に遅らせるのではなく、まずはフレーズの歌い出しと、拍に乗る言葉の頭を少し後ろに置くところから始めます。たとえば歌い出しがジャストで「たっ」と入る箇所を、ほんの一瞬待ってから入るイメージです。子音を拍の上に置き、母音を少し遅らせて伸ばすと、言葉の輪郭は保ったまま後ろ気味のノリが作れます。早口の箇所や細かい16分音符が続く箇所は、全部を遅らせるとリズムが崩れやすいので、まずは長い音符の入りだけを意識しましょう。

ポイント3:フレーズの終わりで帳尻を合わせる

入りを遅らせたら、フレーズの終わりや、次のフレーズの頭までには拍に戻るのが基本です。遅れたまま次へ次へと進むと、ずれがどんどん積み重なって、伴奏から置いていかれてしまいます。語尾を少し短く切る、ブレス(息継ぎ)の位置で拍に合わせ直すなどして、ずれをリセットします。この「後ろに置いて、戻る」の繰り返しが、聴き手には大きな波のようなゆったりしたノリとして聞こえます。

フレーズの入りで遅らせ終わりで拍に戻る 拍との距離(上ほど後ろ) 入りを遅らせる 終わりで拍に戻る 灰色の線=ジャストの拍
レイドバックの歌は、フレーズの入りで後ろに寄り、終わりや息継ぎで拍に戻るのを繰り返す

ポイント4:力を抜いて、声量を上げすぎない

レイドバックは「くつろいだ」という意味のとおり、喉や肩に力が入っていると作れません。力んで張り上げると、声は自然と前に突っ込みがちになります。息の量を少し控えめにし、話すような声の延長で歌うと、後ろに置く余裕が生まれます。ささやき気味の声やミドルボイスの軽い声は、レイドバックと相性がよい音色です。また、フレーズの伸ばし方や区切り方を工夫するフレージングの考え方と組み合わせると、歌全体の表情がさらに豊かになります。

注意したいのは、レイドバックは「遅く歌うこと」でも「だらしなく歌うこと」でもない点です。テンポは伴奏に合わせたまま、音程や発音ははっきりさせ、タイミングだけを意図して後ろに置きます。歌手の中には、サビだけはジャストに戻して勢いを出し、Aメロでレイドバックして落ち着かせる、といった使い分けをする人も多くいます。

レイドバックの練習方法|ジャストから後ろへ4ステップ

レイドバックは感覚的な技術に見えますが、手順を分けて練習すれば誰でも身につけられます。いきなり「後ろで歌おう」とすると、ほとんどの場合ただ遅れるだけになってしまいます。まずジャストで正確に歌えることが出発点です。ここでは歌にも楽器にも使える4つのステップを紹介します。

ステップ1:メトロノームでジャストを固める

テンポ70〜90程度のゆっくりしたメトロノームを鳴らし、手拍子や「タン、タン」という発声がクリック音と完全に重なって、クリックが聞こえなくなる状態を目指します。音が重なるとクリックが自分の音に隠れて聞こえにくくなるので、それが「ジャストで合っている」目安です。次に、好きな曲のワンフレーズを、クリックに合わせて同じようにジャストで歌います。ここが不安定なうちは、次のステップに進まないほうが上達は早くなります。

ステップ2:クリックを2拍目・4拍目だけにする

メトロノームのクリックを、1拍目と3拍目ではなく2拍目と4拍目に鳴っていると見立てて歌います(テンポを半分にして、クリックを裏で感じる方法もあります)。ポップスやロックのスネアが鳴るバックビートの位置を、体で感じる練習です。拍の「重心」がバックビートにあると感じられるようになると、レイドバックの基準点がはっきりします。

ステップ3:わざとずらして、ずれを聞き分ける

クリックに対して、わざと少しだけ後ろで手を叩く・声を出す練習をします。クリックの直後に自分の音が「タッ、タ」と2つに分かれて聞こえれば、後ろにずれています。ずらしすぎると別の音符に聞こえるので、2つの音がぎりぎり分かれて聞こえる程度を探しましょう。同じように、わざと前にずらす練習もしておくと、前ノリとレイドバックの違いを体で理解できます。スマートフォンで録音して聴き返すと、自分の感覚と実際のずれの差がよくわかります。

ステップ4:曲に合わせて歌い、録音で確認する

最後に、レイドバックが聴ける曲(後の章で紹介します)の音源に合わせて歌います。原曲の歌手が言葉をどこに置いているかをよく聴き、まねすることが最良の練習です。カラオケで練習するときは、伴奏のスネアの位置をよく聴き、その少し後ろに歌い出しを置いてみましょう。録音して聴き返し、「落ち着いて聞こえるか」「伴奏から置いていかれていないか」をチェックします。

レイドバックを身につける練習の4ステップ 1 2 3 4 ジャスト を固める 2・4拍目 を感じる ずらして 聞き分け 曲で歌い 録音確認 左から順に。ジャストが不安定なら1に戻る
ジャストを固めてからバックビートを感じ、ずれを聞き分けたうえで曲に応用する

練習でよくある失敗

  • だんだん遅れていく:フレーズの終わりで拍に戻れていません。息継ぎの位置で拍に合わせ直す意識を持ちましょう。
  • テンポ自体が落ちる:伴奏なしで練習すると起きやすい失敗です。必ずメトロノームか伴奏を鳴らして練習します。
  • 音程が下がる:力を抜こうとして息の支えまで抜けると、音程がぶら下がります。お腹の支えは保ったまま、喉と肩の力だけを抜きます。

リズム感そのものに自信がない場合は、レイドバックの前にリズムを正確に取る練習を重ねるのが近道です。独学で伸び悩んだら、ボイストレーニングの先生にリズムの取り方を見てもらうと、自分では気づかない癖を早く直せます。

ジャンル別のレイドバック|ヒップホップ・ラップ・ジャズ・レゲエ・ロック・ダンス

レイドバックはどのジャンルでも使える表現ですが、好まれ方や使われ方にはジャンルごとの傾向があります。ここでは代表的なジャンルで、レイドバックがどういう意味を持ち、どう聞こえるのかを整理します。あくまで傾向であり、同じジャンルでも曲やアーティストによってノリはさまざまです。

ヒップホップ・ラップのレイドバック

ヒップホップでレイドバックと言うと、ビートに対して言葉を後ろ気味に置き、力を抜いて淡々と乗せるラップを指すことが多いです。ラッパーの間では「レイドバックしたフロウ(ラップの乗せ方)」のように使われます。ラップでのレイドバックの意味は、勢いよく言葉を詰め込んで攻めるスタイルと対比される、余裕のある語り口のことだと考えるとわかりやすいでしょう。1990年代のウェストコーストのヒップホップや、ゆったりしたテンポのチルなビートでよく聴かれます。

トラック(伴奏)の側でも、プロデューサーのJ・ディラ(J Dilla)がドラムのタイミングをあえてクオンタイズ(グリッドへの自動補正)から外し、よれたような後ろ気味のビートを作ったことが、のちのヒップホップやネオソウルに大きな影響を与えました。ラップとは何かという基本と合わせて理解すると、ラッパーごとのフロウの違いが聞き分けやすくなります。

ジャズのレイドバック

ジャズでのレイドバックの意味は、リズム隊が刻むビートに対して、ソロ楽器や歌が少し遅れて歌うように演奏することです。英語では playing behind the beat と言い、テナーサックス奏者のデクスターゴードン(Dexter Gordon)は、ビートの後ろでゆったりとフレーズを歌わせるスタイルで知られています。ジャズでは、ドラムのシンバルがビートを前へ前へと推し進め、ソロが後ろでくつろぐという「引っ張り合い」が、独特のスウィング感を生みます。

レゲエ・ブルース・ロックのレイドバック

レゲエは、ゆったりしたテンポと裏拍を強調するギターのカッティングが特徴で、全体的にレイドバックしたノリを持つジャンルの代表です。ブルースやサザンロックでも、重心の低い後ろ気味のノリが好まれます。一方、ロックの中でもパンクやハードロックの速い曲は前ノリで勢いを出すことが多く、レイドバックとは逆の方向です。ただし、1970年代には肩の力が抜けたリラックスしたロックのサウンドそのものが「レイドバック」と呼ばれ、ひとつの流行になりました(代表的な作品は後の章で紹介します)。

ダンスのレイドバック

ダンスでのレイドバックの意味も音楽と同じで、音のジャストより少し遅れて体を動かし、ゆったりした余裕のある踊り方をすることです。ストリートダンスでは、ビートに対して少し後ろでアップやダウンのリズムを取ると、大人っぽく見えると言われます。逆にビートに先回りするように動くと、キレのある元気な印象になります。歌と同じく、拍を正確に感じたうえで「待つ」ことがポイントです。

ジャンルごとのノリの重心の目安 ← 前ノリ レイドバック → ジャスト パンク・速いロック 打ち込みのダンス R&B・ヒップホップ レゲエ・ブルース 曲やアーティストで変わる。あくまで傾向
速いロックは前ノリ、打ち込みはジャスト、R&B・ヒップホップ・レゲエ・ブルースはレイドバック寄りの傾向がある

R&Bやソウルの歌手は、ゆったりしたビートの上で言葉を後ろに置き、語尾にフェイクやビブラートを添えて色気を出します。同じ曲を、前ノリで歌うとアイドルポップのような元気な印象に、レイドバックで歌うと大人っぽいR&Bの印象に変わるので、自分の歌いたいジャンルに合わせてノリを選ぶ意識を持つと表現の幅が広がります。

楽器のレイドバック|ギター・ベース・ドラム・ピアノ・DTM

レイドバックは歌だけでなく、楽器の演奏でもよく使われる言葉です。バンドでは、どの楽器がどれだけ後ろに寄るかの組み合わせで、全体のノリが決まります。歌う人にとっても、伴奏の楽器がどこにタイミングを置いているかを知っておくと、自分の歌をどこに置けばよいかがわかりやすくなります。

ドラムのレイドバック

ドラムはバンドのタイミングの基準を作る楽器なので、ドラマーのレイドバックは曲全体のノリを大きく左右します。よく使われるのは、キックとハイハットはジャストで刻み、2拍目・4拍目のスネアだけをわずかに遅らせる方法です。テンポが遅くなったようには聞こえず、ビートの重心だけが後ろに下がって、ゆったりした重いグルーヴになります。ネオソウルのドラマー、クエストラヴ(Questlove)は、ディアンジェロの作品でビートの後ろぎりぎりに音を置く演奏をし、その独特のノリは多くのドラマーの手本になりました。

ギター・ベースのレイドバック

ギターでは、コードのカッティングやリフをビートの少し後ろで弾くと、肩の力が抜けたブルージーな雰囲気になります。エレキギターのソロでも、フレーズの入りを一瞬待ってから弾き始めると、「歌うような」余裕のあるソロに聞こえます。アコースティックギターの弾き語りでレイドバックを使う場合は、ギターのストロークはジャストに保ち、歌だけを後ろに置くと、リズムが崩れにくくなります。

ベースはドラムのキックと一緒にビートの土台を作る楽器です。エレキベースの音の出だしをキックよりわずかに後ろに置くと、ノリに粘りが出て、ファンクやソウルらしい重心の低いグルーヴになります。ただし、ベースが遅れすぎるとバンド全体がもたついて聞こえるので、ドラムとよく聴き合って加減を決めます。

ピアノのレイドバック

ピアノでは、左手の伴奏をジャストで刻み、右手のメロディーをわずかに遅らせて弾くと、歌うようなレイドバックが作れます。ジャズピアノのバラードやゴスペル、R&Bの弾き語りでよく使われる表現です。クラシックのピアノ演奏にも、テンポそのものを揺らすルバートという表現がありますが、レイドバックはテンポを揺らさずにタイミングだけを後ろに置く点が違います。

バンドで楽器ごとに音を置く位置の一例 ジャストの拍 キック スネア ベース 歌 基準を刻む 少し後ろ わずかに後ろ いちばん後ろ
キックで拍の基準を刻み、スネア・ベース・歌を少しずつ後ろに置くと、全体がレイドバックしたノリになる(一例)

図はあくまで一例で、どの楽器をどれだけ後ろに置くかは曲やバンドによって違います。大切なのは、誰かが基準を保ち、その上で他の楽器や歌が後ろに寄るという関係です。全員が一緒に遅れると、レイドバックではなくテンポが落ちただけになります。楽器を使わず声だけで演奏するアカペラでも同じで、ベース役やボイスパーカッションが基準を保ち、リードボーカルが少し後ろで歌うと、ゆったりしたノリが生まれます。バンドで演奏するときは、まず誰が基準を刻むかを決めておくとまとまりやすくなります。

打ち込み・DTMでのレイドバック

打ち込み(DTM)では、ノートをグリッドにぴったり合わせるクオンタイズをかけると、すべての音がジャストになります。レイドバックを作るには、スネアや上物(メロディー・コード)のノートを数ミリ秒〜数十ミリ秒ほど後ろにずらしたり、DAWのグルーヴ・テンプレートやスウィング量の機能を使ったりします。歌を録音したあとに、ボーカルのトラック全体をわずかに後ろへずらしてノリを調整する方法もよく使われます。ずらす量は曲のテンポによって変わるので、数値を決め打ちせず、耳で聴いて心地よい位置を探すのがコツです。

レイドバックが聴ける曲・名盤・アーティスト

レイドバックの感覚は、文章で読むより実際に聴くほうがずっと早くつかめます。ここでは、レイドバックという言葉と結びつけて語られることの多い名盤・アルバムと、その聴きどころを紹介します。練習の章で紹介したように、音源に合わせて歌ったり手拍子をしたりしながら、歌や楽器がビートのどこにいるかを聴いてみてください。

ロック:エリッククラプトンとグレッグオールマン

日本で「レイドバック」という言葉が広まるきっかけのひとつとしてよく挙げられるのが、エリッククラプトンが1974年に発表した『461 Ocean Boulevard(461オーシャン・ブールヴァード)』です。薬物依存による隠遁生活から復帰したクラプトンが、それまでの激しいギター・ソロ中心のスタイルから一転し、肩の力が抜けたリズムと穏やかなボーカルを聴かせたアルバムで、当時から「レイドバックした」サウンドと表現されてきました。ボブ・マーリーのカバー「I Shot the Sheriff(アイ・ショット・ザ・シェリフ)」はクラプトンの代表曲のひとつで、レゲエのゆったりしたノリをロックに取り入れた一曲です。

オールマンブラザーズバンドのボーカリスト、グレッグオールマンが1973年に発表した初のソロ・アルバムは、タイトルそのものが『Laid Back』です。R&Bやソウルの影響を感じさせる、ゆったりと深い歌声が聴ける作品で、代表曲「Midnight Rider」の再録音も収録されています。

ソウル・ヒップホップ・ジャズの名盤

アーティスト作品聴きどころ
ディアンジェロ(D'Angelo)『Voodoo』(2000年)クエストラヴのドラムを含め、バンド全体がビートの後ろぎりぎりに音を置く、ネオソウルの代表的なアルバム
J・ディラ(J Dilla)『Donuts』(2006年)クオンタイズに頼らない、よれた後ろ気味のビート。ヒップホップのトラックのレイドバックを知る入口
デクスターゴードン(Dexter Gordon)『Go』(1962年)テナーサックスがリズム隊の後ろでゆったりとフレーズを歌わせる、ジャズのレイドバックの好例
J・J・ケイル(J.J. Cale)『Naturally』(1971年)ささやくような歌と力の抜けたギター。クラプトンもこの人の曲を取り上げている

上の名盤に共通するのは、演奏がうまい人ほど力を抜いて、ビートの後ろで余裕を見せていることです。ブラック・ミュージックの歌手やラッパーの多くも同じ感覚を持っていて、最近のR&Bやヒップホップの曲でも、ボーカルが伴奏の少し後ろにいる例は数多く見つかります。

聴くときのポイント

  • スネアと歌の関係を聴く:2拍目・4拍目のスネアに対して、歌の言葉がどこに来ているかに注目します。
  • 手拍子をしながら聴く:ジャストで手を叩きながら聴くと、歌や楽器が後ろにいるのが体でわかります。
  • 同じ曲のカバーと比べる:同じ曲を別の歌手が歌ったバージョンと聴き比べると、ノリの違いがはっきりします。

気に入った曲が見つかったら、その曲のワンフレーズを何度も聴き、歌い出しのタイミングをまねすることから始めましょう。自分の好きな曲がもっとも優れた教材になります。

「レイドバック」という名前の曲・バンド・雑誌

「レイドバック」は響きのよい言葉なので、曲名やバンド名、雑誌名、楽器ブランドの名前にも使われています。検索すると音楽用語以外の情報も多く出てくるため、ここでは音楽に関係する代表的な同名の作品を整理しておきます。

レイドバックジャーニー(キミのね/CANDY TUNE)

「レイドバックジャーニー」は、TVアニメ『ゆるキャン△ SEASON3』のオープニングテーマとして、ユニット「キミのね」が歌った曲です。キャンプを題材にした作品らしく、肩の力を抜いて旅を楽しむという「レイドバック」の意味がタイトルに込められています。MV(ミュージックビデオ)は『ゆるキャン△』のモデル地で撮影され、アイドルグループのCANDY TUNE(キャンディーチューン。愛称「きゃんちゅー」)が出演しました。

その縁で、CANDY TUNEによるカバー版「レイドバックジャーニー」が2024年6月に配信され、同グループの1stシングルCDにも収録されました。歌詞は著作権があるためこの記事には載せません。歌詞やライブでのコール(掛け声)、ギターのコードを知りたい場合は、公式の配信サービスや歌詞を正規に掲載しているサイト、公式の楽譜を確認してください。

デンマークのバンド「Laid Back(レイドバック)」

Laid Back(レイドバック)は、1979年にデンマークのコペンハーゲンで結成された、エレクトロニック・ポップのデュオです。メンバーはジョン・グルドバーグ(John Guldberg)とティム・スタール(Tim Stahl)の2人で、1983年のシングル「Sunshine Reggae(サンシャインレゲエ)」がヨーロッパで大ヒットしました。そのB面に収録された「White Horse(ホワイトホース)」はアメリカでダンス・チャートの1位になり、こちらも代表曲として知られています。バンド名のとおり、ゆったりしたレゲエ風のリズムが特徴の曲です。

雑誌『ギター・マガジン・レイドバック』

『ギター・マガジン・レイドバック』は、リットーミュージックが刊行している大人世代向けのギター雑誌です。検索では「ギターマガジン レイドバック」と表記されることもあります。「もうあくせく弾くのはやめて、ゆっくり楽しくギターを弾こう」という意味をタイトルに込め、懐かしのギター・ヒーローや名器、往年の名演を特集しています。号ごとに番号(Vol.)が付いた不定期刊行の雑誌なので、最新号や次号の発売日、特集の内容はリットーミュージックの公式サイトで確認してください。

楽器ブランド「LaidBack」

エレキギターやエレキベースには「LaidBack(レイドバック)」というブランドもあり、島村楽器などの楽器店で販売されています。「力を抜いてリラックスして弾ける」ことを掲げた、初心者にも手に取りやすい価格帯のモデルが中心です。モデルごとの仕様や評判、価格は変わることがあるので、購入を検討する場合は販売店の最新情報を確認しましょう。

このように同名の作品はさまざまですが、どれも「くつろいだ」「肩の力が抜けた」という元の意味からつけられた名前です。言葉の意味を知っておくと、曲名や雑誌名に込められた狙いも見えてきます。

日常会話・ファッションでのレイドバックの使い方と例文

音楽以外でも、レイドバックは日常的に使われる言葉です。日本語では「レイドバックな〜」「レイドバックした〜」という形で、人・場所・物の3つを形容するのが基本の使い方です。ここでは英語と日本語の例文を交えて、自然な使い方を紹介します。

人・性格を表す

人の性格や態度について使うと、「おおらか」「のんびり」「細かいことを気にしない」という意味になります。ほめ言葉として使われることが多いですが、文脈によっては「ゆるすぎる」というニュアンスになることもあります。英語では、ペットの犬の性格を紹介するときにも a laid-back dog(おっとりした犬)のように使われます。

  • He's very laid-back about deadlines.(彼は締め切りにかなりおおらかだ)
  • She has a laid-back personality.(彼女はのんびりした性格だ)
  • 「新しい上司はレイドバックな人で、職場の雰囲気が柔らかくなった」

場所・雰囲気を表す

場所や雰囲気に使うと、「くつろげる」「肩ひじ張らない」という意味になります。海辺の町やカフェ、キャンプ場など、ゆったりした時間が流れる場所によく使われ、サーフィン文化と結びついた西海岸のライフスタイルを指して「レイドバックした暮らし」と表現されることもあります。最近よく使われる「チル(chill)」も近い意味の言葉です。

  • The cafe has a laid-back atmosphere.(そのカフェはくつろいだ雰囲気だ)
  • 「週末は海の近くでレイドバックした時間を過ごしたい」

服・ファッションを表す

ファッションの分野では、ゆったりしたシルエットの服、リラックスして着られる素材やデザインを「レイドバックな服」「レイドバックスタイル」と呼びます。ワイドパンツやゆるいTシャツ、サンダルなどを合わせた、海辺や休日を思わせるコーディネートが代表的です。

日常語のレイドバックが形容する3つの対象 人・性格 場所 服 おおらか のんびり くつろげる 肩ひじ張らない ゆったりした シルエット どれも「力が抜けている」が共通の意味
日常語のレイドバックは人・場所・服の3つを形容し、いずれも「力が抜けている」ことを表す

使うときの注意

レイドバックは基本的に前向きな言葉ですが、ビジネスの場で人に向けて使うと「やる気がない」と受け取られる可能性もあります。目上の人の仕事ぶりを形容するときは「落ち着いている」「余裕がある」など、日本語で言い換えたほうが無難です。音楽の話題で「この歌、レイドバックしてるね」と言う場合は、「ビートの後ろでゆったり歌っていて心地いい」というほめ言葉として伝わります。

よくある質問

レイドバックとリズムが遅れることは何が違いますか?
レイドバックは、拍の位置を正確に感じたうえで、意図して音をわずかに後ろに置く表現です。テンポは保たれ、フレーズの終わりで拍に戻ります。リズムが遅れるのは、拍を見失ってずれが積み重なり、伴奏から置いていかれる状態です。録音して聴き返し、落ち着いて聞こえるか、もたついて聞こえるかで見分けられます。
レイドバックはどれくらい遅らせればいいですか?
決まった数値はありません。テンポや曲調、楽器によって心地よい位置が変わります。目安は、ジャストの音と並べたときに「わずかに後ろ」と感じられる程度で、音符1つぶん遅れるほどずらすと別のリズムに聞こえてしまいます。練習ではメトロノームとの「ずれ」がぎりぎり聞き取れる程度から始めましょう。
カラオケでレイドバックすると点数は下がりますか?
カラオケの採点はガイドメロディーとのタイミングを判定する機種が多いため、大きくずらすとリズムの評価が下がる可能性があります。わずかなレイドバックなら影響は小さいですが、採点を重視するときはジャストで歌い、表現として楽しみたいときに使い分けるのがおすすめです。
初心者でもレイドバックは練習したほうがいいですか?
まずはジャストで正確に歌えるようになることが先です。ジャストが安定すると、前ノリやレイドバックを意図して選べるようになります。リズムに不安がある段階でレイドバックだけを練習すると、ただ遅れる癖がつくことがあるので注意しましょう。

まとめ

レイドバックとは、英語 laid-back(くつろいだ・のんびりした)から来た言葉で、音楽ではビートのジャストより少し後ろにタイミングを置いて、ゆったりした余裕のあるノリを作ることを指します。この記事の要点をまとめます。

  • 前ノリは勢い、ジャストは整然、レイドバックは余裕や色気を生む。テンポは変えず、音の置き場所だけを後ろに寄せる
  • 歌では、拍を体で取り続け、フレーズの入りを遅らせ、終わりで拍に戻る。力を抜いて声量を上げすぎない
  • 練習は「ジャストを固める → 2・4拍目を感じる → ずらして聞き分ける → 曲で歌って録音確認」の順に
  • ヒップホップ、R&B、ジャズ、レゲエ、ブルースで特によく使われ、ドラムのスネアやベースの置き方がバンド全体のノリを決める
  • 日常会話では、人の性格・場所の雰囲気・ゆったりした服を形容する言葉として使われる

レイドバックは、リズムを正確に感じる力があってこそ使える表現です。自分の歌が遅れているのか、うまく後ろに置けているのかは、一人では判断しにくいものです。プロのボイストレーナーに聴いてもらえば、リズムの癖や力みをその場で指摘してもらえます。体験レッスンのある教室も多いので、ボイストレーニング教室を探すページから、通いやすい教室を探してみてください。